SF伝道者の四方山話 No.5 青木安輝

最近やりがいを感じている仕事

今年の「ソリューションフォーカスNEWS」1月23日号に「“講師満足度”100%以上の研修」という記事を掲載しました。超長文だったので憶えてらっしゃるかもしれません(笑)。ある自治体で実施した「完全リモート型SF研修」の成功事例でした。

その記事の中でも書きましたが、受講者レポートの中に今までにはなかったような素晴らしい受講コメントが見られたり、全員がソリューションフォーカスの内容を確実に理解してくれたと思える内容のレポートを書いてくれるので、ものすごく興奮しました。しかし、この記事の時点では、まだ1事例だけだったので、「この成功事例は『たまたま』運が良かっただけなのか、それともこのやり方に大変有効な『普遍性』があるのか、それはまだなんとも言えません。」と書いていました。

その後、今日までに同種の研修を数回実施でき、どの回も同程度の成功の感触を得られたので、これはもう「たまたま」ではなく、そこには「有効な普遍性」があるのだと確信するようになりました。現在進行中の研修を担当している方からのメールでこんなお言葉もいただきました。

「ご指導いただいておりますソリューションフォーカス研修の受講生と先日話をする機会がございまして、これまで受講したどの研修よりも内容が面白く、非常に充実しているということを申しておりました。」

ここだけ引用するとお世辞に見えてしまうかもしれませんが、このメール全文からこの担当者の方の喜びが伝わってくるメールでした。

記事タイトルの「最近やりがいを感じている仕事」とは、この形式の研修の受講者レポートへのコメントを書く仕事です。少なくても10ページ以上、多いときは20ページ近くになります。受講者レポ―トの内容を数多く引用しながらなので、僕の実際のコメントはその半分くらいの量です。つまり講師コメントの中で受講者の皆さんと文字ダイアログをしているような感じです。

さて、前置きが長くなりました。この記事では、この研修形式の「有効な普遍性」とは何だと考えているのかをお伝えしたいと思います。

では、まずこの研修の形式を再確認しておきましょう。リモート研修も色々な形があります。

講師が遠隔で講義するのを受講生が一つの部屋に集合していて大きな画面を見ながら聴講する形式もあれば、全員が各自の端末の前にいてZOOM画面の中に一人ひとりの顔が小さな枠に入って見える形式や、その他色々あります。

その中で、上記の素晴らしい受講者レポートが返ってくるのが、「完全リモート方式」です。これは録画された講義動画を受講者各自が自分の都合の良い時間に視聴して、その後4名程度の小人数で対面で集まって自主的にコミュニケーション実習をする形式です。そして、実習をした後でレポートを提出してもらい、それに対する講師コメントを配信します。レポートは全員分が匿名で配信されて誰もが読むことができます。動画視聴も実習も一回が90分前後で、「動画視聴→小グループ実習→レポート提出→講師コメント」のサイクルを2カ月くらいの期間で3回繰り返します。私は最後まで受講生の顔を見ることも声を聴くこともないという意味で「完全リモート」と呼んでいます。受講者レポートを読むことと、それにコメントをつけることが唯一の接点です。

さて、私が考えるこの研修の“普遍的”成功要因です。

【その1】<自分がリラックスしたスペースでコンテンツに接するから>

多くの方が「自分のペースで動画を観れるのが良い」「聞き逃してしまったり、すぐに理解できないと思ったことは再生し直せるのが良い」とコメントしてくれてます。で、私は思いました。もしかしたら「対面集合」という従来の学校形式の教育って、わざわざストレスフルな状況をつくっているのではないか?各自が「自分でいられる」スペースの中で研修コンテンツに接する方が、「なるほど、そりゃそうだよな」と納得しやすいのではないか。

僕の場合、セミナーに参加する時って、かなり緊張するし、周りの人に気を遣います。それから講師からどう見られるかが気になって、「いい生徒」でいようとするようなプレッシャーを自分にかけてしまいます。ところが自己視聴で動画を観る場合、極端なことを言えば、自分の部屋で見るならパジャマでお酒を飲みながらでも良いわけです。そこまでいかなくても、お茶を飲んだり、お菓子を食べながら周りの目を一切気にしない楽な姿勢で観るというだけでもだいぶ違うと思います。余計なストレスがない分、心の扉は開いた状態になりやすいのです。

それから自由にストップ、再生、巻き戻し再生ができるという「コントロール感」が持てることも大きいでしょう。途中で考えごとをしたくなったら、一時停止すればよいし、聞き逃してしまったことが気になったらすぐにもう一度聞くことができます。集合研修で、講師に「ちょっと考えごとしたいのでストップしてください」も「聞き逃したので、今のところもう一回そのままリピートしてください」も言えないですよね。そして、講師は勝手に先に進んでしまいます。だから聞き逃してはならないという緊張感を長時間強いられるわけですが、これは受講生の心の空容量を相当少なくしてしまうのではないでしょうか。ところが、自分の自由なペースでインプットできるとわかっていると、もっともリラックスした状態で聴けるので集中します。

ただし、聴くだけで終わりだと、緊張感がなく眠ってしまうかもしれません。この研修では、その後でグループ実習をすることになっているし、さらにはレポートも提出することになっていて、3回のレポートをすべて提出することで履修したことになるので、動画の中身を自分なりにちゃんと受け取っておくことは必要だと認識して視聴することになります。だから、リラックスした状態ではあっても、コンテンツへの集中度は確保されるのです。

そして、講師である僕自身も動画提供の方がずっとストレスフリーなのです。研修の際、多くの顔(興味をもってくれている顔もあれば、無関心に見える顔もあるし、元気な顔もあれば、疲れた顔もある、etc.)を目の前にしながら話すというのは、話すことにリラックスして集中できる行為ではありません。「あそこに眠そうな顔をした人がいるから、少し声を大きくしてそっちに向けてみよう」だとか、「あの人はとてもよく頷いてくれているから、指名して発言してもらおう」などと、研修進行の作戦会議と同時進行なのです。その分、僕自身が何かに気をとられて言いたいことがずれていくこともあります。ところが、講義動画を録画する行為は、パソコンに向かってだけ話しをするので、最初は違和感というか寂しい感覚があったのですが、しばらくして慣れてくると、なぜか「いつもよりノリがいいな!」と感じてきたのです。なぜだろうと考えてみると、目の前の人が「ちゃんと聞いてくれているだろうか?」という心配をしないで済むので、自分の頭の中の「話したいこと」に集中できて、快調に話が進むのです。しかも失敗したら、撮り直せばいいだけなので、言い間違えなどに関する心配もありません。

だから、講師がきもちよく言いたいことを言っている動画を、受け取る人がもっとも楽な姿勢で自分のコントロール下で視聴するというのは、最もストレスフリーなコンテンツ授受なのではないでしょうか。

わからないところがあればメールで質問できることになっていますが、今まで質問はほのいくつかしかもらっていません。多分、繰り返し再生をしたり、時間をおいて自分でいろいろ考えて解釈することで用は済んでしまうのではないかと思います。もともとソリューションフォーカスのコンテンツは、日常の「あるある」レベルに限りなく近いところで表現されているので、受講者の皆さんは質問をしたがるよりも、自分の場合はこんな体験があるとアウトプットをしたがる傾向があります。それは講師としてまさに望んでいることです。

【その2】<小人数だけで集まることの効果>

大勢が集まる研修だと、ジョークがウケて笑い声が上がったりすればとても盛り上がった感覚になります。シーンとなった時の緊張感のある空気もまたドラマチックになります。だから集合研修は一つのイベントとして非日常的なドラマなのです。そしてそのドラマが良い内容だと、そこに居て良かったという感覚が共有され、親密感や高揚感も感じられてイベントとしては成功します。それは悪いことではありませんが、イベントから時間がたつにつれて、高揚感は当然下がっていく一方なので、「あれは良かったなあ」という過去の記憶になっていきます。

研修を主催する側の人間は、「盛り上がり(高揚感)」と「研修の成功」を混同しやすいので、あの研修は大成功だったけど、なかなかそれが持続しませんねみたいな言い方をよくします。でも、研修の本当の目的はその後の行動変容ですよね。「ソリューションフォーカス研修」であれば、日常のコミュニケーションの中でそれを応用して良質のコミュニケーションを増やすこと。

そういう意味では、大人数で集まる時の高揚感はまったくないこの研修の方が目的達成度は高いのではないかと思えるのです。レポートに書かれた内容は、ソリューションフォーカスをごく当たり前に日常に応用した体験が、大きく興奮する様子はないものの喜びをもって書かれています。

非日常的なイベントの高揚感の中で体験したことは、それ自体は真正で良い体験であったとしても、そういうドラマチックなお膳立てとセットで記憶に刻まれてしまいます。だから研修の中では良かったんだけど、日常では難しい・・・という感覚を生みやすくなってしまいます。ところが、この研修では体験学習のための実習に集まるのは、たった4名程度です。しかも講師が不在、動画の記憶と手元の資料を見ながら自分たちで実習を進行するというミニ・ワークショップ形式です。

私はその小人数グループを実際に見ていないので、あくまでも想像ですが、多分そのセッティングでSFのワークをすると、かなり普通(日常的)な感覚で「これって大事だよな」と思える。つまり等身大でSFの良さを体験してもらっているような気がします。だから「これってあの時の体験に似てる」とか「今度あの人に会う時は・・・してみよう」とか、自分のいろいろな場面のことと結びつけやすく感じるのでしょう。

実習場面に講師が不在ということは、そこで良い体験をした場合に、それが自分(たち)のものであるという感覚はきっと何倍も強いのではないでしょうか。講師が上手に導いてくれたとか、悪く言えば「ノせられた」などと思うことがないのです。

【その3】<今までの研修で一番お互い何を思ったかがわかる形式>

受講者レポートは、5~7つ程度の設問に回答していただく形式になっていて、一つの回答は短ければ一行、長くても数行で済みます。長い文章をまとめる必要がありません。なので、余計なことは省いて必要なエッセンスだけが書かれていますから、読みやすいです。

そのレポートを匿名にして、全員が閲覧できるようにしていただきます。読んだ人は、自分が思ったのと同じことを思う人を見つけて、自分の思ったことに確信を深めたり、他の受講生に対する親近感を感じたりします。また、自分には思いもつかなかったようなことを書く人のコメントを読んで、新鮮な学びができたと喜びます。

次のレポートには、前のレポートの他の人の分を読んで共感した箇所を一つだけ選んでコピペして、「その理由」を書くという設問があります。そこで、自分の書いたことが引用されていたらきっと嬉しいでしょうし、次のレポートを書く励みにもなるでしょう。

講師からのコメントは、素晴らしいと思った内容を取り上げて賞賛するコメントもあれば、書かれた内容をさらに広げて考察してもらうためのコメントもあるし、それについては僕は違う考えを持っていますと率直に伝える内容の場合もあります。なるべく会話をしている雰囲気の言葉遣いで書いています。受講者の皆さんの顔も声も知らない、誰が書いたのかまったくわからない状態で書くコメントだからこそ、ある意味ソリューションフォーカスの内容に忠実で純粋なコメントになっている可能性もあります。

10数ページの「講師総評コメント」を書き終えると非常に充実感があり、また匿名ではあっても多くの人と“出会った”感覚が残ります。対面集合研修では、目の前に人がいるのに全員と話したという実感はなかなか持てません。「あの隅っこに座っていた人は難しい顔をしていたけど、本当は何を考えていたのかな?」なんて疑問が残りつつその人は接触しないままになることもよくあります。完全リモートだと、文字通り全員と交流した感じが持てるって不思議ですね!

私はこの「完全リモート版SF研修」の良さを確信しているし、従来の自分の研修に関する“常識”がいくつも覆されたことが快感でもあります。皆さんに受講者レポートを閲覧してもらえないのが残念ですが、オンラインで開かれたSF伝道の可能性について皆さんに知ってもらいたいと思いました。 この内容でWEBINARもそのうちやりたいな♪

SF伝道者の四方山話 No.5 青木安輝” に対して7件のコメントがあります。

  1. 豊村博明 より:

    青木先生
    ブログを拝読し、正ににそう思いました。最近、カウンセリングの受講に際し、事務局からZOOM開校日の2週間前にPPTの資料とその解説のための動画が送られてきます。目標は開講日までに2回視聴します。1回目は、PPTを印刷したものを机に置いて、動画講師から語られる説明の中で自分が大切だと思ったフレーズはそのPPTに書き込むことにしていますが、一回聞いただけでは覚えられないので、何度も講師が語ったフレーズを繰り返し聞き直すことで、書き留めます。2回目の視聴では、動画を見ながらもう一度、ミミズがはったような字が書かれた自分のPPT資料を見ながら復習ができます。3回目は、受講日以降、復習用にもう1週間、視聴期間がありますので、もう一度、PPTを見ながらリラックスして聞けます。そうすると、最初に送られてきたPPTだけでは、点としてだけしか繋がっていなくて、良く分からなかった図や単語が、いつの間にか面として繋がっていって、自分の理解が進んで行っていることに気が付きます。「勉強したなあ」と自分を褒めてあげる瞬間ですが、青木さんがおっしゃるとおり、これは動画ならではの利点であり、参加型研修ではとても実現できない点だと思います。人間は人の話を集中して聞けるのはほんのわずかしかありませんので、参加型研修だけですと、確かに臨場感があり、その場の雰囲気に浸ることは出来ても、講師の大切な話を聞き逃してしまうことはよくあると思いますし、メモを取っている間に、話がもう次のステージに進んでしまっていることもたくさんありますよね。
    青木さんの受講生も、青木さんのフレーズを何度も繰り返し聴き直しながら自分なりのSF絵巻を作って行っている方も多いのではないでしょうか。おそらく、出来た絵巻は受講生の宝物になっているはずです。
    でも私は、青木さんの対面授業も大好きですよ。
    なぜなら、青木さんのおもいろいギャグも聞けるし、自分と同じ空気を青木さんやその時の受講生と一緒に吸える醍醐味は、青木さんの研修ならではの魅力のひとつですから。

    1. 青木安輝 より:

      豊村さん、コメントありがとうございます🤗豊村さんの勉強の仕方はしっかり身につくような繰り返し型なのが素晴らしい❗️
      対面型だと確かにその場で起こることをキャッチしてネタにしたり、ジョークにしたりできる面白さはありますね。基礎編はオンラインで、その後は対面でっていうのもいいのかなぁ。

  2. 谷奥勝美 より:

    青木先生へ

     非常に長文でしたが、読み終えてなんだかスッキリ感があります。
    「うんうん、なるほど、よしよし、そういえば」なんですね。
    青木さんのおっしゃることが受講者側の立ち場ですんなりと
    受け入れることができたようです。
     少人数の自主コミュニケーションで生まれる連帯感は実践コースの体験と
    よく似てるようで、自分や他人のの考えを話したり聞いたりすることで
    頭を整理し、確信や自信、行動に繋がるのかと思います。

     それから私なりの効果と思われる点を述べさせていただきます。
    まず、講師を独占?しているかのように思えることです。
    仕事がら最近、YouTubeでおもてなしに関する番組を観るように
    なりました。話し手はおそらく名のある方々で、全視聴者に
    向かってお話しされているのでしょうが、話を視聴している
    私は自分だけの番組として観ています。聴きたい内容であれば
    なおさら集中しますよね。また、画面を通してその人の人間性まで
    見えるようですね。

     次にその番組の話し手と対等の立場のような錯覚を持ちます。
    当然、知識や経歴ある方なので敬意を持って拝聴しているつもりですが、
    画面上の人物として安心して?自然体でいられるのです。
    だからこのコラムと同じように遠慮なく自分の意見を言える
    のではないでしょうか。そして自分のレポートへの講師のコメントも
    文通のように心待ちにするのだと思います。
    もちろん機会があれば実際にお会いできればいいのですが、
    「あっ、画面の人だ!」とリアルな人に一歩引いてしまうかも
    しれないですね。笑

     コロナ禍での新たなコミュニケーションの開発も素晴らしいですね。
    混迷中の私にもそんなバイタリティーがあればなあ。

    1. 青木安輝 より:

      谷奥さん、コメントありがとうございます!

      読後にスッキリ感があったとのこと嬉しいです。また、独自の考察内容の2点「講師を独占する感覚と対等である感覚」大いに納得がいきます。

      対面だと、しゃべりたがりの人が場を独占してしまう場合が時々ありますが、ZOOMの分割画面だとそういうのに自然と抑制がかかる傾向がある気がします。画面の大きさがまさに”平等”なので、無意識のうちに対等感がつくられる可能性ってあると思いますね。

      あと、人間て、その場で丁々発止でしゃべろうと思うと、うまく言えない気がしたら口が止まってしまって、話が尻切れになり、話題転換されてしまうことがよくあります。あるいは、他の人が先に発言してしまった内容と似てることだと自分が言う必要はないやと引っ込めてしまいますよね。だけど、「動画を観る」→「実習」→「レポート」と、間にワンクッションもツークッションもあってゆっくり自分のペースで自己表現することになると、思ったことが言葉にできる度合いも高くなるのかもしれないですね。

      以前はLIVEという言葉にとっても魅力を感じていたし、今でも「即興」とかその場のひらめきとかは素敵だと思うんですが、人との交流を振り返って内省しながら自分なりの言葉を紡ぐというような作業は、一過性のLIVEステージでパフォーマンスをする感覚ではなくて、むしろ一人で小説を読むような形に近い方法が合っているのではないかと思うようになりました。人間て、自分とどうつきあうか、自分のことをどこまで掘り下げるかだと思うので、オンラインによってそういうことがやりやすいペースで学びの場をつくることができるようになったのがありがたいです!
       

      1. 谷奥勝美 より:

        即興のジャスとキッチリした?クラシックってとこかな?
        どちらも人の心に沁みますね♪

      2. 谷奥勝美 より:

        一人ひとりの満足度も上がりますね。
        楽しいだろうなあ!

        1. 青木安輝 より:

          レポートを見る限り「一人ひとりの満足度」は確実に上がっているようです!そこが本当に嬉しいですv(^ ^)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA