SF伝道者の四方山話 No.11 青木安輝

起こったことは全て最高さ!

僕の著書「解決志向のマネジメント」やSFセミナーでお伝えしてきた内容の中で、もともとSFのコンテンツではないのに、多くの人がよく思い出したり、実際口にして活用してくださる人気フレーズがある。それは「起こったことは全て最高さ!」である。場合によっては「起こらなかったことは起こらなかったことが最高なのさ!」と、逆の角度からの表現になることもある。SF実践者同士の会話で、一方がなんらかの「思い通りにならなかったこと」について話すと、もう一人が「起こったことは最高だから(きっといいようになるよ)!」と慰め、「そうだね」と受け入れる、と言った会話をしているのをよく耳にすることがある。今日はこのフレーズにまつわる四方山話。

この出典は、アシュタバクラという聖者とジャナカ王が主人公のインドのスピリチュアルな寓話だ。初めて知ったのは、40年ほど前にヨガ瞑想ワークショップの通訳をした時。その寓話を通訳する中で、講師が“What happened happened for the best.”と言ったのを直訳するとぎこちなくなりそうなので、とりあえず「起こったことは全て最高さ!」と単純に言い直した。不思議だったのは、それを口にした瞬間に身体がフッと軽くなったような気持ち良さを味わったことだ。それは今でもよく覚えている。

アシュタバクラの話しは、「人間万事塞翁が馬」と同じく「目の前の災難が後の幸運につながっていく可能性」があるというストーリーで、「なるほど!」と気持ちよく納得したので、その後は出だしの2語、what happenedを思い出すだけで、失敗や不運なことがあっても、「ま、こうなったことできっといいこともあるさ」と、否定的感情をあまり長く引きずらないで済んだような気がする。40年間何度も何度もこのフレーズに救われてきたわけだ。例えば:

「ある人と関係をこじらせてしまった」→「おかげでより深い配慮をするようになった」

「ある選考会で自分が選ばれなかった」→「より自分に適した活躍場所が見つかった」

「金融の知識がまったく身に付かなかった」→「余計な欲望を持たずに済んだ」

「手術の失敗で部分摘出が全摘になってしまった」→「転移の心配が減って良かった」

「やろうと思っていることが未だ実行できていない」→「もっと良いタイミングが来る」

ただ、小さなことならすぐ“what happened”を思い出すだけで、「よし、次いこー!」と思えるけど、ちょっと大きなことになると、上に書いたように「→」の左から右にすぐ移行できるわけではない。実際には、左側の事象が起こって様々なモヤモヤ(後悔、嫉妬、自己嫌悪、怒り、失望、孤独感、他)を感じて意気消沈する。そして、ある瞬間に「起こったことは・・・」と思い出して、色々考える内に右側の“出口”が見つかると、40年前の「身体がフッと軽くなった」感覚が蘇って救われる。しかし、その後またモヤモヤが戻ってくることだってある。で、また”what happened”を意識的に思い起こして自分を救う。そんなことを繰り返すわけだ。

もしかすると、歳を重ねるごとにこの”魔法の呪文”の重要性が高くなっているかもしれない。若い頃は、失敗しても違うやり方でまた同じ目標を目指すことができる感覚があったのが、だんだん「今ダメだとこの目標はもうあきらめるしかない」という感覚になる方が多くなってきた。こう文字にすると、なんだか年寄り臭くてイヤだけど、ある意味これも「起こったことは・・・」の枠組みで捉えてみると、より等身大の望みを持てるチャンスが増えて、人生の味わいが違った角度から増していくということなのかもと思える。

言葉尻にこだわるなら、「必ず『全て』が『最高』というのはあり得ない!」と冷静に考えることもできるし、その方が理性的には“正しい”のかもしれない。しかし、どのような意味で最高なのかがわかってから最高と言おうとすると、結局比較対照するものを考え過ぎて、よりつまらない結論になっていくことが多い。理屈抜きでまず「最高!」と言ってしまうところに意味があるのだ。バカボンのパパは「これでいいのだ!」と無条件で言ってしまうところが偉大なのだ(笑)。生命は自分の生きる意味や価値が“わかって”から生きるのではなく、ただ自分が自分らしく生きようとするときに意味や価値が生まれてくるという順番なのだと思う。

この短いフレーズで、自分を貶めるような心の中の否定的な言葉と感情にエネルギーを与えずに、さらっと自分を前に向かせるための意識の回路を手に入れたことは本当にありがたいと思っている。

このフレーズを皆さんが覚えて活かしてくださるのはなぜかと考えると、僕自身がこのフレーズに何度も何度も救われてきたので、多分お伝えする時に、躊躇や迷いがなくストレートなエネルギーで伝えることができているからだと思うし、色々なことがあるけど今日も明日も「生きていく」ためのエネルギーを自分の内側から汲み上げるために、人間にとって必要な普遍的な内容だからと思っている。

最後に、ご存じの方も多いと思うけど「無名兵士の祈り」を紹介しておきたい。人生の中で思った通りにいかなかったことに意識が奪われてしまう時に、僕はこの祈りに目を通すと、「起こったことは全て最高さ!」と思えてくるのです・・・。

「無名兵士の祈り」  

大きなことを成し遂げるために力が欲しいと神に求めたのに
謙遜を学ぶようにと弱さを授かった

より偉大なことが出来るように健康を求めたのに
より良きことが出来るようにと病弱を与えられた

幸せになろうとして富を求めたのに
賢明であるようにと貧困を授かった

世の人々の賞賛を得ようと成功を求めたのに
得意にならないようにと失敗を授かった

人生を享楽しようとあらゆるものを求めたのに
あらゆることを喜べるようにと生命を授かった

求めたものは一つとして与えられなかったが
願いは全て聞き届けられた

神の意に沿わぬものであるにもかかわらず
心の中の言い表せないものは全て叶えられた

私はあらゆる人の中でもっとも豊かに祝福されたのだ

SF伝道者の四方山話 No.11 青木安輝” に対して9件のコメントがあります。

  1. きたはたりょうこ より:

    いろいろモヤモヤしていた最近でしたが、ブログを拝読し、忘れていたことを思い出しました。
    「無名兵士の祈り」初めて知りました。
    声を出して読んでみたら、涙がこぼれました…
    変なこと書いてるとわかっているんですが、お伝えしたくなって。
    ありがとうございます。

    1. 青木安輝 より:

      きたはたさん、コメントありがとうございます。ぜんぜん”変なこと”じゃありませんよ。お伝えいただき嬉しいです。「無名兵士の祈り」は僕も読むといつもグッときます。

  2. おっくん より:

    青木先生へ

     コラムを拝読しながら、自分や他人の営みを振り返ってみると人間って欲と執着の塊なんだなあって思ったりします。それは良くも悪くも当然なんですねどね。
     青木先生はどれほど多くのチャレンジをされてきて、どれほど沢山の苦虫を味わってこられたのだろう。顧客の悩みまで含めると我々の想像ではないのでしょうね。恐らくその積み重ねがこの名言に生命を与え、周りの人にも勇気を与えているのだと理解しました。
     もちろん、それ以上の喜びも掴んでらっしゃるかと。

     私自身、この歳になって新たな分野に挑戦することで、視野を広げることにつながってはいると感じていますが、正解という答えが見えにくいのが現実です。
     しかし、思い通りにならない結果であっても、「諦めずやってみよう」と思える人間の底力を信じてみようと思いました。これからも応援よろしくお願いいたします😁

    1. 青木安輝 より:

      おっくん、コメントありがとうございます。「欲と執着」大ありですねえ。謙虚でいたいなんていう欲もあるしね(笑)。そういうの全部「生命力」と思うようにしてます。最近は、自分と仲良くできればOKと思うのが居心地よいです。

  3. シオタリョウコ より:

    この短いフレーズで、自分を貶めるような心の中の否定的な言葉と感情にエネルギーを与えずに、さらっと自分を前に向かせるための意識の回路を手に入れたことは本当にありがたいと思っている

    本当に、ほんとうに、ホントに!そうだな…と、心に沁みました。
    このフレーズをセミナーで聞いたときの(ある意味)驚きとハッとした感覚は今でも鮮明に覚えています。辛かった過去の出来事が今の生き方や仕事に繋がって過去が全く違うものになり、感謝さえするという体験をすると、その時に”自分を前に向かせる意識の回路”があれば人生楽しい時間をもっと味わえるな…と、思っています。

    最近思うのは、SFを学んでから色々なことが”愛おしく、尊い”ものに思えること。
    なぜなら、起こった事は全て最高だからです。フフフ

    1. 青木安輝 より:

      シオタさん、コメントありがとうございます。
      3種類の「ほんとうに」を書いてくださったのを見てニンマリしてしまいました。

      色々なことが”愛おしく、尊い”という風に思える境地は素敵ですね。らぶり~、ラブリー、LOVELY♪

      そろそろ次のゲスト投稿お待ちしてますよ~(^^)

  4. 深山敏郎 より:

    遅ればせながら拝見しています。そのとおりですね。青木さんに賛成。

    1. 青木安輝 より:

      深山さん、ご賛同ありがとうございます。

  5. 深山敏郎 より:

    こちらこそ、有り難うございます。

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