「あるもの」をつなぐ No.3 シンイチロウ
<本人が大切にしていること・関心ごとを中心
に据えたマネジメント>
今回はグループメンバーのKさんがこの1年の活動で力を発揮してくれた嬉しい話です。
先日、上期の部下の評価を終えました。メンバーはみんな頑張ってくれたのですが、特にKさんは素晴らしい成果を出してくれました。評価をつけながら2年前を思い出していました。あの頃は今の仕事振りを全く想像できなかったなあ。
<Kさんのこと>
Kさんは仕事中でもぼくのことを「コバちゃん」と呼びます。でもそれをよく思わない人もいます。「上司なんだからナメられちゃダメだ!」と怒られたこともあります。ナメられるのは嫌ですけど、彼はそんなつもりはないのです。もともと同僚で仲が良かったから親しげに呼んでくれるんです。
Kさんはサーファーのおじさんで、とても人懐っこくて、グルメで、一緒にいると楽しい人です。一方で仕事では良い評判を聞きませんでした。
そんなKさんがぼくのグループに異動してきたのは2年前です。Kさんの上司から「仲が良さそうだから引き取って欲しい」と相談されていました。よく話を聞いてみると、まったく仕事をしないというのです。紆余曲折ありましたが、結局Kさんはぼくのグループの仲間になりました。
一緒に仕事をして初めて仕事をしてないように思われても仕方ないと理解しました。仕事の依頼は受けないし、報連相がほぼ無いのです。当初は面くらいました。ぼくの上司からも「Kさんは何をやってんだ?仕事してるのか?」と怒られるし、すでにいたメンバーにも良い影響を与えないと思っていました。
ぼくも何度となく最低限の仕事の進捗報告はして欲しいと伝えましたが、「必要ない」の一点張り。どうして進捗報告が嫌なのかというと、自分は仕事をうまくやれているし、あれこれ言われて仕事内容が変わると、思っていたように進まないということでした。
以前のデザインGでは肩身の狭い思いをしてきたようで、少し意固地になっているようにも見えました。ぼくとしてはKさんは必要とされているし、このグループが居場所であることを感じてほしいと思っていました。
<新しいテーマへの挑戦>
ちょうど全社テーマを作って各担当に持たせて欲しいと要請があったので、4つテーマを抽出し、4人に何を担当してもらうか考えました。各テーマは重めだし、途中で投げ出すわけには行かないので慎重に考えました。特にKさんのテーマは迷いました。
色々考えた結果、Kさんには環境テーマをお願いすることにしました。このテーマは外部の会社と協働して進めることが多くなります。彼はサーファーで自然をこよなく愛しているし、外部の会社に動いて頂くコミュニケーションが得意だと自負していました。この2つは環境テーマを動かす大きなリソースです。
海洋プラスチックの話をして環境への関心の高さを確認したところ、Kさんも海岸のプラスチックごみ拾いを手伝ったことがあるということでした。これならいけるかもと思い、Kさんに環境テーマについて尋ねてみました。
ぼく:「あのさあ、全社テーマのなかの環境テーマやってみない?協力会社と協働していくことが多いしKさんが適任だと思ったんだよね」
Kさん:「え〜いやだよ、大変だもん」
この反応は全面的に否定した感じではないと思ったので、さらに質問しました。
ぼく:「Kさんにピッタリのテーマだと思うけどなあ。何がいや?ぼくも手伝いますよ」
Kさん「報告資料作成したり、報告したりするのはいやだ。テーマ自体はいいと思う」
ぼく:「じゃあさ、資料作成や報告はぼくと手分けしてやろうよ。それならいい?」
Kさん:「それならいいよ」
本来なら担当としてすべてお願いするところですが、これまでの仕事の仕方を観察していると、それは到底無理だなと感じていました。だからまずはテーマを持っていただくことをゴールとして、作業はぼくが受け持ってもいいと思っていました。
なぜかというと、環境テーマの仕事は筋がよくて必ず成功できる見通しがあるし、進め始めたらきっとやりがいを感じて自分の仕事にしてもらえると思ったからです。
そしてこの1年、二人三脚で環境テーマを進めてきました。最初の頃は資料作成と報告はぼくが9割やって、残りを埋めてもらっていました。
<Kさんが大切にしていること>
やっと環境テーマが進み始めたと思った矢先。KさんがデザインGへ異動願いを出したのです。ショックでした。ようやく活躍してもらえる環境テーマが立ち上がったばかりなのに。私もKさんの為に、それなりに努力してきたのに。
異動願いを出したあとの私との面談でKさんの考えを聞くことができました。「コバちゃん、俺、デザインずっとやってきたから最後もデザインの仕事で終わりたいんだよね。異動がダメだったらさあ、ココで環境の仕事やっていくよ。環境の仕事好きだからさ」
そっか。Kさんにとってデザインの仕事はとても大切なものなんだ。仕方なく制作Gで仕事をしているんだなあ・・でも環境の仕事をポジティブに捉えてくれていてよかった。
異動が決まったら仕方ないけど、ここにいる間はデザインに対する想いや得意であるという自負を大事にしつつ、今の制作Gで意義を感じる仕事をしてもらいたいと思いを巡らせていました。
結局、Kさんの異動は叶わず、引き続き制作Gで仕事をすることになりました。定年までこのグループで仕事をしていく事になります。
ぼくのグループの仕事はデザインが重要な位置を占めるので、Kさんの専門性を活かしてメンバーにデザインのアドバイスをして欲しいと伝えました。
「それはそうだよね。ココのメンバーはデザインを専門にやってるわけじゃないから」と快諾。
やり始めてからのメンバーの様子を見ていると、アドバイスが刺激になり学びになっているし、Kさん自身もデザインについて語るときは力強さを感じます。Kさんが大切にしていることを少しでも感じられていたらいいなあ。
<環境テーマが自分のものになっていく>
上記のようにKさんが大切にしていることを業務に加えつつ、環境テーマの報告会でKさんが主役として見えるように配慮したり、協力会社にKさんへのバックアップをお願いしていました。
少しずつKさんは環境テーマの仕事に対する思い入れが強くなっていき、7月の報告会では資料準備と発表の8割を1人でこなしていました。他の仕事でも報連相を求めればきっちりしてくれるようになりました。
「ここまで来たかあ。Kさん頑張ってきたなあ…周囲の噂に飲み込まれなくてよかった」
熱いものがこみ上げると同時にKさんがとても頼もしく見えました。Kさんは変わったのかな?変わったというより単に持っているものが引き出されていったという感じでしょうか。
下期が踏ん張りどころです。Kさん、引き続き一緒に頑張ろう!もう一緒じゃなくてもいいかな 笑
大切にしていることや関心を成果と成長につなげよう!
「対話テーマのアイデア」
“部下の持つ力を引き出す、上司の気づきや上司の行動の変化”について対話テーマを応募します。
本間さん、対話テーマいいですね!
上司側の気づき、大事だと思います。ぼくは部下を人間として見てるとき、気付きにつながったりするなあ。人と違うところがあると、さらに魅力を感じてしまいます。
いただいたテーマで執筆者の方々とやりとりが始まったところなので、また発信があるまでしばしお待ちください!
小林さん、お久しぶりです。
「コバちゃん」の一言に、Kさんの小林さんに対する信頼感、安心感が凝縮されていると感じました。普通の組織ではいくら自分が年上でも、年下の上司に対して「ちゃんづけ」は許されないでしょう。周囲の心配もどこ吹く風(のフリをしているだけ?)のKさんにとって、小林さんは自分にしっかりと向き合ってくれるかけがえのない上司であることはKさんご自身が一番よく感じておられるのではないかと思います。
サラリーマン、怖いものがなくなったらこれ程強いものはないですよね。自分がやりたいかやりたくないかだけで、物事を決めることができますもん。なので、お二人の関係は、単なる上司部下という組織上の労使関係を完全に超越した何かで繋がっているのだと感じました。
どんなに権力で言うことをきかせようとしても、Kさんには通用しないですよね。社長が言ってもダメでしょう。(笑)
そんな部下と真摯に向き合い、自らもある意味職責のリスクを冒してでもKさんのいう人物の強みを認めていこうとする小林さんの勇気と覚悟に敬服するばかりです。
コバちゃんの気持ちに完全に甘えてしまっている自分を感じつつ、「どこかで必ずコバちゃんに恩返しをするぞ。」そんなKさんが目に浮かびます。
豊村さん、お久しぶりです。
最後の「恩返しをするぞ」を読んでる途中で唇が震えました。思ってもみない言葉を見て、思いっきり感情が揺さぶられました。
恩返しなんて当然期待してません。でも、もし・・もしそう思ってくれるているとしたら、一緒にやってきた時間はKさんと私にとって満足のいくものであったと思えます。
たくさんのOKメッセージをくださってありがとうございました。Kさんとの環境の仕事はまだ続きます。続きを書いていきますので見守ってくださいませ!
ブログを読んで「いや~これは…何て言えばいいのかな…うぅ~~んうまく表現できない!”凄い”けどそんな言葉は軽いし…」と、色々な思いで頭がグルグル(笑)でした。
現場にいた時を思い出すと(現在、フリーランス)今回のブログに登場する方々【Kさん】【Kさんの元上司】【小林さん】【3人を取り巻く部署の方々】の雰囲気、交わされる会話、上司の苦労と苦悩などなど、イメージしてしまい一人脳内でドラマができたほどです。笑
全く仕事をしないと評価した元上司の方もそれに至るまでに様々な関りをしてきたでしょうし、同僚時代からの小林さんの関わりは、やり易い面とやりにくい面、また、他のスタッフの視線も色々ありますよね…。
色々な思いを巡らしながら、私が一番印象に残り、感動したのは『Kさんの仕事への向かう姿」「自分に対する誠実な心」です。
異動願を出すのは悩んだと思うのです。しかし、自分のやりたいこと、好きなことを諦めず、貫くところはかっこいい!
異動の理由などはKさんご自身も感じていたり、前部署での居心地の悪さなどもあったかもしれません。
定年前の年齢を考えると、若い時のようにエネルギーは無くなると思っていましたが、Kさんの生き方は自分に誠実だと思いました。
異動はかないませんでしたが、自分の心に正直に向き合った納得度の高い人生だと思うのです。
報連相が無いとか、仕事の依頼は受けないとか上司の方のご苦労もあったと思いますが、Kさん自身も色々な思いがあったと思うのです。しかし、自分のやりたいことを諦めない気概は人生を切り開くなぁ~。
もしかしたら、小林さんとの関りが(やりたいことに挑戦する)という異動願を出す勇気になったりしたんじゃないかな…絶対そうだ!と、一人ドラマは続きそうですが、終わることにしました。
色々なことを考える機会になりました。
小林さん、ありがとうございました。
塩田さん、コメントありがとうございます。一人脳内ドラマが出来ちゃうほど色々と考えるきっかけになって良かったです 笑
>感動したのは『Kさんの仕事への向かう姿」「自分に対する誠実な心」です。
塩田さんの見方に驚きました。そのように表現したつもりはなかったのですが、全体を通じて感じられたんですね。
ぼくもKさんの自分に正直なところが、たまらない魅力と感じています。うらやましいくらいです。その魅力を保ちながら、納得いく会社人生を送って欲しいと思っています。
で、ちょっと思い出したエピソードがあります。Kさんとの関わり方を決定的にした出来事です。少しお付き合いください。
ぼくはKさんが今後どうしていきたいのか気になっていました。以前のまま行動し周囲の認識がこれまでと変わらないとしたら、定年以降の延長が難しくなってしまうと思ったからです。
「Kさんさあ、定年後はどうすんの?もちろんここで一緒に働いてくれるよね?」
「コバちゃんさあ、パッケージだったらいいけど、分かんないなあ。でも子供もまだ小さいし働かなきゃしょうがないでしょ。この会社以外で探しても難しいよ。できれば延長で働きたいけどね」
これを聞いて、デザインの仕事をプロとしてやっていきたいというよりも、安定した収入を得ながら好きな仕事をしたいんだなと思ったのです。
だったら、ぼくの役割は定年後の延長を勝ち取るために、Kさんが評価される仕事を作り、周囲と良好な関係を持ちながら成果を出していくこと。同時にKさんが少しでも仕事に対して納得・満足いくことになります。
ちょっと大袈裟ですが、Kさんの人生まるごと考えた時に、Kさんの望みを実現するには、周囲との調和や上役からの評価を得る必要があります。
一方でKさんはこの定年後の会話を通じて、自分が定年後も働き続けるためには何が必要なのか感じ取ったのだと思います。定年後の会話の後では仕事の捉え方、取り組み方が変わった気がします。
塩田さんのコメントに刺激を受け、ちょっと違う角度からKさんについて追記しました。また一人脳内ドラマが始まったりして 笑
ブログのアフタートークで私の脳内ドラマ始まりましたよ~。
小林さん、お話くださってありがとうございます。
『Kさんの人生まるごと考えた時に…』の言葉で、思いました。
マネジメントする時に、
1.社内における上司と部下という関係性で見るか。
2.1をさらに俯瞰して(もともと背景の違う人間同士)という関係性で見るか。
小林さんの”相手の人生に照らして関わる”これは心に持っていようと思いました。
もちろん、同じ会社にいるということは、会社の目的に向かって仕事をしているので「1」も必要ですが、会社の目的の前に「自分の人生の目的」に向かって、みな生きているのだからどちらも大切だなぁ~と、しみじみ感じております。
※私の見方に驚いた…という小林さんのご意見、そう思いました。笑
これはマネジメントする側の方のブログなのに、私にとってのインパクト大は小林さんより「kさん」だったのです。笑
kさんは本当に面白くて、人生を楽しんでる感じがします。ぼくも人生面、生き方には刺激を受けてます。1と2を両立したマネジメントを目指したいですね。
「対談テーマのアイデア」
“逆境を乗り越える力とは”はいかがでしょう。
それに似たものでもかまいません。
シンイチロウさんへ
当たり前かもしれませんが、マネージャーとは数字だけではなく、部下という立場の人間の能力を最大限に引き出そうとする人のことを言うのだと理解しました。
そしてその根底にある「あるもの」とは”信頼”であり、そこから生まれる”勇気”なのかもしれません。
2年間と言う長い期間ではありますが、Kさんがシンイチロウさんの職場に来られた時にシンイチロウさんの中にあった「Kさんは周りの言うような人ではない」「必ず信頼に応えてくれる人だ」と心に決めた瞬間にこの結果はすでに決まっていたのだと思っています。
こんなに人を信用できるシンイチロウさんが羨ましいですね。
少し強調して書いてしまいましたが、そんな中でも心が折れそうになった時にどのように乗り越えられたのか対談テーマでお聞かせいただけると大きな参考になります。
話は変わりますが、経験上、仕事上で人が新しい自分を発見するためにはステージが有効と考えます。二人三脚で始めた取り組みですが、調査→資料づくり→発表→評価される→調査→資料づくり→発表→評価されるの毎月のサイクルの中で評価される喜びが翌月の取り組みに繋がっていたのかなあと想像しております。
人は認められると伸びるとは実践コース五期同期の方の信念です。
谷奥さん、コメントありがとうございます。
ホント仰るようにステージが大事だと思います!PDCAのサイクルの中で少しづつ喜びを感じて、仕事とのつながりを作っていって、やがて本人がメインで駆動し始める感じでしょうか。会社や組織の良いところは、良くも悪くもこのPDCAステージがあることなんじゃないかと、ご指摘受けて思いました。うまく使えば人がイキイキできる場がいくらでも作れる、、、かな? 笑
5期の方々の信念、とても素敵ですね。 どんなことでも認める機会を見つけて伝えていきたいと思います。
谷奥さん、テーマのご提案ありがとうございます。
心が折れそうな時はしょっちゅうあります。そんなときどう乗り越えているんでしょうかね。逆境を乗り越える力、いいテーマですね!ぼくは周りの力を借りることが多いです。
この話と関係あるのか無いのか分かりませんが、引っかかった事を書きます。ちょうど今テレビで自転車のBMXの事をやっていました。
BMXは若者のオリンピック離れをなんとかする為にIOCが競技に入れたそうです。
BMXの監督野口さんは、指導者やコーチではなく、同僚のような立ち位置で10代の子と接し、「のぐっちゃん」と呼ばれているそうです。
指導をしてしまうとBMXではなくなってしまうのだそうです。BMXはそもそも楽しむためのスポーツだからなんですって。
なんとなくSFの感覚に似てると思って聞いてました。スノボーやサーフィンもきっと同じ感じですね。そういえば、Kさんには幅広い年代のサーフィン友達がいます。
会社の組織も上位下達をベースとしたコミュニケーションから変わっていくのでしょうか…
シンイチロウさんへ
テレビ番組に「引っかかった」とは、普段から色々と組織についてお考えの癖かも。
いろんなところにヒントがありそうですね。
シンイチロウさんが野口監督の「同僚のような立ち位置」にピンときたのもKさんとの関係性に似ていますよね。
上からではなく、共に創り上げるイメージかなあと。お互いに気楽に意見が言える雰囲気づくりは良い組織には欠かせない要件でもあるし、おそらくこれは指導者としての一つの技なのかと思います。その時、その人に合わせた最適な方法を見つけて自然と実践できればすごいですよね。
何事も経験しないと自分のものにはならないけれど、周りの人にその経験を味わせるお手伝いをして、見守ることも人生の先輩としての役目かなあと思っています。
その人が一歩前に踏み出せるように、少し勇気を持てるように、喜びを感じるようにと。
思うだけでなかなかできないですが。
谷奥さん、ありがとうございます。
>お互いに気楽に意見が言える雰囲気づくりは良い組織には欠かせない要件でもあるし、おそらくこれは指導者としての一つの技なのかと思います。
そうですね、指導者としての技なのかもしれません。ぼくは技というより、痛い思いしながら七転八倒して共に作り上げる組織づくりを進めていますが 笑
ぼくはコメント頂く方々やご覧になっている方々に、ぼくの仕事の様子を見守られているなあと感じます。これが良い感じなんです。
気づいたら、とても力を得られる場になり、仕事を前進させる大切な大切なリソースになっていました。なんだか公開実践コースをやっているような気分です。
谷奥さんのような人生の先輩に見守られていると思えば、なおさら「頑張っていこう!」と思えます。会社外でもこうして見守ってくださる人がいることは貴重だし感謝しています。
“痛い思いしながら七転八倒して共に作り上げる組織づくりを進めています”
これこそが技を磨く極意なんですよ!これしかないです!
お互いガンバ、ガンバ(^^)
谷奥さん、ありがとうございます。お互いガンバですね!