SF伝道者の四方山話 No.10 青木安輝
祝「チルカフェ(Chill Café)」OPEN!
ソリューションフォーカスを取り入れて職場のコミュニケーションを改善するための「SFモデル職場」という活動を継続しているM社に、先月その8期目のスタートアップ研修のために講師として伺った。そこでの嬉しい出来事を紹介したい。
まずは背景説明。
M社の千人単位の従業員がいる大規模事業所で、2013年から続いているこの活動(諸事情により不開催の年もあった)は、毎年参加を希望する職場を5つから6つ程度募り、そこから代表メンバーが数名づつ研修に参加してくる。その数名のチームが中心となって職場のコミュニケーション改善のために色々なことを企画実行する。成果を見える化するために、職場の全員が「コミュニケーションが取れている度合い」をスケーリング(0~10)し、その平均値の数字が上がっていくことを目指してもらう。期間は約10カ月。
中心チームのメンバーは各職場から3~8人程度で、ソリューションフォーカスを学ぶのは、活動スタート時の研修(半日×2回)のみ。その後、職場のコミュニケーションを改善するために何を目指すのか、そのためにどのようなスモールステップを踏んでいくのかを自分たちで考えてもらい、実行に移してもらう。その後講師が関わるのは、オンラインでのフォローアップ(各チーム1時間づつ)と、数か月後の「中間成果報告会」および年度末の「最終成果報告会」だけ。
研修でSFの要点をお伝えするが、活動として具体的に何をすべきかは指示しない。但し、前年度までの活動経験者お二人に体験談を話してもらうので、それが参考にはなる。スマホが普及したり、世代間ギャップ等様々な要因で現場ではなかなか雑談をしたりする機会もなく“お互いのことを知らないまま”協働作業をしていることもある。SFを応用する以前にコミュニケーション自体が無いと改善のしようがないので、毎年のスタートアップ研修では、まず「コミュニケーションの量を増やすこと」「お互いを知ること」のために何ができるかを考えてくださいと伝えている。そんな中でめちゃくちゃ面白い「朝礼質問カード」が生まれたり、「今週の皆の頭の中」という掲示板が生まれたり、単なるルーチンになりがちな「指差呼称」のかっこ良さコンテストをしたり、誰も聞いてない朝礼での事務連絡をやめて個人スピーチにしたり等、様々な工夫がされて、成果があげられてきた。
背景説明はここまで。ここからが嬉しかったことの話しになる。
今年の3月で最終成果発表をした7期目の活動では、あるチームが「魅惑のオフィス大作戦」と名付けたプロジェクトを遂行し、職場の全員を巻き込んで地味で暗めなオフィス空間を自分たちのDIYで気持ちのよい明るい空間に変身させてしまった。そしてその一角を見事にカフェスペースに創り上げた。名付けてChill Café。合言葉は「チルしよっ♪」(「リラックスしよう」の意)。今回初めてその現地を訪問。心地よいBGMが流れる中でコーヒーをごちそうになった♪いわゆる大規模製造業の事務所という感じはなく、まさに心地よいカフェの雰囲気!!
このビフォー&アフターの写真でおわかりの通り、ものすごい変貌ぶりだ。
Before:山積みの書類やパーティションにさえぎられて他の人が見えない風通しの悪い空間。暗い色で冷たい感触の床。休憩スペースは隅っこにあるが、名ばかりでゆっくりお茶を飲む雰囲気ではない・・・。
After:スッキリ全体を見通すことができて、余裕あるスペースができて歩きまわりやすく、温かみのある木目調の床材が柔らかな光を反射し、そこかしこにグリーンが置かれ、BGMが流れ、電光掲示板には「ありがとうメッセージ」や「プロフィール紹介(特技や出身地自慢など楽し気な雰囲気で)」が表示されている。まさに魅惑のオフィス!
このチームの職場コミュニケーション・スケーリングは、初期値が0~10でなんと1だった。それが最終成果報告会では6.2まで上がった!そこに至るまでには、朝礼のやり方を楽しく変えたり、「あ・り・が・と・う ボード」を設置したり、お互いのことを知り合うための自己紹介や地元自慢の掲示をしたり等様々な試みがなされたが、なんといっても「魅惑のオフィス大作戦」が秀逸だったようだ。仕事が終わった後に皆で床材を貼っているところの写真も見せてもらったけど、とても楽しそうな雰囲気が伝わってくるし、実際「床張りまたやりたい!」なんて声もあるそうだ。
単に思いつきでいわゆる模様替えをしたのではなく、コンセプトも考えられていた。「サードプレイス:心地よい第3の居場所を目指す」というもの。サードプレイスって家庭と仕事場以外のところでつくるものと普通は考えられているけど、物理的には職場の中でも心理的にはサードプレイスを創ることができるという発想!これはすごいことだ!!
だから、ちょっといい珈琲マシンを置くとかグリーンをいくつか置くみたいな小手先だけの”改善“では物足りない。オフィスに入った瞬間に気持ちが変わってしまうような空間としてガラッと生まれ変わらせる必要があった。そして皆の手作りで実現した。もう「お見事!」というしかない。
「チルカフェ」では、公式のSFモデル職場活動期間終了後も色々なイベントが開催され、桜の季節には下の写真のように満開の桜(!?)が出現したり、地元のスイーツ食べ比べ大会が開催されたりしている。この職場の皆さんから色々な喜びの声が上がり、雰囲気がよくなっているとチームリーダーKさんはとても満足げな表情で語ってくださった。そして、この事業所で今までになかったこの自発的ムーブメントに感化された他の部署の人たちが、やはりオフィスを改装して「オアシスガーデン」という”チルい”スペースを創ってしまったそうだ(いつかブログで紹介する時が来るかも・・・)。Kリーダーはチルカフェを作っている期間は帰宅が毎日遅くなってご家族から文句を言われたそうだが、そんな風に自部署以外にも直接的な影響を与えて、社内の環境イノベーション(!)を起こしつつあることを誇りに思っているように見えた。
SF伝道者(講師)は、カウンセリングのようにセッションをしてその相手が変化していく手ごたえを直接感じられるわけではないし、上司部下関係の中でのSFのように、継続的に会って相手の変化を促すことができるわけでもない。研修をして受講者アンケートの評価が高くても、その後実際に何かが良くなっていくかどうかはなかなか確認できないことも多い。だけど、こんな風に僕の想定や期待以上のブッ飛んだ目に見える成果を創りだしてくれて、多くの人が喜んでいる様子を拝見させてもらうと、本当にこの仕事をしていて良かったぁと思える。このチームの皆さんに大きな拍手を贈りたい。また、この大作戦を後ろからしっかり見守ってサポートしてくださっていた懐の深いI部長に敬意を表したい。そして何と言っても「SFモデル職場」活動を10年も継続させている立役者である企画担当者のNさんに心から感謝したい。
「SFコミュニケーションのフレームワーク」では、SFコミュニケーションの成果として「ポジティブ感情を伴う活性交流」「創造性(アイデア)」「自発性(自分からやりたくなる)」という3要素が増進すると謳っているけど、まさにそんなエネルギーを感じさせてもらった!さて、今回始まった第8期では皆さんどんなことをやってくれるかなあ。楽しみ!
凄いのひとことです。昔、ある会社の知的生産性本部という部署がオフィススペースを広く取ったとのことでした。それは知的な生産をするには狭いところは不向きだからということでした。チルカフェはさまざまなご努力と協力の賜物ですね。チルカフェの未来に(珈琲で)乾杯!
深山さん、コメントありがとうございます。
いつのまにか、味気ない殺風景なところでも勤勉に働かなければならない・・・みたいな思い込みが共有されていたのかもしれませんが、ここの人たちが見事にそこに風穴をあけてくれました!で、単にオフィススペースのことだけでなく、仕事のやり方なんかに関しても、「今までこういうのが当たり前ってなってたけど…ほんとにこれでいいの?」みたいな問いかけが飛び交い始めているようです。波紋がひろがっていくといいなぁ。
青木先生へ
もうここには、不可能という言葉は通用しないのだろうと思ってしまいます。
事務所のパーティションが外されたように職場の皆さんの心の壁が次第に低くなっていく様子が見えてくるようで、そんな心地よい変化を7期生の方をはじめ職場や見守る全員で楽しんでこられたんでしょうね!
そんなSFの醍醐味を味わえる事業所にしてしまったNさんに心から拍手を送らせていただきます。
なんかもうこの事業所のある町の中にもSF細胞がうごめきだしていそうな気がします😊
そして自分の周りにもそんな空気を作ってみたいなあと元気をいただきました。
SF伝道師・・・マイ職場ではないけれど種を蒔いて、水をやり、支柱を立てるからこそ美味しい野菜が実るんですよね!やっぱりステキです!
おっくん、最大級の賛辞をありがとうございます!
この記事は、蒔いた種の中で予想以上に伸びて今までになかったすばらしい実をつけた事例を紹介したわけで、もちろんそれ以外の種の中には、芽が出なかったものや、そこそこの伸び方だったものや色々なレベルのものがあります。割合で言ったらレアケースですよね。でもそうやって期待した性質を示した株に注目して、それを掛け合わせていくことで「新しい品種」ってできていくんだろうと思います。
土壌や環境のせいにしないところが憎いですなあ😂
あとね、言いたかったことは、こういう素敵な花が咲くまでには、今まで組織文化の土壌改良の努力を積み重ねてきたことが実を結んだという意味あいが大きいということですね。だから、Nさんがド根性で幾多数多の難関をくぐり抜けて、一つの方向に進んできたことがチルカフェの生みの母なんです。おっくんがNさんに惜しみない拍手を贈ることはまったく至極的を射ていると思いました。