快く生きる日々 No.21 渡辺照子
快い会話の羅針盤
2021年春、夫はコロナ感染症で渡航規制のすき間を縫って、海外の島へ旅立った。単身赴任である。この8月の終わりのこと、その夫の元を訪れた際、素敵な若いカップルと共に、快い時を過ごしたことから書き始める。
コロナ感染症流行のさなかに旅だった夫の仕事は、困難を極めたようだ。現地で交渉するのが主な仕事となったようだが、その交渉を現地でするには、言葉にせよ知識にせよ味方が必要。味方となるグループが形成されていたが、そのメンバーの中でとても力を尽くしてくれたひとりの若き弁護士A氏がいてくれたそうだ。この方の存在によって、まる2年かかった交渉は、ようやくこの4月成立。A氏と夫は、お互いを「まるで戦友の様」といっていた。
3月に夫のところに行って帰ってくる際、夫を支えてくださっているA氏に、心ばかりの品とメッセージを渡してほしいと夫に託してきた。そのお礼のメッセージを、A氏がメールで私にくださったことがきっかけで、今回の滞在中に、A氏はフィアンセのYさんと共に、夫と私を食事に誘ってくれた。
A氏は、ご両親が日本人だが現地で生まれ育った。フィアンセのYさんは、日本で生まれたが幼いうちに渡航し、現在に至っている。お二人とも現地の言葉もそして、日本語も見事に話された。
A氏が選んでくれたお店は、日本に本店がある和食料理の店。ホール全体がラウンド状のカウンター席。調理をしている様子、ホールスタッフの動きが、席に座っていると一望できるようなお店。食材はできる限り現地のものを使い、どうしてものものだけ、日本からの輸入品を使用しているとのこと。器も味わいも、普段私が日本でいただくよりも和食らしく、現地人と思えるスタッフの対応は、フレンドリー。席は、カウンターの四角の中の一角、90度の角を挟む2辺にペアで座り、お互いの顔がいい感じに見えて、語り合うのにばっちりの席だった。
会話は、ピックアップしてもらって乗り込んだ車の中から始まった。私:「初めまして。今日はお二人にお会いできるのを楽しみにしていました。楽しく会話したいです。早速ですが、Aさん、Yさんの好きなところはどんなところですか?」運転しながら照れながら、でも言葉を選びながら語るA氏。私:「Yさん、Aさんのお話を聞いて、感想いかがですか? さて、次はYさんの番です。・・・」と展開した。レストランに行って食事の間中、話は尽きず、しかも、4人ともが話し手になり、聞き手に回るような状態。(を心がけた。) 夫は、A氏がしてくれた事業での尽力に対し、心底感謝している気持ちを熱く伝えていた。そして、Yさんは私のことを、「普通の日本人ぽくない。まっすぐ訊いてくる。でもとても楽しい。」とおっしゃった。
夫の住宅に戻って、夫がしみじみと、「今夜は楽しかったな~。あんなに楽しい時間を久しぶりに味わった。」と言った。A氏からも夜のうちに、お渡ししたお土産をYさんと掲げて、にっこり笑っている写真と共にメッセージが届いた。そのメッセージの文末には、「今後の何年、何十年もこのご縁を大切にさせていただきたいと思います。」とあった。
A氏が書いてくれた「今後の何年、何十年もこのご縁を大切に」という思いは、私も同様の思いだ。多分夫も。あの数時間の対話は、単に快かったというだけでなく、今後につながる継続性も含んでいる。しかも社交辞令とかではない確かな感覚がある。
でもなぜなんだろう。少なくとも私は、A氏とYさんにお会いした時間は、ほんの数時間だけなのに。
その答えを、私は最近読んだ、『未来を変えるコーチング』ヘスン・ムーン著の中に見いだしたいと思う。
普通のコーチングの新刊だと思って読み始めたところ、なんとこの本は、ソリューションフォーカスコーチングの本であった。本の中には、SFA(Solution Focused Approach)開発者のインスーさんや、スティーブさんのお名前も出てくるし、謝辞のところには、J-SOLで日本にも来てくださったピーター・ザボさんのお名前も記されている。
著者のヘスンさんは、コミュニケーション科学・教育学の専門家であり、カナダで、「カナダ・ブリーフコーチング・センター」の代表を務めているそうだ。写真を眺めていると、ヨーロッパのSOL大会に参加した時、お会いしたことがあったようなないような・・・。彼女は、世の中の誰もが、家庭でも職場でもよりよい会話を交わせるようになってほしいという願いを持ち、その実現に向け、自らコーチングやコンサルティングに関わるほか、コーチの養成にも取り組んでいるという。彼女のお志に、私はとても身近さを感じる。
さて、ヘスンさんの本の中に、「リスニング・コンパス(聴き方の羅針盤)」というのが示されている。「この図には、中央で交差する縦軸と横軸があります。横軸は過去から未来への時間軸。縦軸は、横軸を境に上部がポジティブな内容、下部がネガティブな内容を示します。人が自分について語る内容は、たいてい『過去』か『未来』のどちらかに属し、また、『望ましいもの』か『望ましくないもの』のどちらかに属します。」として、4象限が、①望ましい未来、②充実した過去(これら①と②が上段)、③辛かった過去、④望ましくない未来(これら③と④が下段)と表現されている。
そして、この図に関して、こう記している。「様々な理由で本書を手に取ってくださった皆さんの共通点は、人生にポジティブな変化を望んでいて(第1象限)、かつすでにその方向に向かって努力している(第2象限)ことだと考えています。というのは辛かった過去や望ましくない未来も、『望ましいもの』や『望ましい方向に前進しているもの』は何なのか、明確にする働きがあるからです。」
私が彼女の記述から受け取ったことはこうである。よくコーチングで、クライアントの愚痴をきくべきか否かという話題になるが、彼女はつまり、愚痴の中に、当人が望んでいることや既に望む方向に向かっているということを明らかにする種があるんだよ。大事なことは、今話しているその状態から、向かおうとしている先が、「望ましい未来である」ことを忘れずにいて、これまでにやってきた努力や自分の中にある宝に、本人が気づけるように話を聴いていくことが大事だよ。
先述のA氏、Yさん、夫と4人のでの会話を思い起こしてみると、充実した過去の話が多かった。望ましい未来もふんだんに語った。しかし、実際のところ、辛かった過去も望ましくない未来の話も語られた。だが、あの場があのように充実した楽しさにあふれたのは、4人ともが、「私たちは望ましい未来にむかっていく・いきたい」というスタンスに立ちながら、お互いを思い合い、言葉や話題を選択して、あの場にいたからではないかと。
今、ここまで書いてみて何を思うかというと、相手の辛かったことの話や愚痴も、今後、私自身は地に足をつけて聴くことができるなあ。相手のネガティブさが強力で、充実した過去や望ましい未来が、見えにくくなりそうなときも、それでもそこへ向かおうとする思いを忘れさえしなければ大丈夫なんだなあと思うのである。これからもまた自分の生活の日常での会話と、コーチとしてクライアントさんと対話していくその時間を、味わいつつ進めていけそうだ。快い会話への羅針盤が自分の内側に確かに据えられた感。
渡辺さん
素敵なお話をありがとうございました。
いくつになっても人との出会いって大切なんですね。自分でも想像もしなかった縁で人と出会い、その方が今まで長い間お付き合いしていた人よりももっと身近な存在に感じられるようになるってことあるんですね。わずかの限られた時間の出会いの中でお互いが「今後の何年、何十年もこのご縁を大切にさせていただきたいと思います。」と感じ合えることの出来た今回のAさん、Y さんとのめぐり会いは本当に羨ましいと思いましたし、私もこの歳になっても隠居したらもったいないかも知れないとあらためて感じました。
また、ヘスンさんのお話も非常に興味深く拝読させて頂きました。今までは、話し手からネガティブな感情や辛い気持ちを話された時、「それはそれとしてちょっと脇に置いておいて・・・・さあ、あなたのこれからの欲しい未来について話を聞かせて下さい。」的な受け答えをしていたのが私でした。しかしながら、渡辺さんのブログを読んで、「話し手の辛い話の中にこそ、その人の望ましい未来に向けて一歩踏み出したい種が隠されている。そして聞き手はその人の良くなろうとする力を信じることが大切。」と理解しました。
カウンセリングの中でも話し手から不安に思う気持ち、自責感、無力感、心の疲労感が赤裸々に語られた時、聞き手として大切なことは、如何にその気持ちに共感してあげられるかだとずっと思っていましたが、実はそんな辛い話の中にこそ、本人がこれまでやってきた頑張りが隠されており、欲しい未来へ向かいたい種が包含されているんだという前提に立って聴くことができれば、また違った受け止め方や寄り添い方が出来るのではないだろうかと感じました。
とても素晴らしいヒントを頂き、ありがとうございました。
豊村さん、コメントをどうもありがとうございました。
豊村さんのコメントに、私は嬉しさを感じています。
❝ああ、豊村さん、そう思ってくださったのか~。❞と
特に以下の三か所から思えて嬉しいです。
①私もこの歳になっても隠居したらもったいないかも知れないとあらためて感じました。
②「話し手の辛い話の中にこそ、その人の望ましい未来に向けて一歩踏み出したい種が隠されている。そして聞き手はその人の良くなろうとする力を信じることが大切。」と理解しました。
③実はそんな辛い話の中にこそ、本人がこれまでやってきた頑張りが隠されており、欲しい未来へ向かいたい種が包含されているんだという前提に立って聴くことができれば、また違った受け止め方や寄り添い方が出来るのではないだろうかと感じました。
豊村さんが未来への希望を抱いてくださっているのが手に取れます。
それがとっても嬉しいです。
共に、これからも希望をもって未来に向かって参りたいです。私たちが希望をもって
今のこの世を生きなかったら、若い方たちに申し訳ない気がする私です。若い人たちが
来る未来に希望をもって生きてくださるよう、私たちがいま生きるこの目の前の生を
眼を輝かせて、快く生きてゆきたいと思うのであります。
渡辺さんへ
本日も晴天なり!おはようございます。今回も素敵なお話しをありがとうございます。
生まれつき偏屈な人間だからでしょうか、それともXY軸のX軸が右に寄ってしまった(短い未来)せいでしょうか、すこーし違った見方をしてみました☺️
A氏、Yさん、ご主人との楽しかった時間を現在としてビデオテープを早送りで巻き戻してみますね。
【現在】未来につながる快い会話
【数時間前】車の中での初対面とは思えない会話が始まる
【数日前】・A氏が和食料理の素敵なお店をチョイスする・渡辺さんがお二人へのプレゼントをご用意する
【4月】契約として二人の努力が実る
【2年間前】ご主人とA氏が出会い、良きパートナーが始まる
【数年前】照ちゃんSFと出会う
【ずっと前】渡辺さんらお二人がが結ばれる
【もっともっと前】ご主人と照ちゃんが生まれる
巻き戻し、ちょっと早すぎですかね💦
年齢を重ねてくると、「現在こうなったのは過去にこんなことをしてきたからかもしれない」と思うことがあります。その時(過去)はこんな素敵な未来が訪れるとは考えも及ばないものですよね。でも結果的に人生は自分の徳(のようなもの)の積み重ねでなんだろうなと思えてきます。もしそうだとしたら、今を最善に生きることができたら未来は間違いなく快くなるとワクワクしてきます。
さあ、今日から心に羅針盤をセットして方角を見失わないようにしてまいりまーす!
※ビデオテープは古かったですね😅
おっくん、コメントをどうもありがとうございました。
ビデオテープの巻き戻し、すごい才能。
私には思いつかない発想。
わたしのブログを読んでくださっている方の中に、
おっくんのセンスに、心から感じ入っている方がおられます。
その方は、おっくんのコメントの内容や切り口をとても面白がっていらっしゃいます。
巻き戻しスピード、確かにちょっとはやすぎる感も。
時間あるときにもう少し少しゆるめに巻き戻してみたいと思います。(笑)
「『現在こうなったのは過去にこんなことをしてきたからかもしれない』と思うことがあります。その時(過去)はこんな素敵な未来が訪れるとは考えも及ばないものですよね。」
「今を最善に生きることができたら未来は間違いなく快くなるとワクワクしてきます。」
おっくんのおっしゃる上記のこと、
青木さんがおっしゃる、「起こることはすべて最高」ということの意味と
繋がっていますね。
私も、おっくん同様、心の羅針盤をセットし続けようと思いを新たにしております。
おそらくお会いしたこともない方ともブログを通して繋がることが出来ているんですね。しかも私を認めてくださっているようでとても有り難いです。「どんな人なんだろう」と中学の頃の淡いときめきが甦ってしまい、いつもより早起きしてしまいました☺️
羅針盤をセットすると言いましたが、私にはまだ目的地は見えていません😅 ただ日々の生活の中に自分探しの糸口を見つけたいんだろうなと思っています。それがいい加減な人間が自分を着飾るような悪あがきでもいいんじゃないかなぁって😁
最後に私の知らないわが友に「今後ともよろしく」お伝えください願います。では、お休みなさい。
おっくん、メッセージをありがとうございました。
うふふ、その方はとっても素敵な方です。
「ただ日々の生活の中に自分探しの糸口を見つけたいんだろうなと思っていま
す。」
↑これぞ正しく、「生きる」ということですね。
サンキュー!