「あるもの」をつなぐ No.7 シンイチロウ

解決志向チームへの道
~ チームが個人の持ち味を活かし、個人の持ち味がチームを活かす ~

今回は部下のKさんのことでとてもうれしいことがあったのでシェアさせてください。Kさんはこれまでもブログに登場しています。ちょっと振り返りがあるので前のブログと重なる部分もありますが、どうかご容赦ください。

<Kさんの仕事が社内で評価される!>
今年で定年を迎えるKさんが仕事で進めてきた環境のテーマが、社内のベストプラクティス賞(仮称)にノミネートされました。部門長の推薦です。私はこれまで一緒に積み上げてきた2年の道のりを回想しながら、

「ここまでくるとは正直思っていなかったなあ・・」

と、想像以上の結果への驚きと評価されたことへの喜びがごちゃ混ぜになった心境でした。Kさんがんばったね!

これまで解決志向で進めてきたKさんとぼくとの関わりや、Kさんとチームとの関わりを書いていきますのでお付き合いください。

<前部門でのKさんの評判>
Kさんがぼくのチームに移る前の話です。2019年にKさんが所属していた部門のマネージャーから、

「Kを引き取ってくれないか、おまえ、仲良いんだろう?」

と相談を受けました。仕事をしないし、報連相も全くないというのです。Kさんと一緒に働いていた人にもヒアリングしたのですが、やはり同様の答えでした。一言でいうと嫌われていて邪魔扱い(Kさんゴメン!)。

ぼくはKさんと飲みにいく仲です。グルメで話も楽しくて良き先輩です。仕事面では確かに良い情報は聞いていませんでしたので、それほど驚きはしなかったのですが、ここまでの言われようはヒドイなあと思いました。

一方でKさんがぼくのチームに移ってから前部門のことを聞いてみると、「上司や同僚は何を言ってもこっちの言うことを聞かない。だから話もしないし聞かれても答えなかった」というのです。これじゃあ、やる気もなくなるよなあと思いながら、どっちが本当かはわかりません。

<Kさんの評判は事実だった>
結局2019年7月にぼくのチームの仲間になったのですが、前部門のマネージャーの言う通りでした。仕事を任せても進捗の報告はないし、聞いても「言う必要はない」と帰ってきます。しつこく聞くと、「途中から何か言われると、思ったように仕事が進まない」ということでした。

こんな調子だったので、ぼくの上司からは「Kさんは何をやってるんだ?他部門から仕事を受けてくれないとクレームがきてるぞ!なんとかしろ!」と何度も要請がありました。その度ごとにKさんと話すのですが、Kさんは相手が悪いと一点張りです。私も上司とKさんの間にはさまれ疲弊していきました。

「このままではKさんも以前と同じになってしまうし、ぼくも上司から同じことを言われ続けて気持ちがもたないな・・」

<環境の仕事を舞台に主役を演じてもらう>
そんな状態がしばらく続いたのですが、2020年半ごろにぼくのグループがSDGs関連の環境テーマを請け負うことになったので、Kさんに担当いただこうと考えました。

Kさんはサーファーで、海岸のゴミ拾いをやったことがあると聞いていたので関心があるのではないかと思ったのです。

当初Kさんにこのテーマをお願いしたとき、「テーマはいいけど成果報告の資料づくりや嫌だ」というので、資料づくりは手伝うことを前提に引き受けてもらいました。とにかくまずはこのテーマを引き受けていただき、主役になって欲しかったのです。

毎朝行っているチームの朝会では、Kさんの環境テーマの進捗をメンバーと共有してもらい、Kさんの活動をメンバーに知ってもらうようにしました。

環境テーマの仕事が少しづつ進み、1回/月の成果報告会でも、Kさんは嫌がりながらも、2ページが5ページへ、5ページが10ページへと資料作成と発表の量を増やしていきました。

半年もすると、「環境テーマならKさん」と認知されるようになり、Kさんも自分の仕事だという自負とともに、主役感を感じてくれるようになりました。ぼくはこの調子でやり切って欲しいと願っていました。

<まさかのキャリアチェンジ>
でも現実はなかなか難しいです。なんとKさんは以前仕事をしてたデザイン制作の部署にキャリアチェンジ(異動願い)を提出したのです。ぼくはとてもショックでした。こんなにKさんのために一生懸命やってるのに理解してくれていないのかと。

Kさんに聞くと、彼がキャリアチェンジを提出した理由がわかりました。

「しんちゃんさあ、おれデザイン制作の仕事で会社人生を終えたいんだよね。でも環境の仕事は好きだから、キャリアチェンジがダメだったら環境の仕事頑張るよ」

Kさんにとって、デザイン制作の仕事は大切なんです。デザインの仕事がやりたいんです。ぼくは初めてK さんが大切にしていることを知ることができました。

<大切にしている仕事でチームに貢献>
結局、Kさんのキャリアチェンジは叶いませんでした。しかし、ぼくはこのことをキッカケにチームメンバーに対してデザインのアドバイスをお願いしました。ぼくのチームは外部へデザイン制作の依頼をする仕事があるので、Kさんのアドバイスはとても役に立ちます。

朝会の報連相でチームメンバーからデザインを共有してもらい、それについてKさんからアドバイスをもらうようにしました。

Kさんはメンバーに的確にアドバイスをしてくれます。メンバーも学びが多くてチーム力が上がっています。Kさんのアドバイスは押し付けがましくなく、かといって遠慮もありません。伝えるべきことはしっかり伝えています。メンバーはKさんのアドバイスに感謝を伝えるようになり、Kさんは頼りになる存在に変わっていきました。ここでもKさんは主役を張ってくれました。

<成果を生み出した環境テーマ>
環境テーマの話に戻ります。この取り組みは自社のみならず他社を数社巻き込んで進める大きなプロジェクトになりました。他社との関わりはぼくが引き受け、Kさんには環境対応の実務を進めていただく役割分担をしてきました。

そして2021年12月、ようやく社外へリリースが完了し環境テーマ推進の一区切りがつきました。2月に入り、環境のテーマが社内のベストプラクティス賞(仮称)にエントリーしたいと部門長から相談がありました。Kさんはエントリーを快諾したので、エントリーシートの作成をお願いしたところ、

「エントリーシート書くの面倒くさいなあ、しんちゃん書いといてよ」

「Kさん!さすがにそれはできないっす!Kさん個人のことですから自分で書いてください!」

「わかったよお 笑」

相変わらずなKさんですが、このグループに来たことがKさんの大切なものを少しでも大きくできたらうれしいです。

<インスーからの学び:組織がつくった問題は組織を使って解決する>
解決志向の取り組みで意識していることがあります。インスーのワークショップで学校のいじめ問題について話していた時のことです。

「社会が生み出した問題は、社会を使って解決するべき」

いじめはクラスが生み出したもの。だからクラスを使って解決すべきというのです。会社でいえば、「組織が生み出した問題は、組織をつかって解決すべき」ということでしょうか。

前部門でKさんが問題児であるという「問題」は、前部門の組織が作り出してしまった「問題」なのかもしれない。だから、その問題は「Kさん自身を改善する」というよりも、「組織を使って解決する」ことが必要なんだと思います。

もし、前部門の組織のようにKさんに関わっていたらどうだっただろう。Kさんは同じような境遇になってしまい、Kさんの持ち味が組織の成果に生かしきれなかったんじゃないか。あやうくぼくのチームでもKさん自身を「問題」としてしまうところでした。

肯定し続けて、主役になれる機会を見つけて作って、周囲にやっていることを発信していくことで、組織が生み出した問題を組織が解決しているのではないか。そんなことを感じたのでシェアさせていただきました。

前部門のマネージャーに会うたびにこう聞かれます。

「Kはちゃんと仕事してるか? 嘲笑」

こないだも同じように聞かれました。ぼくは清々しい気持ちで答えることができました。

「ちゃんとやってますよ」

解決志向チームへの道はまだまだ続きます。

一人一人の持ち味をチームの力で活かし、チームの力を一人一人の持ち味で高めよう!

「あるもの」をつなぐ No.7 シンイチロウ” に対して13件のコメントがあります。

  1. 深山敏郎 より:

    いいお話ですね。組織が作り出した問題は、組織を使って解決する。参考になりました。有り難うございました。

    1. 小林進一郎 より:

      深山さん、コメントありがとうございます。私も組織を使って人を良くするっていう発想が好きです。

  2. シオタリョウコ より:

    小林さん、こんにちは。
    ブログを読んで、前回同様(笑)色々な感情がめぐりました。感動だけでは表現できない「そうか…そうか…そんなことになったんだな…すごい~」という思いです。(わかりにくいですね)

    Kさんのこと、よく覚えています。私はKさんが(仕事の仕方は一旦置いておき)「自分のやりたいことを明確にする生き方」にリスペクトを感じ共感したのでその点をコメントさせていただきました。

    自分自身、組織にいた時の事を思い出すと、仕事のある一面(報連相が無い等)がその人の全てと勘違いしてしまったり、そもそもその人は何をしたいのか…という視点に立てていなかったな…と思います。

    今年定年を迎えるKさんは、数年前には思いもしなかった気持ちで次への人生を歩まれるのだと思います。そしてKさんを通して現部門の方々(もしかしたら、前部門の方々にとっても)心に残る体験をしたのではないかと想像しました。
    小林さんのブログを通して、私も部門の一員のように疑似体験ができました。ありがとうございます。

    『肯定し続けて、主役になれる機会を見つけて作って、周囲にやっていることを発信していくことで、組織が生み出した問題を組織が解決しているのではないか。』
    この言葉は、私にとってこれからも折に触れ思い出し心に留めようと思うほど、強く残りました。

  3. 小林進一郎 より:

    シオタさん、コメントありがとうございます。Kさんの近くにいるのではないかと思うほど、シオタさんはKさんのことを理解されている様に思えます。

    たった今、上長からメールがあり、エントリーした結果Kさんがブロンズ賞を獲得しました!よかったあ 涙

    1. yasuteru より:

      おめでとうございます(感涙)!
      社内各所から「えっ、あのKさんが!?」という声が上がるのが聴こえる気がしてしまいます。そして、それに伴う多くの笑顔が見える気もします♪ほんと、すばらしいことですね!!

      1. 小林進一郎 より:

        青木さん、ありがとうございます(涙)!
        Kさんからの学びは大きいです。

  4. シオタリョウコ より:

    小林さん、そしてKさん(もう知っている気になっている:笑)ブロンズ賞、おめでとうございます。小林さんのチームの一員になった気分で嬉しいです。

  5. 本間俊介 より:

    小林さん
    SFマネージャ解体新書の中のKさんですよね。Kさんは先がみえる方で、元々仕事ができるんです。他から秀でた特長を業務に活用しプライドを認め、Kさんを波に乗せ成果やサクセスに繋げた小林さんの粘りに拍手します。ブロンズ章の受章そのものよりも、Kさんに対する周りの見る目が変わるきっかけになれば良いと思います。たぶん本人は内心章をもらう実力がもともとあると思っている方なので、更に演じる機会を作ってあげれば、自動的に肯定的な気持ちで第二の人生に行かれるのではとおもいます。そういう点で、管理者として部下の人生に良い影響を与える小林さんにKさんにかわって御礼を申し上げます。(勝手な想像すみません)本間

    1. 小林進一郎 より:

      本間さん、ありがとうございます。SFマネージャ解体新書に登場したKさんです。Kさんの底力を見せつけられました。Kさんに代わって本間さんからお礼いただけるなんて、本当ありがたいことです。というか、Kさんは幸せものですね。

  6. おっくん より:

    小林さんへ

     小林さん、本当によかったですね!

     人として目の前の人の成長ほど嬉しいことはないですよね。Kさんの場合、成長というより本当の自分を発見したと言ったほうが正解かなと思っています。

     2年前の愚痴を愚痴で言い返すだけのKさんのままであれば、今の景色は見えなかったし、もしかして1番驚いているのは誰よりもKさん自身かもしれません。皆さんのおっしゃる通りこれからのKさんのご活躍がとても楽しみです。

     私は思うんですが、2年前の小林さんの中には、すでにこうなるという姿(FP)があったんですよね。どれほどの確信があったかどうかは別にして、その姿に向けて着実に根気強く、丁寧に支えてこられた小林さんこそ真のマネージャーであると言いたいです。定年を控えた友人に対してあなたは少しも変わらず光を当てて続けてこられた。そしてあなた自身もその栄冠を手にしたのだろうと。
    ブロンズ賞はそのご褒美なんですね😊
    本当におめでとうございました。

     コラムに散りばめられた至極の言葉はしっかりと受け取らせていただきます。
    そして今宵は共に乾杯といたしましょう!やっぱチームっていいですね❗

    1. 小林進一郎 より:

      おっくんへ

      ありがとうございます。チームって本当にいいです。

      >Kさんの場合、成長というより本当の自分を発見したと言ったほうが正解>かなと思っています。

      本当そうですね。本当の自分を表現できているのにすぎないのかもしれません。青木さんにも同じ様なことを言われたことがあって、そのときピンとこなかったのですが、今ようやくわかりました。

      ちょっと大袈裟かもわかりませんが、チームでいられるって人の素晴らしさを味わうことができる機会ではないかと思ったりもします。

      いまのチームでいられること大切に思いながらこれからもメンバーの素晴らしさに出会いたい!です。

      1. おっくん より:

        いやー、僕には次のステップが開けそうな気がするなあ。あっ、すでに進行中かも😊

  7. 本間俊介 より:

    小林さん
    企業は利益を出すのが、必須ですが、その為の経営資源である人財については、隣の芝生が良く見えて、ローテイションの名のもとで本人の可能性を見つけ伸ばすというより、とかく目先の業務遂行のため、力関係で優秀だろうと思える人を強引に部下にしようとし、そうでないと判断した部下を他部署へ出そうとし、優秀と思う部下は手元に留め、それが結果として、部門の競争力や部下のチャンスの芽を摘んでしまう場面を幾度も見てきました。部下を育成するということは、言葉では簡単ですが、変化のスピードが速い今、管理者の度量や手腕がますます重要になってきているのだなあと、感じ入りました。ぶれない小林さんの下で強いチームが出来ていますね。話はそれますが、転勤や移動といった変化を避ける部下や仕事は選んでも、管理職になりたがらない部下もけっこういて、チャンスを与えようとする親心をがつたわらないもどかしさを懐かしく思い出しました。3年毎に原則移動のある公務員は移動が当たり前でもうすぐその時期になりますが、会社とは別な世界です。あまり関係ないコメントでした。

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