快く生きる日々 No.40 渡辺照子

 「Compassion」という言葉の意味をAIに問うと、「他者の苦しみを深く理解し、その苦しみが取り除かれるよう、寄り添い、助けたいと思う純粋な思い」「単なる同情や共感を超え、実際に行動を伴う積極的な気持ちで、自分自身や相手の苦悩をありのままに受け入れ、支えようとする『共にいる力』です。」と返してくれる。

 さて私は、12月の第二日曜日、ホノルルマラソンに参加した。早くも10キロ地点で、片足の膝をあげることができなくなったので、左足だけ蟹歩きみたいにして、42.195キロの残りの距離を歩いてゴールした。

 簡単な道のりではなかった。歩いたので、息の苦しさこそなかったが、痛みとの闘いだった。それなのに、帰ってきて1週間程経つが、心のほっこりが続いている。その理由を書きたい。

 ホノルルマラソンに参加するのは、9年ぶり。1回目の時は、1年前からパーソナルトレーナーに指導してもらいながら、準備をして臨んだ。今回は、正直自己流で短い期間で備えた程度。そんな状態でも参加できるのは、この大会には、制限時間や関門時間が設けられていないから。今大会でトップの方は、2時間13分。私がいよいよこれからという時には、もう復路ゴール直前をほとんど全速力のようなスピードですれ違った。

 今回参加の私の目標は、「怪我せず笑顔でゴールする」だ。というのも、1回目参加の時、32キロ地点で足が故障して走れなくなり、足を引きずって泣きながらゴールしたので、リベンジしたいと考えていた。

 約20キロ地点を移動しているとき、私を追い越していく欧米の方らしき方が、「足痛そうだけど、頑張ろうね。」と笑顔で声をかけてくれた。周りには、仲間同士で一緒に走っている方が多いが、私は、周りの様子を観察しつつも自分との対話で、「孤」で進んでいた。ところが、その声掛けを頂いた瞬間、“ひとりじゃない。繋がってる。”と感じることができて、気持ちがとてもほぐれた気がした。声をかけてくれたその方自身も大変だろうに、声をかけていただけて、そうできてしまうその方のことが強く印象に残っている。

 さらに約25キロ地点を進んでいると、沿道に建っている住宅の方が、表に出て応援してくれている中で、初老の女性が私に声をかけてくれた。笑顔で優しくというよりは、凛とした姿勢と声で、“笑いなさい!”と。その言葉を聞いたとき、ハッとした。私はこの大会参加を楽しみに来たのに、今しかめっ面をしている。“笑おうよ、自分”。そこからの私は、依然として足の痛さはあるけれど、心が健全になれた気がした。大きくぐるっとコースを回って折り返すと、人々とすれ違う。すれ違う人数はまばらだ。そういう人たちに、私と一緒に前進している方の幾人かが、すれ違う人々に声援を送る。私も心の元気が出てきたので、笑顔を作って、拍手をしたり、声をかけたりやってみた。するとどうでしょう、自分の体の中にエネルギーが湧いてくる感じになり、活力が生まれてきた。自分がたとえ辛くても、ほかの人を応援すると、自分が元気になるんだなあという実感を持った。

 看板は、残りの距離数を交互に、マイルとキロの単位で示している。頭の中で、“ええと、ええと、あと何マイルだから、キロにすると・・・。”などとやりながら、ゴールが刻々と近くなってきた。目標は忘れなかった。足は不調になってしまったけれど、笑顔でゴールする目標は、達成しよう!大会が終わって、カメラマンが撮影してくれた写真が公開されたが、ゴールする私は、確かに笑っていた。

 大会後数日、ホテルに一人滞在した。大会の最中から、頑張ってくれた自分の体に感謝したが、左足をかばってくれた右足の親指の爪が痛み出し、腫れてきてしまった。応急処置用品も持ち合わせていないので、ティッシュで患部をくるみ、スポーツ用のテーピングでぐるりと巻いておいた。もはや、靴は痛くて履けないのでスリッパを履いて、1階の売店に買い物に行った。湿布や絆創膏が売っていたので、それらと水を手にしてレジに行った。すると、レジ打ちし終えた時、レジの女性が、「今日は寒くて冷えるから、あなたに靴下をプレゼントするわ。」 びっくりした。値札のついている商品をほどいて、私にくださった。他のお客さんがいなかったから、きっと店内で買い物する私の様子を見ていたのだろう。

 いつもの私だと、「いえいえ、くださるなんて申し訳ないです。お金を支払います。」なんて言ったかもしれなかったが、その時は、ただ感謝して、靴下を頂戴した。「ありがとうございます。ありがとうございます。」と。今回5本指のソックスしか持ってきておらず、スポッと足にはかせられる、しかも暖かい素材でできている靴下。心底ありがたいと思った。

 以上のほかにも、今も心がほっこりしていることに繋がった出来事は他にもあるが、いったんここでラップアップしてみる。

 今回思ったことは、私に優しくしてくれた人々に共通していたのが、「凛とした力強さ」である。もちろん優しく接してくれるんだけれど、そのやさしさの中に、「この人の少しでも力になる」という強い意志みたいなものが潜んでいる気がした。優しさは、時に、「生ぬるさ、弱さ」と評されることがあるが、とんでもないなあと胸に刻んだ。

 そして今回、少し自分が進歩したと感じられたのは、「相手の優しさをただ受け入れる」ことができたことだ。この世で、優しさが優しさとして、現れるときには、優しさを施す人と、それを受け入れる人の、その瞬間の共同作業、パートナー関係が伴うなあとも感じた。

 私はこの4月から、Compassion Focused Therapy(CFT) というものを学び始めた。この学びを自身の生業であるコーチングに生かしたいと考えたからだ。私のホノルルマラソンの体験は、CFTの今年の学びを、体感する・実感する機会となった。

 これからの1年間は、自分の体を、急に無理させないよう、コツコツと積み重ねた上で、ホノルルのあの場所へまた戻ってみたい。今回と同じホテルに泊まって、売店のあの女性に、再び会いに行きたい。心からの笑顔をもって、感謝の気持ちを伝えたいと考えている。

快く生きる日々 No.40 渡辺照子” に対して5件のコメントがあります。

  1. かよちゃん より:

    照子さん、こんばんは。お帰りなさい!そして笑顔の完歩おめでとうございます。
    残りの30キロ以上を、膝が痛むにも関わらず歩いてゴールされたことに、驚きとさぞ痛かったことだろうなぁという気持ち、そして尊敬の念が湧いています。
    ほっこりとしたエピソードの中でわたしも温かい気持ちになりました。
    そんな中で響いたのは「優しさ」とともにある「凛とした力強さ」という言葉です。
    特に始まりの所にかかれていた初老の女性のエピソードが印象的です。
    ここ10年くらいわたしは、「優しいけれど甘くない」をどう体現していくのかを度々考えているのですが、これからは、『「優しく、そして凛として力強く」〇〇する』、に表現を変えて考え続けてみようと思います。とっても素敵でcompassionateな体験記をありがとうございました!

    1. やや より:

      かよちゃん、コメントをどうもありがとうございました。
      かよちゃんが、「『優しいけれど甘くない』をどう体現していくのかを度々考えている」という状況で、新たな表現を加えて、考えを続けていくきっかけになったことが
      嬉しいです。
      私の自分との闘いの30キロをイメージしてくださった
      かよちゃんに、このうえない優しさを感じる私です。

      かよちゃんの、『「優しく、そして凛として力強く」〇〇する』探求の続きを
      ぜひ、折あるときにお聞かせください。

      1. 渡辺 照子 より:

        かよちゃん、「やや」というのは、渡辺照子です。入力を間違えてしまい、「やや」となってしまいました。大変失礼いたしました。

  2. おっくん より:

    渡辺さんへ

     こんにちは。今年もブログの最終を飾るのは照ちゃんのようですね。
    僕には取りにふさわしい?暖かいエピソードがクリスマスプレゼントに
    なりました。今年一年、たくさんの気づきをありがとうございました。

    【ホノルルマラソンのこと】
     ひとくちに42.195Kmと言っても一般のランナーの場合、過酷な場面は
    容易に想像がつきます。今回の挑戦もよく頑張って完走(完歩、笑)されましたね。
    そのご褒美として色んな出会いや感動が心に刻まれたのだと思います。
    もちろんトップでゴールされる強者もいる中で、「弱者を見捨てない心」そのものが
    ホノルルマラソンではないかと思えてきます。また挑戦したくなる気持ちがよーく
    伝わってきます。

    ※僕にとっては「J-SOL」や「心の中の武尊」もそんな聖地なんですよ。

    【AIと体験】
     よく照ちゃんは辞書の意味合いを引き出したり、今回はAIの説明を引用されました。
    以前から「なぜ?」「硬いなあ」が頭の隅っこに残っていたのですが、今回何となく
    謎が解けてきたようです。

     話は変わりますが、若いころ旅行に出かけるときにガイドブックを見ながら旅行の
    計画をたてていました。でもそれっって結局ガイドブックに載っている風景を確認する
    ことが目的になっているようで、いつしか僕の旅のスタイルは変化していったことを
    覚えています。
     いつぞや青木さんもAIの答えの正確さを嘆いて?おられましたが、AIで導いた
    「Compassion」ではなく、今回ホノルルマラソンを体験した照ちゃんから伝わってくる
    喜びや人々の温かさそのものがその本質を表現しているようで、とても安心できました。

     これからも悩める人々に「人間の内側に湧き上がってくる熱いハートのすばらしさ」を
    お伝えください。もちろんご自身の八百万の照ちゃんとの出会いも楽しみながら…

     では来年もよろしくおねがいいたします。よいお年を! おっくん

  3. たつろう より:

    渡辺さん、素敵なブログ、ありがとうございます。私も同じくfinisherで、帰りの飛行機でたまたまお隣でご一緒させていただいた者です。渡辺さんのようにアンテナを高くすると、いろいろと感謝したいことが見つかるものですね。そして、苦しんでいる時ほど、そのアンテナは高くなるというか、また自然と助けてくれる人と出会えるのは不思議ですね。私の26.3マイルは正直「テキトー」でしたが、人生の別の場面ではちゃんと「走ろう」と思いました!

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