「あるもの」をつなぐ No.8 小林シンイチロウ
解決志向チームへの道2〜チームの一人一人をチームの力でささえ続けよう
今回は部下のAさんです。Aさんは過去のブログでも登場しています。ぼくはAさんを次期マネージャー候補としています。社内では「なんでAさん?」みたいな反応をされることもありますが、実は仕事ができるんです。
そんなAさんが昇格に恵まれなくても、腐らずに頑張り続けている理由(わけ)をお伝えできればと思います。少し長くなりますがお付き合いください。
<なかなか昇格できないAさん>
Aさんの年齢はそれなりなのですが、階級が低くとどまっています。低く止まっている理由は、前部門での良くない評判が昇格を阻んでいるためです。
Aさんは前部門で遅刻や欠勤が多かったのです。それによって人事的な評価が問題となるのは仕方ないと思います。それ以上に怖いなあと思うのは周囲の評判です。周囲の評判は根強く残り、後の評価まで影響を与えてしまうようです。
さらに良くない評判を助長しているのが「しゃべり続けてしまう」ということです。打ち合わせの場でも時間や周囲の反応に構わず、考えていることをしゃべり続けてしまいます。そうした行動が、協調性不足や自身を制御する力の不足というレッテルとなっていたようです。
<「しゃべることが止まらない」は長所(リソース)だった!>
Aさんはしゃべり出すと止まりません。最初に話そうと思ったことから話がそれていって、他の話に転々と移り、止めどなく話し続けます。
最初の頃は終わるまで黙って聞いていたのですが、話の途中で割って入って話を止めるようになりました。何度も続くので「相手の反応を見て話をしてください!他の人が話す時間のことも考えていください!」と注意することもしばしばありました。
しかし、昨年の成果報告会の中で私の認識は一変しました。成果報告会は月に1回あるのですが、他者の発表に対してコメントを求められます。そのためにしっかり話を聞いてコメントするポイントを考えます。結構プレッシャーなんです。チームの発言がない時は、「小林さんのチームはやる気が伺えません」と注意を受けます。
ある月の成果報告会。ぼくが内容を知らない案件の報告がありました。さらに、ぼくは理解するのに時間がかかるタイプですから、その場で報告を聞いてコメントを求められても言葉がでてきません。
「やばいなあ、ぼくがわからない報告じゃあ、メンバーもわからないだろうな・・質問もコメントも浮かばない・・冷汗」
そんな時、Aさんがリモート上で挙手をし、いつものように話しはじめたのです。Aさんは報告内容を理解したようで、それなりのコメントをしてくれました。
「助かったあ・・Aさん、ありがとう」
この時「ハッと」しました。Aさんがしゃべってしまうのは実は強みであって、チームにとって大切なリソースであると気づいたのです。ぼくのチームにとって大事なリソースじゃないか!
成果報告会後にAさんに「コメントしてくれてありがとうございます。ぼくは内容が理解できなかったので大変助かりました」と伝えると、とてもうれしそうに「いえいえ、だれかがコメントしないと困りますもんね」と謙虚な感じで応えてくれました。
この件以来、少しイライラすることはあってもAさんの話を途中で止めることはしていません。話をしてくれたことに「ありがとうございます」とお礼を言う様にしています。
<Aさんの昇格がダメになった・・>
Aさんは21年上期に全社イベントの企画・運営をやり遂げました。文句なしで高評価をつけています。これで昇格条件が整い、上長も承認をしたのですが、他部門を含めた相対評価の中で昇格選考から漏れてしまいました。
上長からは「残念だけど、他部門を含めた事情の中でAさんの昇格は無くなった。小林から伝えてくれ」と言われました。
「え?!どういうこと?」
口には出しませんでしたが、信じられませんでした。Aさんの暗い顔が浮かびます。しかし会社の決定ですから受け止めるしかない。
ぼくもショックを受けたのですが、それ以上にAさんはショックだと思います。ショックどころか給与が変わるわけですから、生活がかかっています。正直どうやって伝えようかめちゃくちゃ悩みました。
<自分を偽らずにどう伝えるか>
Aさんに昇格できなかったことをどうやって伝えようか。
「会社の人事評価とはそういうもので、いくら頑張ってもダメな時はダメなんだよ、そういうもんだよ」と、巷で何度も聞いてきた様なことを機械のように伝えるか。
「チャンスはまだあるよ!これからもがんばろう!」と人ごとのようにあっけらかんと伝えるか。
「すべては私の責任です。力不足でした。申し訳ありません」と開き直るのか。
どれもしっくりこない。自分が伝えたいことを偽っている気がしました。昇格結果を伝えるというのは本当に難しいです。
会社のフロアで打ち合わせの後に時間をとってもらい、昇格の結果を話しました。部門としては昇格で評価をつけて提出したけど、ある事情があって部門間の相対評価で昇格者に残らなかった、と正直に伝えました。
「えっ・・・そうなんですか・・」
動揺した様子で宙を見回しました。そしてうつむいてしまい涙をすする音がしました。ぼくも悔しさが込み上げてきました。Aさんは小さな声でつぶやきました。
「今回チャンスだったのに・・もうあんなに頑張れませんよ・・」
Aさんが頑張ってきたのはぼくも近くで見てきました。もう頑張れない・・そんな気持ちになるのも当然だと思います。
「ぼくも部門長もこれまで通りバックアップするから次も一緒にがんばろう」と伝えることが精一杯でした。もう少しマシなことが言えなかったか。もっと相手に寄り添った言葉はなかったか。情けない気持ちでいっぱいでした。
せっかく勢いにのって仕事を進めてくれていたのに、これでは急ブレーキどころか逆走しかねないなと心配していました。Aさんにとって昇格はとてつもなく大きなモチベーションであり期待だったからです。
<チームがAさんのモチベーションをささえる>
Aさんが昇格できなかったことはとても残念でした。同じ時期、Aさんが取り組んでいたプロジェクト「アウトプットを向上させる型づくり」がうまく回って成果報告会でも発信している時期でもありました。
Aさんをリーダーとしてチームメンバー全員で意見を出し合って作ってきたもので、全員が思い入れのあるテーマです。Aさんが部内や部外へプレゼンするたびに、「Aさん、プレゼンすごくよかったです!」とか「資料もわかりやすかった!」とか「型を広げていきましょう!」などOKメッセージを浴びていました。
Aさんはしっかり主役を演じています。主役を支えているのはチームメンバーや周囲のOKメッセージという歓声なんだと思います。
<次期テーマへ向けて>
21年末までにプロジェクトを完了させてくれました。周囲の評判は高まっていると思います。毎期初、ぼくはマネジャー候補にAさんを挙げますが、部門長から「なんでAさん?」と言われることもなくなりました。そういえば、遅刻や欠勤もほぼなくなっています。
次のテーマについてAさんと相談しました。「次期テーマだけど、上期やってくれたテーマをこんな風に進化させるのはどう?Aさんやってくれる?」と聞くと、
「私がやります!」
と快諾いただきました。こうしてまたAさんはまた主役を演じる演題を手に入れました。すでにプロジェクトは進行中。先日、成果報告会があり、部内メンバーの反応も上々でした。Aさんの成果は部内にとどまらず、さらに広げていきます。これはぼくの仕事です。
Aさんはチームの力を使って周囲の評価を高めています。これまで昇格を阻んできた印象を自ら変化させています。
<Aさんに聞いてみた>
Aさんは昇格の件についてどう思っているだろう?Aさんにとってぼくのチームはどんな存在なんだろう?と思ったので本人に聞いてみました。案の定、
「そんなこと聞いてどうするんですか?どうしたんですか小林さん?」
とか言われてしまいましたが、話をしてくれました。ぼくが望むチームに近い感触を得たのでほっとしています。2年前には考えられなかったなあ。組織もちゃんと成長するんですね。
ぼく「昇格の件でいろいろあったけど、いまこうして頑張っていられるのは何があるからですか?」
Aさん「上司からも次回はがんばろうと言葉をもらったことがモチベーションとしてあります。へこたれてもしょうがないじゃないですか。あと家族が協力や応援してくれる様子をみると、仕事がんばらなきゃと思う。だけど、やっぱり結果がでないと悲しい。これで会社人生終わったということではないです。昇格できなかったのは困ったし嫌でしたが、忙しい時期でしたので仕事で気を紛らわせました。」
ぼく「このチームはAさんにとってどんな存在ですか?役立っている?」
Aさん「チームは一緒に良いものをつくっている仲間です。業務上困っていることについてアドバイスもらったりするのはありがたいです。小さなことかもしれませんが、実はすごく大きいのですが、いつでも相談できる仲間です。うちのチームはとても風土がよいと思います。それは配慮されているからだと思います。」
Aさん「だけど、チームの人に昇格の件で落ち込んでいるとかは話せない。それ以外のことで相談できることはとても大きい。」
<おわりに>
昇格は機がきっと来るはず。ぼくにできることはメンバー一人一人をささえるチームをつくること。ささえ続ければ、メンバーは落ち込んでもくさらずに、また立ち上がって舞台の上で演じ続けてくれるはず。Aさんはそのことを教えてくれました。
チームの一人一人をチームの力でささえ続けよう!
小林さんへ
連チャンで出ましたね。嬉しいです。
成果報告会後の小林さんからのお礼に対するAさんの言葉が全てを物語っているように思いました。
『とてもうれしそうに「いえいえ、だれかがコメントしないと困りますもんね」と謙虚な感じで応えてくれました。』
阿吽の呼吸というか、Aさんも小林さんと同じ思いでその場に挑んでいたのがよくわかります。やはりチームですね。
さらに大切にしたいことは、Aさんのその行動に対する感謝の思いを小林さんは胸の内にとどめず、きちんと声にしてAさんに伝えていらっしゃることです。
Aさんなら言わなくても伝わっているとも思いますが、少しも手を抜かずきめ細かな配慮で「ありがとう」を伝えておられます。きっと伝えずにおられなかったのでしょうが、この一言が心を通わせるための大切な行動であると思いました。見習いたいところです。
話は変わりますが、仏法の教義に『蘭室(らんしつ)の友』というのがあります。この場合の蘭は高徳な人をさしますが、部屋の中に蘭の花があるとその香りで部屋にいる人は皆んな感化され同じ徳を身に付けるというものです。
小林さんご自身、あるいはSF的な考え方が基となりKさんやAさん、チームの人に良い影響をもたらしたという考えです。チームの中にはたくさんのOKメッセージが飛び交ってるようにも。
勝手な想像ですがチームの外にも広がりつつあるのかもしれませんね。
次回のコラムも楽しみにしております♪
おっくんへ
コメントありがとうございます。
そうなんです。Aさんが同じ思いで成果報告会に参加いただいてたのはとてもうれしかったです。『蘭室(らんしつ)の友』を目指してがんばります!
こんな上司がいるんだということに感激です。ちょっとドラマのよう。
私自身が成果は追うけど協調性が低いという欠点を持つ身で、上司次第で仕事の結果がかなり違います。出会いという運に任せるのではなく上司も部下もSFを理解して人と接することはお互いの心にも成果にもこんなにもプラスがあると改めて思います。理解して実践すればドラマではなくリアルにできる・・・希望になります。
春の気配さん、コメントありがとうございます。
上司との相性で成果って変わりますね。でも、
「出会いという運に任せるのではなく上司も部下もSFを理解して人と接することはお互いの心にも成果にもこんなにもプラスがある」
は、その通りだと思います!大丈夫です。ちゃんとリアルになります。