快く生きる日々 No.3 渡辺照子

「OKメッセージ考」

 最近、なんだかとても感動したOKメッセージの体験談。工事系の業務を行っている会社の支店長さんが、こんな話をしてくれた。

 「会社の女子社員が、毎朝お茶を入れてくれる。それはずっと前から行われてきていて、当たり前のことになっていた。最近自己改革してより良いマネジメントに繋げようと、周りの人に謝意を示すことを心掛けるようになった。

 今までは、お茶を入れてもらっても、何も言わない。言わないようにしているのではなく、何も言わないのが普通だった。しかし、心がけて感謝を伝えようと、『ありがとう』を言うようにしてみた。慣れていないので、最初はスムーズに言葉が出ない。というか、気恥ずかしいような気がして、言うのに四苦八苦。でも、だんだん慣れてきて、日常的にお礼を言えるようになってきた。」

 私はこの話を聞いていて、今まで言わなかった方が、「ありがとう」というのが習慣になったことはすごいことだと思った。ただ、ここまでの話だと感動とまではいかなかった。彼の話は続く。

 「最近は、『ありがとう』って言った後、入れてもらったお茶を飲むようになった。今までだと、朝入れてもらって、外回りに出て、戻ってきてもそのお茶が、そのまんまなんてこともあった。」と。

 私の感動はここの部分。お茶を入れてもらって、「ありがとう」と言った後に、その入れてもらったお茶を飲むという行為にだ。何で自分がこの部分に感動するのか、自分なりに考えてみる。

 今から36年前、社会人一年目の私は教員採用試験に受からず、1年ほど公的機関で臨時職員をしていた。仕事は事務補助。本当のところの主な仕事はお茶くみ。課員20名の方に朝と昼と3時にお茶を入れ、夕方には、すべての茶碗を回収して、きれいに洗って翌朝に備える。正規職員でない劣等感みたいな気持ちにさいなまれ、お茶くみの仕事を価値がないように思えてしまう時もあったが、お茶くみの仕事は深かった。全員の方のお茶碗を覚え、ひとこと声掛けしながらお茶をデスクの上に置いていく。声かけしないほうがよさそうな時は、黙ってただ置いていく毎日この行動を繰り返すことで、折に触れて声をかけてもらったり、帰りに喫茶店でココアをごちそうしてもらったり、女子職員の方々から可愛がってもらい休日に一緒に出掛けたり、年上の方から相談を持ち掛けられたり、後年になって、自分の結婚披露宴に来ていただいたり、かつて一度も足を踏み入れたことのないような絨毯ふかふかのVIP執務室に招いてもらったり、今の仕事になってから研修の仕事の依頼を頂戴したり、3年前の父の急逝を新聞で知って遠路告別式に駆けつけてくださったりなど、20名の方々に因って、「お茶くみ」の関りを通して、挙げても尽きないほどのギフトを頂戴してきた。

 そういう深みやありがたさを感じる入り口の時点では、20名の方のお茶碗を覚えられないとか、先述のように正規職員の方は、自分の仕事をしっかり持って臨んでいるのに、自分はただお茶を入れるだけだ、などと自分の存在を認めることができずに悶々とした思いを味わっていた。

 「職場でお茶を入れる」という共通体験を持っていたことで、さっきのOKメッセージの話を聞いた時、私はお茶を入れる側の女子社員の方に感情移入したのかも知れない。お茶を入れても何の反応もない、しかも、入れたお茶が飲まれることなく、朝のお茶を夕方回収しにいって、それを捨てて洗う寂しさ。一方で、感謝の意が伝えられ、自分の入れたお茶が飲まれる、という事実を肌身で感じ取れるということ。それによって、自分がしていることの意義とか、自己存在感が自分の中で高まるような感覚を、その女子社員の方は得られただろうと想像する。

 青木安輝さんのソリューションフォーカスセミナーに参加したとき、OKメッセージの定義は、「相手が、肯定されている、尊重されている、大事にされている、受け入れられている、認められている、と感じた発信者の言葉や態度」だと教えてもらった。「相手が感じる」かどうかは、こちらは操作できない。しかしながら、自分側でやれることに最善を尽くして、OKメッセージが相手に届けられるとき、受け取った相手は、そのOKメッセージから多くを享受することになるのだろうと考える。

 かの支店長さんは、「ありがとう」と伝えた後、❝そのお茶を飲む❞という自分側でできることを精いっぱい行動した、そこに私は感動したのだ。

 私の日々は忙しく過ぎている。OKメッセージの発出が、表面的になっていないだろうか、心底相手に思いを寄せて発せられているか、相手からのOKメッセージを、発してくださった方の思いと共に受け止めることができているか、そういうことを振り返る機会をいただいた支店長さんの体験談だった。

 ところで、「支店長さん、謝意を示すようになって何か変わりましたか?」と聞いたところ、「特に別に何も変わんないな。」の返事。食いさがって、「どんなことでもいいので何かないですか?」ときいたら、「社員が、良いこともよくないことも、前より言ってきてくれるようになったかな。」と。それをきいて、支店長さんらしい回答の仕方と内容だなと思え、私はとても嬉しくなった。

快く生きる日々 No.3 渡辺照子” に対して18件のコメントがあります。

  1. 富田洋史 より:

    この記事を読んで、今日は丁寧に生きてみようと思いました。多分僕が悪いのですが、仕事の人間関係で心が乾いている自分の現状に気付かされたというか。
    周りの方からのOKメッセージに気づく、アンテナを張る。
    大切ですね。

    1. 渡辺照子 より:

      富田さん、メッセージをどうもありがとうございました。私はとても嬉しいです。私がお届けしたかったことを、富田さんが直球で受け止めてくださったように思えたからです。富田さんが、①「今日は丁寧に生きてみよう」と思ってくださったこと。②仕事の人間関係での富田さんのお心の現状に気づいてくださったこと。③富田さんが、周りからの方からのOKメッセージに気づくアンテナを張ってみようと思ってくださったこと。・・・すべてが嬉しいことです。もし、可能であれば上記のようにお過ごしになられた感想をお聞かせいただけたならとても嬉しいです。

  2. 相馬久弥 より:

    渡辺さん大変ご無沙汰しております。
    相馬と申します。
    素敵なお話ありがとうございました。
    このブログを読んで私の脳に浮かんだ言葉です↓

    ありがとうは「すべての人を幸せにする魔法の言葉」
    感謝の心を持つことは、そういう小さな幸せを手にするチャンスをたくさん作ってくれる
    不満はね、ストレスの素よ。感謝はエネルギーになるのよね
    辛い事が多いのは、感謝を知らないから
    感謝の心が人を育て、感謝の心が自分を磨く
    例え人に酷いことをされても感謝をしてみよう。自分が報われなくても感謝してみよう。
    どんなことにも感謝をしている人は、人に感謝される人となる

    1. 渡辺照子 より:

      相馬さん、コメントをいただき、どうもありがとうございました。
      相馬さんにとって、「感謝」は、深く身に染みていることで、また、これまでの人生の中で、御身を以て、味わって体得なさっていらしたことなのだろうなと思えます。相馬さんの文章は力強くて、久しぶりの相馬さん節をお聞かせていただいたなあと思えて、とても嬉しいです。
       
      感謝は、すべての人を幸せにする魔法の言葉
      感謝は、小さな幸せを手にするチャンスをたくさん作ってくれる
      感謝は、エネルギーになる
      感謝の心が人を育て、感謝の心が自分を磨く
      酷さを被っても、報われなくても感謝してみよう
      感謝をしている人は、人に感謝される

      相馬さんのお言葉を大切に生活してまいります。

  3. 藤 洋吐 より:

    支店長さんも秀吉のように、お茶くみの心配りに気付く時が近いかもしれませんね。
    渡辺照子さんのお話を伺いながら、25年前開業当初、受付スタッフに「受付から副社長にまで出世した人もいるそうですよ。」と話したことを思い出しました。ありがとうございました。

    1. 渡辺照子 より:

      藤さん、コメントをどうもありがとうございました。藤さんは、25年前に開業なさって以来ずっと、「OKメッセージ」を以て、スタッフの皆さんを育成なされ、患者様たちに向き合っていらしたのですね。「OKメッセージ勉強会」も長く継続なさっておいでなのですよね。
      3行の文章から、❛藤さんのOKメッセージに因る風格❜みたいなものを感じました。ところで、かの秀頼さんは、お茶くみの心配りを心得ていたのですね。

      1. 渡辺照子 より:

        藤さん、「秀頼」ではなく、「秀吉」ですね。間違えてしまい失礼しました。

        谷奥さんに教えていただいて、Googleで検索したら、
        藤さんのPDF資料が、やはり出てきました。OKメッセージが、患者様にもスタッフ間にも素晴らしい状況を生み出し、それが、「支え合いの企業風土の確立」になっていく道筋が、とても分かりやすく理解できました!

  4. 谷奥勝美 より:

    渡辺さんへ

     GoogleでOKメッセージを検索したら、なんと藤先生の資料が一番最初に出てきました。驚きです‼️ そこにはOKメッセージの効能はもちろんのこと、発する側も受ける側も勉強会を通してスキルや感度を上げることの重要性が顕されています。
    渡辺さんのコラムを深く拝読するガイドにもなりましたし、富田さんの素直な発見や相馬さんの熱き思いも汲み取ることができました。
     私も執着の服を脱いで人のまごころが見えるようになりたいです。

     かなり大きな話になりますが、僕はこうしたOKメッセージ運動が、例えば学校教育などの場で盛んに行われるようになることを望むものです。お互いを尊敬し合う想いが広がれば広がるほど、日本や世界の未来は明るいのではないでしょうか。

  5. 渡辺照子 より:

    谷奥さん

     メッセージをどうもありがとうございました。藤先生の検索私もしてみました。とても理解しやすいプレゼン資料でした。教えていただき、どうもありがとうございます。

     谷奥さんのいつもの執筆者へのコメントを拝読すると、既に、ものすご~い真心で物事をみている方であることが、よ~く伝わって参ります。

     学校の役をしていて、地元の小中学校に行くことがあるのですが、OKメッセージの活動はなされていると感じることがよくあります。しかし、さらに広く深くお互いを尊敬し合う思いが広がって、おっ君がおっしゃるように、日本や世界の未来にの明るさにつながるといいなと私も思います。
     
     OKメッセージが、人が生まれてきた意味、人がそこに存在する意義を教えてくれる気がします。それがわかれば、人は生き生き生きられますよね~♪

    1. 谷奥勝美 より:

      そんな世の中にするのは私たちですよね。
      何ができるか考えてみましょうか?
      ごくごく小さなスモールステップでも、出来ることがありそうな(^^)

    2. 谷奥勝美 より:

      渡辺さんへ

       何度もすいません。
       ホテルの送迎の職についてから「おもてなし」について興味を持ち始めました。
      短く言うと相手(お客様)の立場に立って、今何をすれば喜ばれるのかを考えることです。まだまだ修行中の身でありますが、コラムを読んでいてそのおもてなしとOKメッセージの共通点を発見しました。それは相手のことをよく観察する、気持ちを感じるところから始まる点かと思いました。
       お茶くみという行為と送迎がどこかしら重なって見えてきたのです。

       照ちゃんのお茶くみをしながら20名の方々と接してきたことも無駄ではなかったようですし、更に遡ると幼い頃から民宿でお客様やスタッフに囲まれながら育ったのだとしたら、本当に恵まれた環境だったように思えてきます。
      (それ以外のご経験ももちろんですが)その延長線上に現在の渡辺さんがあるというのも理解しやすいですね。勝手な想像ですいません!

       だとすると、私の延長線上にはいったい何が待っているのでしょうか?60歳からのスタートですが、未来は明るくなってきましたね。「ありがとうございます」。
      より良い「おもてなし」ができるようがんばります。

      1. 渡辺照子 より:

        谷奥さん、こんにちは。返信が遅くなってしまいました。この間(かん)、谷奥さんのおもてなしやOKメッセージがどのように育まれているか、faceブックで拝読しておりました。記されている文章から、「よく観察する・気持ちを感ずる」が実践されている様子が伝わってきています。そして、今谷奥さんのいらっしゃるところが、「60歳からのスタートですが、未来は明るくなってきましたね。」・・・このことがまさに起こっているような、面白そうな、興味深い日々が展開されていると感じます。これも、谷奥さんが、私に、「今は過去の延長線上」といってくださいましたように、谷奥さんの今も、谷奥さんのこれまでのご経験・探索・洞察の延長線上のことなのだと確信しております。

  6. 細谷由紀子 より:

    照子さん

    お久しぶりです。
    有り難いことに仕事が毎日忙しく、久々に息抜き出来る時間が出来たので
    ブログをゆっくりじっくり読ませていただきました。
    照子さんとSFについて学んだ時間がよみがえり、改めてOKメッセージの
    響き、効果、感触など身体に入りこんできた気がします。
    こんな機会を頂きありがとうございます。

    ありがとうを言える人になるって簡単そうですが
    特に男性は気恥ずかしいとかあってなかなか出来なかったりしますよね。
    でもそんな男性や上司からありがとうを頂くと部下は嬉しいものです。
    逆に上司も日頃上層部から色々言われOKメッセージを受け取っていないのも
    事実ですね。

    先日上司にお世話になることが有り(上司は離れた場所に勤務していて直接お会いできないため、)「私は上司に恵まれていて幸せです。」とメールでお伝えしたら
    「私も部下に恵まれております。」とOKメッセージいただきました。
    なかなか対面できないご時世ですが、OKメッセージはいつでもどんな場面でも
    活用できるのでOKメッセージを通して思いや感謝を伝えてコミュニケーションを
    深めたいなと思いました。

    またブログ楽しみにしています。

    1. 渡辺照子 より:

      細谷さん、コメントをどうもありがとうございました。

      お忙しくお仕事をなさっていらしたのですね。
      そして、久しぶりに生まれた時間にブログを読み込んでご返信をいただけたことが
      とても嬉しいです。

      私は、細谷さんを、OKメッセージの使い手として、お見事であると以前から認識しています。私にはなかなかうまくいかせられない、我が子へのOKメッセージも
      見事に届かせていらっしゃいましたよね。

      細谷さんのこのブログへのコメント内容から伝わってくるのは、
      細谷さんは相手に、厚いOKメッセージを発しているなということです。
      どういうことかというと、細谷さんの「男性」や「上司」など周りの人々に対する
      眼差しが、「他者尊重」の意に満ちている感じがします。
      そのうえで、「OKメッセージ」を言葉でも届けているので、それが「厚み」に
      なるな~って思いました。

      最後の一文、「またブログ楽しみにしています。」にもしびれました。
      ❝これまでも読んでいてくださったんだ❞❝よ~し、また書くぞ~!❞
      と思わせていただきました。☺

      1. 細谷由紀子 より:

        照子さん

        返信ありがとうございます。
        そして沢山のOKメッセージありがとうございます。
        お盆休みを頂いた後の仕事はダルイなーって思った気持も
        おかげさまで晴れました!!

        ブログを読んで自分が学んだことなどを振り返ることは
        私にとって薬でもあります。
        引き続き楽しいお話し、考えさせられるお話し。楽しみにしています。

        1. 渡辺照子 より:

          細谷さん、ご返信をどうもありがとうございました。
          お盆休み明け、気持ちが晴れて、お仕事に向き合うことにつながったことが
          嬉しいです。

          日常の生活空間は離れていますが、細谷さんとブログを通して繋がって、
          考えたり感じたりしながら共に進めるようなこの環境が、とても嬉しいです。

  7. 小畑怜美 より:

    「深みやありがたさを感じる入り口の時点」と、入り口の先にある世界をありありと魅せていただきありがとうございます。事象としては同じ景色なのに、見方あるいは受けとり方によって、本人が得るものが随分と異なることに気付かされます。
    私も「深みやありがたさを感じる入り口の時点」にいる時があるなあ〜、なーんて自分を振り返ってクスクス笑いました。次のブログも楽しみにしています^^

    1. 渡辺照子 より:

      小畑さん、コメントをどうもありがとうございました。
      「事象としては同じ景色なのに、見方あるいは受けとり方によって、本人が得るものが随分と異なることに気付かされます。」とお気づきくださいましたことが嬉しいです。

      小畑さんも「『深みやありがたさを感じる入り口の時『『』にいる時がある」と思い当たったのですね。

      入口の時点で、その状態がネガティブな状態だとなかなか難しいことではありますが、その入り口に立っているときにこそ、願い・思いがかなってしまった状態(フューチャーパーフェクト)をリアルにイメージできるよう自分を促してあげたいものですね~♪ ここら辺のこと、引き続き自分磨きしてまいりたいと思います。

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