快い日々を生きる No.19 渡辺照子

ソフト・パワー と SFの共通点

私は最近になってソフト・パワーという言葉を聞いた。ウイキペディアには、こう書いてある。「ソフト・パワーとは、国家が軍事力や経済力などの対外的な強制力によらず、その国の有する文化や政治的価値観、政策の魅力などに対する支持や理解、共感を得ることにより、国際社会からの信頼や発言力を獲得し得る力のことである。」と。

さらにネットで調べてみると、日本のソフト・パワーって何かという問いに、外務省の方が回答していたのは、「refinement(洗練さ)、creativity(創造性)、ライフスタイル、電気機器、ファッション、ポップ・カルチャー、家具、建築・・・」。

ポップ・カルチャーとは、漫画、アニメ、映画、ゲーム、ライトノベル、ポピュラー音楽、テレビなどの大衆向け文化全般をさすらしい。

さて、この6月に30年前にグアテマラ日本人学校で教えていたときの教え子さんたちに会う機会があった。その中の一人、Mちゃんからきいた話。バックパッカーとして、世界一周の旅をしてモンゴルで出会ったフランス人が、日本のアニメ『蟲師』という作品の完成度を絶賛していたそうだ。日本のアニメを通じて、❝日本大好き❞と接してくれた。アニメが、相手との間にある壁を壊す働きを担ってくれ、日本人にとっては当たり前のことに、世界が共感してくれて、凄さになっていることを誇りに感じ、共通のもので感動できる喜びを享受した。と。遠い異国で、一人で過ごしているところで、そのフランス人が示してくれた親しみは、彼女にとって大きなインパクトであっただろうことが想像できる。

ソフト・パワーという言葉に、今一度戻ってみる。

「ソフト」と「パワー」で一見相反する言葉のように思える。パワー(権力)には3種類があって、①軍事力(強制 実力行使 威嚇) ②経済力(金銭の支払い・・・制裁 援助 賄賂 天然資源)③ソフト・パワー(説得と魅力・・・制度 政策 価値観 課題設定 文化)と整理されるようだ。ソフト・パワーは、こちらから働きかけて相手に何かをさせるのではなく、こちらが望むことを相手が自発的に実施するような状況を作る力、強制ではなく説得と魅力によって望む結果を得る力。という説明もある。

なぜ、私が「ソフト・パワー」にこだわっているかというと、SFとの関連性を感じるからなのである。もちろんSFは、相手との間にパワーを介在させての関りではない。しかし、「SFの存在感」という観点で見た時、「ソフト・パワー」という言葉が意味し示すところと、SFの、無理やりではなく、すでにあるものを活かして、望ましい方向に運ぶという性質とが、つながりがあるように感じるのだ。

私がSFに出会ったきっかけは、コーチになろうとしてコーチングを学んでいたとき、“エッジを利かせたフィードバックができなければ、良いコーチにはなれない”という先輩の指導を受けた時、❝何か違う❞って感じたことからだ。私は、エッジを利かせたフィードバックをすることが苦しかったし、エッジを利かせたフィードバックを受けると、傷ついて回復に時間を要した。エッジを利かせたフィードバックからは、フィードバックする人の圧力を感じた。

SFはどうだったかというと、快さの中で、のびのびと安心して思考することができ、自ら新しい答えや発想に至ることができた。

まさに、ソフト・パワーの、「こちらから働きかけて相手に何かをさせるのではなく、(中略)自発的に実施するような状況を作る力」と、SFの「のびのびと安心して思考することができ、自ら新しい答えや発想に至ることができる」というところに共通項を見いだすことができるのである。

実家の姉の言葉である。過日、外国からのお客様を宿にお迎えし、茶道やお餅つきやうどん作りを体験してもらい、ベッドではなく布団を体験してもらい、甘酒や赤飯、煮豆など、伝統的な日本の料理を味わってもらったことで、外国からのお客様たちがとても喜んでくださって、「故郷の祖母の家に来たみたいな気持ちだ、帰りたくない。」「きっとまた、ここに戻ってくる。」とおっしゃって帰っていかれた。すると、日本のソフト・パワーの発し手であった姉が言った。「外国からのお客様をお迎えし喜んでもらおうとあれこれ考え実行したことで、あのように感動してくれた。とても嬉しい。同時に今後どのように宿の経営をやっていくかの希望に通ずるアイディアと意欲を得ることができたので、感謝している。」と。ここのところが、SFにも共通している気がするのです。SFも、SFで関わってもらったその人よりも、SFで関わることができたその人の満足感や自己肯定感が高まるという側面があると思う。

ソフト・パワーとSFは親戚関係か?            ・・・と今日はここまで。

*「ソフト・パワー」という言葉を最初に使ったのは、アメリカの国防次官補を歴任後、大学の教授となった、ジョセフ・S・ナイという方。

快い日々を生きる No.19 渡辺照子” に対して13件のコメントがあります。

  1. 深山敏郎 より:

    何か読んでいてほんわかします。感謝。

  2. 渡辺照子 より:

    深山さん、おはようございます。
    早速に読んでいただき、コメントを頂戴し、どうもありがとうございます。

    ほんわかしていただけたのですね~♪ 嬉しいです。

  3. 豊村博明 より:

    SFも、SFで関わってもらったその人よりも、SFで関わることができたその人の満足感や自己肯定感が高まるという側面があると思う。

    渡辺さんのこの言葉に背中を押されましたので、コメントさせて頂きます。
    私の勤務する福祉施設では社員教育の一環としてSFを活用したエルダー研修を実施しています。
    入社後2-3年目の社員をエルダーに指名し、入社1年目のジュニアの育成を委ねて、そのフォローアップをエルダー研修で毎月行っていますが、先日のエルダー研修では「エルダー制度を通じて、どんなことが有益でしたか。」と言うテーマで発表してもらいました。
    6名のエルダーからは、「ジュニアとの会話を通じて、自分が初心に戻れて考えることができた。」「周りの方からの気づきから、自分の良い部分を発見することが出来、自信に繋がった。」等さ、まざまな発表がありました。
    私は当初、エルダーからはジュニアの成長ぶりを披露してくれるものだと思っていましたが、意外や意外、自分にとってこんなことが役に立ちましたと言う内容が多かったことに驚かされました。
    ストレートとカーブしかキャッチできないエルダーが、暴投も多いジュニアに対して、「ストレートかカーブを投げなさい。暴投はダメよ。」と言うのではなく、「暴投もOK, 今はどんな球でも良いから思い切って投げてきなさい。」という姿勢で臨んでくれていると、エルダー自身が最初は必死で球を取ることに苦労していても、いつの間にか色んな球をキャッチできるようになるんだなあと改めて思いました。
    自分の枠の中でジュニアを育てようとするのではなく、ジュニアの枠の中に自分が入って、自分自身も新たな経験を積んでいくことが、開かれた自分としてその人の器を大きくしていくのだと、彼らから教えられたようでした。
    渡辺さんの言葉を拝読し、その意味を深く味わうことが出来ました。ありがとうございました。

    1. 青木安輝 より:

      豊村さん、SFが自分に返ってくるってほんとにありますよね。
      ストレートとカーブの例えが面白いです!
      エルダー研修をやっている豊村さんにもいろいろ返ってきてるんだろうなあ・・・

    2. 渡辺照子 より:

      豊村さん、コメントをどうもありがとうございました。
      コメントしていただけてとても嬉しいです。

      「『暴投もOK, 今はどんな球でも良いから思い切って投げてきなさい。』という姿勢で臨んでくれていると、エルダー自身が最初は必死で球を取ることに苦労していても、いつの間にか色んな球をキャッチできるようになるんだなあ」

      「自分の枠の中でジュニアを育てようとするのではなく、ジュニアの枠の中に自分が入って、自分自身も新たな経験を積んでいくことが、開かれた自分としてその人の器を大きくしていくのだ」

      実際に現場で起きたことと、その起きていることからの
      豊村さんの学びを教えていただけて、その記述には、迫力があると感じました。

      日常のお仕事でSFを活かしていらっしゃるご様子をおききできることが
      大いなる幸せです。私たちは同志だと感じさせていただくことができるからです。

  4. おっくん より:

    渡辺さんへ

     暑いけど七夕の爽やかな風を受けています。ソフトパワーの定義を読んで凝り固まった筋肉をほぐすには丁度いい感じ😁

     人が心地良く生きるためにソフトパワーが効果的であるとすれば、国家権力を象徴とするようなハードパワーには、ソフトパワーの発しやすい環境づくりへの思いやりが欲しいなあと。子供達への教育には特に感じます。

     話は変わります。一昨日、放課後等デイサービスの職員全員を相手に初の「OKメッセージ勉強会」を開催しました。普段は子供たちを褒めるベテラン達ですが、褒められるのは新鮮なようで大変盛り上がりました。ソフトシャワーの掛け合いではしゃいでました!

     上司からの指示やルールは中々身に付かないこともありますが、あの雰囲気の中で湧き上がってくる自己肯定感には多くの可能性が見えてきそうです。ソフトパワー(内発的な心)はソフトパワーによって触発されるようですね。面白いです☺️ (詳しくはFBにて)

     「またこの宿に帰ってきたい!」は旅人の心。何をしたか何を食べたかはすぐに忘れてしまうけれど、「またあの人に会いたいなあ」と思うだけで幸せなんです。            おっくん

    1. 渡辺照子 より:

      おっくん。コメントをいつもありがとうございます。

      フェイスブックで勉強会のレポート拝見しました。
      時間がなかったと言いつつも当日まで入念なご準備をなさって、
      一年と2か月の歳月の先に、おっくんの存在感を堂々とお示しになられたのですね。

      所長さんの涙。嬉しかったんでしょうね。所長さん。
      「長」という名がつく方ほど、日ごろ孤独さに耐えながら頑張っていると
      推察するので、報われた思いを味わった瞬間に涙という形であらわれたということでしょうか。

      モチベーションのスケーリングの数値も、みなさん、高くなりましたね~。

      おっくんの挑戦には続きがありそうですね。
      今後もおっくんを応援いたします。
      挑戦の物語を、また、ぜひ、きかせてください。
      楽しみにしております。

      1. おっくん より:

        お帰りなさい。
        屋久杉までお疲れ様でした。
        しっかりご実家のお風呂であったまろ! ね😊

        1. 渡辺照子 より:

          おっくん、ありがとうございます。
          はい、そういたします。
          自分の身体、まだ頑張れるって思えた時間でもありました。

  5. 青木安輝 より:

    おっくん、フェイスブック見たけど投稿が見つからなかった。これから書くってことなんですよね?楽しみです!

    1. おっくん より:

      いつも気にかけていただいてありがとうございます😭

  6. 本間 俊介 より:

    本間です
    読んでいて渡辺様に乗せられて、つい書いてしまいました。仕事の中で常に絶対心掛けていることは、「相手に・・・を気づかせる等、相手を操作しない」という事です。結果として相手が気づいて良い方向に向かっても、以外と私が想像したストーリーではなかったりします。まず良く聴く、そしてokメッセージを発する(それが出来る自分に既に変化している)。ソフトパワーの勝手な定義ですが、私(こちら)が変わることが相手に影響して、その相互作用によりゆっくりであったり瞬間的に共振を起こす、得体のしれない安心安全な力でしょうか。sfを使って・・・する時に心掛けたい独断と偏見とおもっています。

    1. 渡辺照子 より:

      本間さん、コメントをどうもありがとうございます。
      先日は、SF同窓会でお会いでき、嬉しかったです。
      お会いしてみて、本間さんの若々しさは以前よりさらにパワーアップしている感じがいたしました。

      本間さんがお書きくださった、
      「まず良く聴く、そしてokメッセージを発する(それが出来る自分に既に変化している)。ソフトパワーの勝手な定義ですが、私(こちら)が変わることが相手に影響して、その相互作用によりゆっくりであったり瞬間的に共振を起こす、得体のしれない安心安全な力」
      というこの文章の内容は、ソリューションフォーカスの本質を表してると、私は感じます。

      今日もなお、現場で、組織や関係者の皆様と一緒になって快い時を紡いでいらっしゃる
      本間さんの生き方を私は真似させてもらいたいと思っています。

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