快く生きる日々 No.8 渡辺照子

親切(しんせつ)

忘れられないすがすがしい体験。昨年の12月に和歌山県和歌山市で味わいました。私は北関東に住んでいますので、和歌山という地は、生活圏とかなり離れた遠い所だという印象。仕事で前乗りし、ホテルに滞在しながら事務的な仕事を片付けつつ過ごしていました。

書類提出の必要があり、郵便局に出しに行くことにしました。ホテルのフロントで簡易な地図をもらい、徒歩で向かいました。大きな通りから少し入ったところにある郵便局であるようなので、大通りに対して垂直に通っている路地毎に、覗き込むようにして、郵便局の看板を見つけようとしました。県の中心地にある局ということで、中央郵便局のような大きめな建物をイメージしていましたがみつからず仕舞い。

とうとう人にきいてみることにしました。自転車から降りて信号待ちをしている地元の方らしき女性に尋ねました。「この辺りに郵便局はございますか?」するとその女性は、「あったと思うわ。ちょっと待ってて。私戻ってくるから追いかけてこなくていいわよ。」と言い残して、自転車に乗って、郵便局を探しに行ってくれたのです。追いかけてこなくてよいと言われたものの済まないと感じて、遅れて後を追いかけた私に、「ここよ、この路地を入っていけばあるわよ。」と私を招いてくれたのです。

彼女は信号待ちをしていて、大通りの向こう側に渡ろうとしていたのです。それなのに、大通りのこちら側で道を尋ねた私に対し、自転車を走らせてまで郵便局を探してくれた。追いかけてこなくてよいと、私に配慮も示しながら。なんてありがたいことなのでしょう。

立ち去ろうとしている彼女に、なんとか感謝の気持ちを表そうと、早口で、「群馬県から来た旅のものです。ありがとうございました。とても助かりました。」と伝えました。遠い地からきた見ず知らずの私に、とても親切にしてくれたことに、感銘を受けたことを何とか伝えたかった瞬間。

ところで、親切には、「親」という字と「切」という漢字が使われている。切っちゃうの親を?え? と思って語源を調べてみると、「親切は、『を切る』という意味ではない。親は『親しい』『身近に接する』という意味で、切は刃物をじかに当てるように『身近である』『行き届く』という意味がある。つまり、身近に寄り添い、行き届くようにすることが『親切』の意味である。」(語源由来辞典) 語源と意味をたどると、知っている人や身近な存在にであるなら、親切にするということがすんなり腑に落ちる。しかし、一期一会の対象に親切にすることは、かなり尊いことだと思わざるを得ない。あの和歌山の女性、すごいな。そして、ありがたいな。

子どものころ、親の知り合いの方に勧められて、「小さな親切運動」というのに参加したことがある。一定期間日常の中で行った親切をリストに書いて提出する。当時はその活動の意味をよく理解しておらず、認められればバッジがもらえるということに惹かれ、雨の降った日なのに、「花壇の花がしおれていたので、水をあげた。」とリストに書いた嘘が姉にばれてしまったほろ苦い思い出として今よみがえる。ネットで検索してみると、その団体と活動は、いまだに続いていた。団体の発足は私が生まれた年、1963年。東京大学の総長がその年の卒業式の告示で、「“小さな親切”を、勇気をもってやっていただきたい。そしてそれが、やがては日本の社会の隅々までを埋めつくすであろう親切というなだれの芽としていただきたい。大学で学んだ様々な知識や教養を、ただ頭の中に百科事典のように蓄えておくだけでは立派な社会人とはなれません。その教養を社会人としての生活の中に生かしていくには、やろうとすれば誰でもできる“小さな親切”を絶えず行っていくことが大切です。“小さな親切”はバラバラな知識を融合させる粘着剤の役目を果たすのです」と語ったことに端を発し、現在「小さな親切」運動本部は、「小さな親切」を前提とする社会道義の確立に寄与することを目的に、全国32道府県本部、137市町村支部とともに、次世代を担う青少年をはじめ広く国民の間に「小さな親切」の心を育てる様々な活動を行っているのだそうだ。

そっか、私は“日本の社会の隅々までを埋めつくすであろう親切というなだれ”の一端を和歌山の地で浴びたことになるのだな。

日ごろから、「OKメッセージ」に関心を寄せている私は、和歌山での体験とOKメッセージを結び付けて考えてみました。そして改めて、「親切」とは、とてもパワフルな「OKメッセージ」であると思った次第。親切にされた人は、「自分という存在を大事に扱ってもらえた」と感じ、嬉しさや喜びや、生きる意欲を抱くことができるように思います。

「人に親切にする」という意識は子どものころに比べると、私の中では薄れてきています。おそらく、「かえって相手の迷惑になりはしないか・・・」という思いがよぎるからなのでしょう。しかし、それは同時に、その時行動しないことの逃げ口上であるかもしれない。そうだとしたら、それはなんだかとても、もったいないことのように思えてきました。自分がした親切を、相手がどのように受け取るかは相手次第。「親切」には、一生忘れられないほどのすがすがしさや感動を呼び起こす力があります。そのことをもっと周りの人や出会う人々とこれからの人生の中で享受し合いたい。あまり考え過ぎず、躊躇せず、今そうしたいと思ったら親切を行動に移すことで、周りの人々にOKメッセージを伝えていきたいと今、切に思っている。

快く生きる日々 No.8 渡辺照子” に対して6件のコメントがあります。

  1. おっくん より:

    渡辺さんへ

     僕がその女性だったら・・・こんなふうに感じていたのかも😊

    「あれ、綺麗な人やなあ、この町の人とちゃうみたいやから困ってるんのやなあ。えーっと郵便局はきっとあの辺り・・口で説明して間違ってたら大変やし、こんな時はちゃんと教えてあげやんとな。自転車やから見つけるのも早いわ。ちょっとここで待ってて。ついてこんでええわよ。私に任せといて!
     しかし、私ってよく道を聞かれるのよね。あなたは優しそうで助けてくれそうって見えるのかなあ。それって嬉しいやんか😊」

     「あっ、あったあった。あの看板やわ! あっ、あの人も来てくれたわ。追いかけてきてくれたんやな。こっちやで。この先に郵便局の看板が見えるやろ。あそこやわ。交差点があるから車に気いつけて行きや。お礼なんか要らんでー。困った時はお互い様や。ほな、さいなら!」

     「あの人、うまいこといけたやろか。困ってる人に親切にしたるのって、久しぶりやなあ。今日はええことしたさかい私も気持ちがええわ。しかし、明るそうでええ感じの人やったなあ。またいつかどこかで会えるかもしれんなあ。あの人も覚えてくれてるやろか😄」

    「えっ、私のことブログに書いてくれてんの!めっちゃ嬉しいわ😂和歌山でええ思い出を作ってもろてよかったんちゃう!また来てや。やっぱ、人には親切にせんとあかんなあ☺️」
     
    「小さな親切」で「小さな幸せ」がどんどん広がっていくと良いですね。

    1. おっくん より:

      補足です。

      何の準備もない突然の出会いですが、人間て本能的に快状態を求め、創り出す動物なのかなあ。性善説主義の私はそう思いたいです。
      (こんなこと考えるの青木さんの影響でしょうか?😁)

      1. 渡辺照子 より:

        おっくん、コメントと補足コメントをどうもありがとうございました
        おっくんのたくましい想像力に、しびれまくりました
        同時に、私はありがたさと、あそこまでしていただいて、和歌山の女性に、
        恐縮する気持ちを抱いていましたが、私との関りによって、相手の方も快い思いを
        抱かれたのかもしれないと思うことができ、すがすがしい気持ちに輪がかかりましたおっくんのおかげ様です
        「性善説主義」のおっくんが繰り出すコメントはいつも私に、この文章を
        書いてよかったと思わせてくださいます☺

        1. おっくん より:

          こちらこそです。
          そう、渡辺さんの文章の向こう側にどんな風景が見えるかわかります? うふふ。

  2. シオタリョウコ より:

    渡辺さん、こんにちは。

    >「かえって相手の迷惑になりはしないか・・・」という思いがよぎるからなのでしょう。しかし、それは同時に、その時行動しないことの逃げ口上であるかもしれない。

    この言葉にハッとしました。
    何気ない日常生活の中で、私も同様のことを思ったりします。また、「相手も求めていないかもしれないし…」なんて考えて(言い訳です)結局行動しない時もあります。
    しかし、必ずその後にちょっと後悔するのです。「気づいたのに、なんで行動に移せないのかな…」と。

    渡辺さんの体験を読んで、あれこれ考えずに心のままに行動してみよう。そして、その時の感覚を味わってみよう。と、思いました。
    この春からの挑戦のひとつです。ふふふ

    1. 渡辺照子 より:

      シオタさん、コメントをどうもありがとうございました。
      共感していただき、嬉しいです。

      しかし、必ずその後にちょっと後悔するのです。「気づいたのに、なんで行動に移せないのかな…」と。

      私も、「何で行動に移せなかったのか」自分へのダメ出しが起こります
      そんなくらいだったら、思った行動をやっちゃった方がいいねと、今はすっきり思えます

      シオタさんが記された
      「あれこれ考えずに心のままに行動してみよう。そして、その時の感覚を味わってみよう。」

      私もそうして参ります~♪

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