快く生きる日々 No.39 渡辺照子

 秋の紅葉シーズン、宿を経営する姉からのヘルプコールに応えて手伝いにいった。隣接する市にお住いのリピーターのIさんが、都会で暮らす友達を連れて、三名でおいでくださった。お連れの方の一人Bさんは、Iさんと同じ市の出身だが、若いころから都会に住んでいるという。Iさんのところへ、「旅行に連れていけ。」と何度も要請があったそうで、今回実家の宿に、ご友人のBさんともうお一人を連れてきてくださった。

 夕食の時に、Bさんから、日本酒の注文を頂いた。「お酒を飲む用の小さい器ある?」というので、私は、小さいぐい飲み、ガラス製の御猪口など持っていき、「どれがよろしいですか?」とたずねた。すると、「こんなんじゃないよ。昔からお酒を飲む、小さいお皿があるだろう! そんなので飲んだらすぐ酔っぱらっちゃうよ。こんなお酒1合飲むのなんて久しぶりなんだから!」と高圧的なおっしゃり方で話された。私が、他にお酒を飲む用の器はないので、「お客様、あそこにグラスの棚がございますので、どうぞお好きなのをお選びくださいませ。」と伝えたら、棚のところにいらして、「こんなんじゃだめだ。無いからこれでいいや。」と捨て台詞ムード。

 私は普段はコーチングのコーチの仕事だが、接客も家業の手伝いで幼いころからやっているので、好きである。❝どんなお客様でもどんとこい❞的に思っていたのに、既に怖気づく私である。なかなか手ごわそうなお客様だな。この後、どのように接客していこうか・・・・。

 元々長く宿をやっている87歳の母は、40名ほど食堂にいたお客様の中から、さっとBさんに目をつけ、傍へ寄って行って会話を始めた。見る見るうちに、Bさんは笑顔になり、談笑ムード。

 何とか夕食が済み、Bさんは就寝されたようなのだが、その後血相を変えてやってきて、❝ブレーカーが落ちた。電気がつかない。俺は器械をつけて寝ているんだ。あれがないと死ぬんだ。俺を殺す気か?宿側として、どうしてくれるんだ!❞と興奮して話される。私がたじたじになっていると、姉がやってきて、対応する。私は姉に任せて戻ってきてしまったが、姉曰く、Bさんのところから戻ってくるときに、「困っているところを助けてくれてありがとう。」と言われたという。

 翌朝、Bさんが朝食に食堂にいらした。私がBさんのお顔見てどうなったかというと、「Bさんに怒られないようにするにはどう立ち回ったらいいだろう。」と考えている自分に気づいた。人はこうなるんだということを改めて思った。

 怖さや恐れを抱くと、Bさんにどう喜んでもらおう、満足してもらおうかなどというホスピタリティーの発揮は遠く押しやられ、怒られないようにという防御の態勢になる。

 ソリューションフォーカスで、「なんで、どうして」と原因追及をしない所以はここに在るのだと思う。「なんで・どうして」の追求により、恐れや反発を生み出してしまえば、解決に向かわなくなってしまうから。

 自分が、防御の姿勢を無意識にとったところを、自分で目撃したので、ついブログで書きたくなったのである。この体験から、私はこれからも、自分が相手に対し圧力をかける存在にならないように努力しようと思う。時と場合によっては、高圧的になってしまうこともあるから・・・。

 それで、もう一つ、この出来事から考えたいのは、母と姉は、Bさんに何をしたのだろうということ。Bさんは、私には、噛みついてきたのに、母と姉には、なんで笑顔や柔軟さを表したのだろう。

 私はBさんを怖いと思ってしまい、接し方が、おそるおそるモードになってしまった。一方で、母も姉も、Bさんの懐に、グンと飛び込む感じ。私にとって怖かったBさんは、母と姉のもとでは、可愛らしい子どもみたいな様相を示していた。そして、母と姉は、Bさんにどう対応しようかとのみ考えて行動したのではなく、お客様を連れてきてくださったIさんにどう応えようかという視座で、行動をしていた。

 自分はまだまだだ。頭では、理屈では、コミュニケーションを理解しているつもりでも、体現できていないことがたくさんある。これからも修行。そういう意味で、多様な方々がおいでくださる宿でお手伝いができることは、とても良い機会だ。宿に向かう道すがらは、今は紅葉が美しく目を見張るし、奪われもする。この週末も、黄色や茶色や紅のトンネルの向こうに出かけて、修行してこようと思う。どのような人々に出会えるだろう。

快く生きる日々 No.39 渡辺照子” に対して4件のコメントがあります。

  1. 上野和禎 より:

    私なら完全に萎縮するか、「なんだこの人!お客様だからと言ってやって良いことと悪いことがあるんじゃない?」と負の感情で自分を満たしそうになりそうです(^_^;)
    確かに「なぜこの人はこんな態度を取るんだろう?」と問題志向になるのではなく、「お客様に満足していただけだとしたら、それは何をしたからだろう?」といった解決志向で考えるとその後の接し方は違ってくるのだろうと思いました。
    この問題志向から解決志向への切り替えが、いつもできるようになりたいですね。

  2. おっくん より:

    渡辺さんへ

     こんばんは。
     僕も若いころからあちこち旅をしてまいりました。
    とくに家内と出会ったてからは、宿選びを慎重に行うようになりました。
    家内は清潔第一なので、行ったことのない宿では難しいですよね(汗)。

     もっと大事なことなんですが、「よかったね!」と当時のことを思い出すのは
    それは人なんです。その宿で出会った女将さんや仲居さんなどスタッフとの
    会話が旅の良き思い出となっています。「また会いたいね」なんて一期一会の
    出会いなのに、頭の中では今も変わらないその人に会いたくなるのです。
    人と人の出会いって素敵なものですね。

     ブログを読んで今から思い返すと、当時の宿で出会った人々は”おもてなし”
    の心だったのかもしれませんね。だからお客として居心地の良さを感じることが
    できたのかもしれません。たとえこちらのわがままであったとしてもそれを自然に
    受け入れてくれるのはありがたいことです。僕が会社を退職後にルートインホテル
    に勤めだしたのもそのような恩返しの気持ちからでした。

     すこしブログの本題からはずれてしまいましたが、照ちゃんのお母さんも
    お姉さんもお客様も望みを見抜く能力をお持ちなのかもしれませんね。
    やはり、そんな宿にはいつか行ってみたいです。
      20〇〇年 〇月 〇日が楽しみです(笑)。  おっくん

    1. おっくん より:

      最後の段の「お客様の」とするところが
      ふみちも「も」になっていました。
      送信してから気づくなんてあわて者ですね!
      おっくん

      1. おっくん より:

        またやってしまいました‼️
        「ふみちも」は送信パスワードです。
        とほほほほ。

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