ゲスト投稿記事 No.5 豊村博明さん

執筆者紹介:豊村博明さんは昭和シェル石油から石油販売会社に管理部長として出向されていた時に、体育会系のトップダウン体質の組織にSF的な要素をブレンドさせる試みを成功させ、その顛末を2016年の”SF inside” Dayにて「体育会系SFの組織作り」というタイトルで発表してくださいました。そのユーモラスな語り口をご記憶の方も多いと思います。その後退職され、現在は福祉施設に勤務する中でもSFを活用して人が活かし合う組織文化を創ることに貢献されています。

山は動き始めた?いやいや、そんな甘くないかも・・でも少し期待

私は現在、小規模な福祉施設で総務を担当しているが、ここにも毎日、たくさんのドラマがある。

私の上司である取締役統括責任者Y氏(40歳)からの命を受け、昨年より「働きやすい職場づくり」に向けた取組をスタートさせた。弊社には、ケアマネ・介護士・保育士・看護師・理学療法士・医療専門学校からの研修生等、多様性に満ちており、階層別研修と称して、エルダー研修と管理者研修の中にSFを重点的に取り入れていくことにした。

弊社には、もともと「プラスワン」運動があり、「他人の良いところをひとつ発見し共有し合う」と言った文化があったので、それをもっと進化させていきたいと考えた。

研修は、エルダー、管理者共に、SFの概念から始まり、スケールウォーク、リソースゴシップ、リフレクティング、ソリューションカードゲーム(みんなもどきが付きますが)等、私が学んだことの全てをあの手この手で実施した。エルダー層と管理者層の両方にSFが浸透したら、きっと組織も変わっていくだろうという期待を込めて。

参加者からの研修レポートには、驚くほど前向きなコメントがちりばめられており、力強い手応えを感じた。ここでは紙面の関係上、キーワードのみご紹介する。

「相手の視点に立ち、一緒に考えていく」「こうすれば上手くいくかも?の発想の転換」「言葉や伝え方ひとつで相手の仕事に対する思いが変わる。」「自分の当たり前をあたり前と思わず・・・」「指導する力よりも寄り添う力」・・・・・

研修レポートを読んでいた私の方が、頭が下がる思いであった。『やはり、福祉に携わる人って、どこか心の底流に相手を思いやる気持ちがあるんだなあ』とその時、つくづく感じた。

ここで感慨に浸っている場合ではない。私のフューチャーパーフェクトはここからである。現場で働く人たちの想いを無駄にしてはいけない。働きやすい職場の実現のためには、組織のリーダーが本気になっているか。「Y統括、そうですよね。」と面と向かって言えないので、心の中でつぶやいた・・・。

最近、Y 統括の机の上にソリューションカードがずっと置いてあり、何やら忙しそうである。以下はY 統括と私のある朝の会話。始まり始まり~。

Y統括:「今度、私が所属する商工会議所の若手経営者の会で事例発表することになりました。」

豊村:「すごいですね。どうして発表することになったんですか。」

Y 統括:「うちのように、まだ創設6年目で職員100名を擁する会社に育っていった背景を発表して欲しいって、事務局から依頼されて・・・・」

豊村:「それはまたすごい!何人ぐらいの前で発表するんですか。」

Y統括:「30名ぐらい。SFの事、話します。もう30枚もPPT 作って、数回リハーサルもしてるんですよ。」(鼻息荒いはずだ!)

豊村:「へえ~。で、どんな内容を話するんですか。」

Y統括:「昨年、社内のSF研修で紹介されたスキー学校の話(*)とか。あれは、アンケートの内容が変わって、利用客がポジティブにスキー学校を評価し始めたから生徒が増えたこともそうですけど、学校側の職員の意識も変わったからだと思うんです。道具も古い、施設も古い。指導員も高齢だからうちは人気無いと勝手に思っていたけれど、アンケート評価を見て、我々も決して捨てたものじゃない。こんな面をお客さんは評価してくれてたんだ。だったら頑張ろうと意識が変わったことが大きいと思いました。変えられないものを無理やり変えようとしても無理だけど、視点を変えてみることで、変化を起こすことは出来るって。」

豊村:「なるほど。そういう見方もあったんですねえ。それは気づかなかったなあ。」

Y統括:「だから、うちの社員でも、変えられないものを無理に変えようとせず、こちら側の視点を変えてみることで、解決の糸口は見つかると思うんです。管理者として、今まで問題志向ばかりで解決しようと思っていたけど、SF的解決志向でも考えることができ、その両方を状況に応じて使い分けていくことが、大事だと思うようになりました。」

豊村:「素晴らしい!(拍手喝采)会社の幹部がそのような考え方を持ってくれたら、きっとうちも良い方向に変わって行くと思いますよ。もし統括の発表を聞いて、商工会議所の会員から、うちに来て研修してくれって頼まれたらどうします?」

Y統括:「もちろん、有料でやりますよ。(笑)」

Y 統括:「事業所でも少しづつ、SF的対応ができ始めているようで、嬉しいです。豊村さんのお陰ですよ。」(出ました!タイムリーなOKメッセージ!)

豊村:「それは良かったですねえ。」

その後、Y 統括の部下の一人であるF管理者と階段ですれ違った。

豊村:「F さん、Y統括がこんな事言ってましたよ。すごいでしょ。」

F 管理者:「ははは。本当に実践してくれればね。」

(そうやなあ~。そんなにすぐ変わるはずが無いよなあ。でもこういう会話が出来るようになったことが我社も一歩前進かも?いや、私のフューチャーパーフェクトに向けたスモールステップだ。スケーリング一つ上がりました!)

(*)スキー学校の話:
青木先生の研修で教わったことを、昨年の社内研修で紹介したもの。生徒がなかなか増えずに困っていたスキー学校だったが、アンケート内容を「私達の学校の至らないところや改善点があれば忌憚のないご意見をお寄せください。」という内容から「私達の学校の良い点について、お気づきのことをお聞かせください。」に変更したら、途端に生徒が増えて行った事例。

ゲスト投稿記事 No.5 豊村博明さん” に対して9件のコメントがあります。

  1. 柴田 篤 より:

    豊村さま

    とても心強いブログを、読ませていただきました。ありがとうございます。

    山はいつか、動くでしょうが。今、タンポポの綿毛のように、SFがキラキラ飛んでいる様子が、瞼に浮かびます。

  2. 豊村博明 より:

    柴田 篤様

    早速にコメントを頂きまして、ありがとうございます。
    私自身、SFを学んで良かったと思うことのひとつに、「~ねばならない」というタガのようなものが、何となく自分の中から外れたような気がします。

    「絶対にやり遂げなくてはならない」「絶対に浸透させなければならない」
    そう思ってしまうとしんどいですもんね。
    なので、組織にSFを浸透させるべく、自分のできる限りの事はするけれど、その結果、浸透していけば良いなあぐらいでちょうど良いと思えるようになりました。

    「タンポポの綿毛のように、SFがキラキラ飛んでいる様子」・・・・素敵な表現ですね。
     少し客観的な立ち位置で、その景色を目を細めて楽しめるような、そんな気持ちをいつの時も持っていたいと思いました。ありがとうございます。

    豊村博明

  3. おっくん より:

    豊村さんへ

     今回も豊村さんらしい力強いコラムをありがとうございました。

     F 管理者の「ははは。本当に実践してくれればね。」・・・の言葉からもF管理者さんの期待している様子が読み取られるようですし、SFの考え方が会社の中に浸透してきているんだなあと思いました。豊村さんのニヤニヤした顔も見えるようです。

     私はこのコラムを拝読して改めて組織の大切さを思い出しました。
     3週間前に豊村さんお勤めの会社よりもっと小さな「放課後等デイサービス」の施設に再就職しました。発達障害の子供達に関わる仕事で初めての挑戦です。

     就職するにあたり事前にネットで学んだり、就職してからも日々起こったことを咀嚼しながら仕事に取り組んできましたが、コラムを読みながら、自分の頭の中に「組織」という文字が無いことに気がつきました。いつの間にかひとりで力んでいたのでしょうか。自分も組織の中のひとりなんだと思うと、スッと肩の力が抜けたようでした。
     ちょっとした視点の切り替えですが、周りの先輩方に応援いただきながら、明日からまた新たな気持ちで仕事に取り組んでみようと思います。大切な気づきをありがとうございました。
     豊村さんのご活躍を楽しみにしております。

    1. 豊村博明 より:

      おっくんさん
      いつも温かいコメントありがとうございます。。実は私も今の会社には放課後デイサービスの職員で応募したのですが、なぜか面接で(Y 統括との面接ですよ。)適正が無いと判断されたのか、放課後デイサービスではなく総務部に配属になりました。(笑)なので、おっくんさんが羨ましいです。
      先日、ある研修で発達障害の職場対応について精神科医の講義を受けました。その内容を拝聴していて、現場では正にSF的対応が最適だと痛感した次第です。出来ていないことを指摘して叱るのではなく、少しでも前に進んだことをしっかり拾いあげて、コンプリメントを出す。「貴方の今してくれたことはほらこんなにみんなの役に立っているよ。」と真摯に感謝の気持ちを伝える。そうすると彼らはきっと自己肯定感も高まり、自信につながっていくと思いました。「人は肯定された時に変化の余裕が生まれる。」今、おっくんさんが現場で実践されようとしていることそのものですよね。
      きっと、これからのおっくんさんの関わりが、子供達だけでなく、周りの先生達にも良い影響を与え、先生達の学びの場になるような気がしてなりません。
      私のエルダー研修、管理者研修に放課後デイサービスの先生が数人います。彼女達も非常に熱心にSFを学び、びびっと来たことは現場で是非活用したいとレポートに返してくれています。
      これからのおっくんさんのご活躍が楽しみです。是非、コラムで事例紹介をお願いします。それを私が、弊社の研修会で紹介しますから。(笑)

      豊村博明

      1. おっくん より:

        豊村さんへ

         そうでしたか。同じ世界を知ってくれている豊村先輩の言葉は、スーッと体に溶け込んでいくようです。不安や失敗はいつまで経っても付き物ですが、常に未来を見つめながら進んでいきたいです。でも、実際は子供達に教えられることばかりで、カッコ悪いおじいさんですけどね😂ありのままでいきますわ。
         今日から仕事前のミーティングで胸の中の想いを語っていくつもりです。豊村さん曰く、周りの人達が上手く受け止めてくれることを信じて。

  4. 小林進一郎 より:

    豊村さん、SF活用のヒントをありがとうございます。

    スキー学校の話、とってもとってもおもしろいです。【魅力って探してようやく見つかる】ものなんだなって改めて気づきました。今日1日、身の回りの魅力を探し回って楽しんでみます♪

    Y統括の発表がすごくたのしみです!発表を聞いた人がどんなコメントをくれるんだろうとか、そのあとのY統括の新たな一手が楽しみです。豊村さんのフューチャーパーフェクトに向けておっきく動きそうな予感 笑

    >弊社には、もともと「プラスワン」運動があり、「他人の良いところをひとつ発見し共有し合う」と言った文化があったので、それをもっと進化させていきたいと考えた。

    そこにある文化を進化させる発想が、組織がスムーズに動くためにはすごく大事なことだったんじゃないかと感じましたし、ザ解決志向!って思いました。それ以上にぼくには豊村さんの会社の文化を尊重する姿勢がすばらしいなって思いました。

    Y統括に寄り添っている姿も素敵です。

    ありがとうございました。

  5. 豊村博明 より:

    小林さん、素敵なコメントありがとうございます。
    そうですよね。私も研修会で偉そうにSFの概念みたいなものを話して「分かりましたか。」みたいな態度取っていたら、実は私が考えも及ばなかった全然別の視点からSFの良さを発見していたY 統括。今回は私が「なるほど。そういう見方もあったんだ。」と刺激を受けました。
    これからY 統括の動きに過剰な期待をせず、でも少し期待します。
    多分無いとは思いますが、万々一、「うちの会社でも話してくれ。」って言われたらどうすんだろう?それがまた良いきっかけになって、統括の自信に繋がって行くかも知れませんね。
    小林さんのように、組織のマネジャーの立場で、自分の体を張ってまで、日々SFを実践されている方は本当に少ないと思います。上のポジションになればなるほど、SF思考の領域が狭くなっていかざるを得ないのでしょうか。
    豊村博明

  6. シオタリョウコ より:

    ブログ読んで、エネルギーを頂きました。
    創設6年目で職員100名の福祉施設。小規模どころか大規模です!
    そして、研修システム(階層別他、各種)やプラスワン運動など、教育や職員のやりがいにフォーカスした文化が出来ていて、それを豊村さんが”進化させていきたい”との事。素晴らしいです。

    私自身、以前医療法人や介護現場の教育部門で働いていたので、医療介護現場でSFはとても大切なことだと痛感しています。
    一方で、業界の特性上、問題志向で取り組む必要のある事も多いので、解決志向を根付かせることに難しさもあったり…

    ちょうど今日、医療現場の管理者との面談が入っています。
    「~が出来ない人がいる」を列挙したメールが届き相談が来たのですが、豊村さんのメールでエネルギーいただき臨めそうです。
    ありがとうございました。

    このような実例をブログで教えて下さって感謝です。

  7. 豊村博明 より:

    シオタリョウコ様へ
    応援メッセージ、ありがとうございました。
    今の会社にパートとして働かせて頂いておりますが、色々な立場の方がたくさんいらっしゃいます。主婦、介護福祉士、専門学校卒、介護施設からの転職組、理学療法士、看護師、新卒、発達障がいのご家族をお持ちの方・・・・
    特に介護職の仕事はハードな割にはお給料も安い。同じ時給ならもっと楽で、清潔で、恵まれた仕事環境のところがたくさんあるのに、なぜ彼(彼女)達は、わざわざ福祉施設に、認知症のお年寄りのお世話をしにやってくるのか、いつも考えさせられます。(ただ、良い面ばかりではなく、離職率も高いですが。)そこには打算的な損得を超えた使命感と言ってしまえばオーバーですが、彼らにその仕事に向かわせるきらっと光る価値観のようなものを携えながら、日々の仕事の中で何かを追い求めているのかも知れません。だから感受性も鋭く、自分の心の中では様々な葛藤はあるだろうけれど、人を思いやる感性というものが人一倍磨かれているのかなあと勝手に想像しています。
    だからこそ、上に立つ者は、大局的な見地で彼らを包み込める度量のようなものが一層求められると思っています。
    偉そうな記述になってしまいましたが、福祉施設はとても不思議な世界です。私自身、彼らからエネルギーをもらうことも非常に多いです。

    豊村

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