「あるもの」をつなぐ No.10 小林シンイチロウ

見えない「意欲」をすくいあげる!

ぼくらが仕事を進めるとき、表現された言葉や行動を頼りに仕事が進められています。だけど、表現されているのはごく一部で、気持ちや考えのかなりの部分は削ぎ落とされていて、周囲には分かりません。

時々、部下が自身の気持ちや考えを話してくれる場面があります。そうすると、その気持ちや考えを汲み取って本人も満足できるし、組織の貢献にもつながる仕事を創っていくこともできます。部下のKさんの事例ではこんなことがありました。

「そうかあ、Kさんはデザインの仕事に関わっていたいんだ・・・だったらKさんからデザインのアドバイスをもらう機会をつくって、チームメンバーのデザイン目利き力アップに貢献してもらおう!」(「あるもの」をつなぐ No.3)

今回は、部下のCさんの事例です。見えていなかった「意欲」というリソースをすくいあげて、Cさんの満足と成果の両立につなげることができたエピソードです。

少し長いですが、お付き合いください。

<背景>

ぼくのチームは2020年1月から××部門へ異動となり、新しい仕事も担うことになりました。希望しない異動であり、おまけに今までやったことのない仕事が増えるので、チームメンバーは異動に大反対していました。

当時、3名のメンバーに「××部門に移るんだったら他の部門に異動を希望します!」と脅されていました。今となっては笑いごとですが、当時は眠れずに過ごす日々が続いたものです。

<チームのビジョンを共有するも・・総論賛成、各論反対>

「なんとかチームメンバーが異動に対して前向きになってほしいなあ」

そう思いながら様々な書籍やセミナーから学びました。そして、会社のビジョンに基づいた部門のビジョンを描き、リーダー自ら自分の言葉で説明し、メンバーの共感を得ることからスタートすることが大事だとわかりました

早速、チーム内で会社が向かうべき方向、その手段としてのデジタル業務シフトの重要性を自分の言葉で語りました。すると共感している雰囲気。しかし、話しが具体的になっていくと、

「自分たちの仕事ではない!」
「仕事が増える!」
「パンクする!」
「そんな下請けみたいな仕事したくない!」

メンバー全員で猛反対の大合唱。そこから話合いを進めましたが折り合うことはありませんでした。総論賛成、各論反対。その中でも外国出身のCさんは大きく甲高い声で、

「コバヤシさん!!一人で異動してください!ワタシたちは異動しませんよ!今でも忙しいのに、あんなところ行ったら死んじゃうよ!」

と何度も何度もぼくに訴えていました。

<Cさんのこと>

Cさんは自分の仕事以外には興味をもたないし他人の仕事を手伝うことはありません。役割を明確にして、それ以外の仕事には絶対に手をださない。だからぼくが育成のつもりでテーマを与えても、

「いまちょっと自分の仕事で忙しいので出来ません!」

と即答で断られてしまいます。今後のキャリアアップや成長のためだと伝えて説得するのですが、聞く耳をもってくれません。最後には、

「コバヤシさんがやればいいじゃないですか!」

で終わります。僕の上司の部長からは「Cさんはワガママすぎる!役割拡大のためにちゃんとやらせてください!」とお叱りを受けます。ぼくがCさんを説得するには力不足のようです。

一方で、Cさんは受けた仕事は高い責任感とクオリティで進めるといった側面もあります。相手のニーズに最大級で応えるために過剰なほど尽くします。

だからCさんは営業さんから頼りにされていて、依頼される仕事が多いのです。営業からの仕事が増えることによって残業時間が増え、Cさん自身が疲弊してしまうことがありました。

そんなCさんの様子を見ていて、そこまでやる必要ないよと伝えたことがあるのですが、こんな返事がかえってきたのです。

「営業さんはかわいそうなんです!いろんな部署にデータが欲しいと要請しても相手にしてもらえないんです。たらい回しにされてワタシを頼ってくるんです。営業が頑張って売り上げあげてるのに、手伝ってあげないのはオカシイですよ!」

うんうん、Cさんの言うとおりだと思いました。Cさんは会社の業績に貢献しようと努力しています。これを否定するのはおかしい。ぼくはこの活動をサポートするために、要請してきた相手に本当にやる必要があるか再検討をお願いしたり、納期調整を行っています。

Cさんが協力的になってくれると、デジタル業務推進に弾みがつくことになります。

<霧の中で道筋をさがす>

話を戻します。他部門への異動にメンバー全員が猛反対の中、ぼくから何を言っても聞いてもらえないなと思っていました。

「これはもう話を聞くしかない」

そうすると、何について不安や不満におもっているのか、おぼろげながら見えていきました。今思えば、この瞬間がうまくいくか、いかないかの分岐点だったと思います。

話を聞いているうちにわかってきたのは2つのカベの存在でした。

1つはデジタル業務の知識も経験も無いからやれるかどうか不安。もう1つは企画Gとの関わりで、下請けに見られる不満とうまくコミュニケーションがとれるか不安だということ。

メンバーが心のうちに抱えていた不安や不満をぼくも含めて全員で共有したことで、前向きまで行かないまでも、落ち着きを取り戻せたように思います。こうしてメンバーの意識が「すごい後向き」から「やや後ろ向き」に変化した感じです。

<突破口(好事例)を見つけてチーム内で共有する>

ひとまずメンバー全員で新しい部門に異動し業務が進んでいきます。毎日、朝会の中で業務の進捗報告を受けながら2つの課題を意識し、メンバーがうまくやれていることを必至でさがしていました。

「ん!?Aさんはデジタル業務を企画Gとうまく進めているようだぞ。朝会でAさんの進め方を共有してメンバー全員に広げよう!」

そこで、Aさんに講師になってもらい、デジタル業務の進め方をメンバーにレクチャーしてもらうよう頼みました。Aさんは快諾してくれて、勉強会を実施したのです。

他部門に教えてもらうよりも、チーム内のメンバーから教わる方が、「自分にもできるかも」「気楽にわからないことも聞ける」という感覚もあるようで、活発な質疑で理解を深めていました。デジタル業務に対して距離を感じていたメンバーにとっては、とっかかり易くする大事な局面でした。

ここでようやくデジタル業務推進の突破口をひらくことができ、プラットフォームに乗ってスタートラインに立てたと思います。

<スケーリングで突破口を広げるリソースをすくいあげる>

部門長からはデジタル業務の推進に拍車をかけるように要請されていました。メンバーの進み具合や意識には差があります。今後、メンバー全員がスピードを上げていく手立てを考えなければなりませんでした。

「企画Gとの業務関係」や「デジタル業務への関与」についてスケーリングをしてみることにしました。これら2つを尺度にしてメンバーそれぞれの認識を点数とその中身を聞くことで確認します。言い換えるとスケーリングを使って見えていないリソースをすくいあげます

スケールのつくり方は、「企画Gとの業務関係」について「協働的な業務関係」ができている状態を10、「業務関係が全く無い」を1としました。

【スケーリング尺度1】

もう1つは、「新しい仕事(デジタル業務)への関与」について、「新しい仕事に取り組み始めている」を10、「新しい仕事に関心なし」を1としました。

【スケーリング尺度2】

評価面談のタイミングを使って各メンバーにスケーリングしています。点数を聞いて、その点数の中身にどんなリソースが隠されているかをヒアリングですくいあげます。Aさん、Bさん、Cさんの3名に実施しました。

【スケーリングの結果】

【点数の中身をヒアリング】

Aさんは先行して企画Gと協働でデジタル業務を進めているため、高得点なのは納得。この後もモチベーションも高く自走してくれました。

驚いたのがCさんです。「企画Gとの業務関係」が7点、「新しい仕事(デジタル業務)への関与」が8点とめちゃ高得点。デジタル業務は進んでいないし理由が全く見当たらない。さらに新しい部門に移ってくる前、Cさんはデジタル業務をやることに大反対していました。なんでこんなに高得点なの?と聞いてみると、

新しいことを学ぶのは好きだし、会社に(デジタル業務が)必要なら仕事を通じて学びたいです

と、力強くイキイキと話してくれました。見えていなかった「意欲」をすくいあげた瞬間でした。もうちょっと聞いてみると、ぼくが話したビジョンによってデジタル業務の重要性を理解し、新しいことを学びたいという好奇心とデジタル業務が結びついたらしい。あー、あのビジョンはちゃんと響いていたんだとこのとき初めて気づきました。

Cさんのデジタル業務が表向き進んで無いのは、機会が未だ無いだけでした。この後Cさんは意欲的にデジタル業務を進めてくれます。

ぼくはCさんの学びたいという積極的な「意欲」に応えてあげたいと考え、さらに具体的な後押しをすることにしました。チーム共有のMACしかなかったところを、Cさんの希望であった個人持ちのMACをメンバー全員に購入し、データを扱えるようにしたのです。こうしてCさんの学びは加速し、新しいデジタル業務が広がっています。

<おわりに>

Cさんのデジタルを学ぶ意欲を知ったときは驚きと同時にうれしかったですね。ぼくもCさんの意欲に応えたい!と思いMACの購入を上司に打診しました。結果として会社への貢献とCさんの満足を両立させることができています。

Kさんの時もそうでしたが(あるもの」をつなぐ No.3)、関心ごと、興味のあること、大切にしていることを知って仕事に活かすことは、満足につながりますし、主役になって積極的に取り組んでくれるので会社の貢献にもつながります。

見えていない「意欲」をすくいあげて、成果と満足につなげよう!

「あるもの」をつなぐ No.10 小林シンイチロウ” に対して2件のコメントがあります。

  1. 豊村博明 より:

    小林さん、ご無沙汰しております。
    過日のKさんと言い、今回のCさんと言い、難儀な部下を一手に引き受けておられる日々のご苦労をお察し致します。でも、そういう個性が光る部下の一人ひとりの短所ではなく、長所に焦点を当て、その人の個性に応じた成長に向けたレールを敷いていく小林さんにはいつも頭が下がります。
    日々、相当なプレッシャーとストレスだと想像できますが、ある意味、ひょうひょうとしながらも、管理者として体を張って部下を守り、その人を成長させようとする小林さんのエネルギーは一体どこから湧いて来るのでしょうか。
    絶えず自分の上役の顔色を伺いながら仕事をする管理職が多い中で、自分の信念を貫きながら、かつ会社側の管理職としての顔も常に持ち続け、上役との調整を遂行していくスキルには驚かされます。願わくば、小林さんのようなマネジャーとしての生き様を上層部がもっと評価し、後押ししてくれれば、小林さんの眼前の世界がもっと広がっていくのになあと思っていつも拝読しています。でも、世の中そんなに簡単に行ったら苦労しませんよね。
    勝手気ままな部下の成長路線と会社の方針とのはざまに立たされ、夜も寝られないぐらいの綱渡りの日々が続いていても、むしろそのプレッシャーを本当は心のどこかで楽しみながら、いつもまにかその綱渡りで向こう岸まで渡っちゃうところに小林さんのすごさがあります!
    私なら、とっくに川に落ちてますよ。(笑)

  2. おっくん より:

    小林シンイチロウさんへ

     見えない「意欲」をすくいあげる!・・・このタイトルに光を見つけたように思いました。

     最近、発達障害を持つ子供たちと関わる施設に就職したのですが、今ほどコミュニケーションの難しさを思い知らされたことはありません。子供たちの気持ちが理解できない自分に何ができるのか問いかけていたところでした。自分の気持ちをわかってもらえない子供たちの方が私よりもよっぽど辛いのです。

     小林さんが部下の方たちのリソースを真剣に見つけ出して磨き上げていったように、私も子供たちの目線に立って寄り添いながら同じものを見つめていきたいと決意することが出来ました。その役割を果たすために私がここに来たのだと思っています。今は霧で見えない希望という灯りが、必ず存在していることを信じてみようと思います。
     前に進める勇気をいただき本当にありがとうございました。

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