快く生きる日々 No.37 渡辺照子

 「♪~夏が来れば思い出す~♪」、多くの方がこの歌をご存じだと思う。尾瀬は私の故郷の村にある。大人になるまでは数度しか訪ねたことがなかったが、その魅力に目覚め、近年は毎年、県外の友人・知人を伴って、散策に行っている。去年5月に尾瀬ヶ原で、見事な水芭蕉開花の光景を目にした友人が、今夏は別の尾瀬を訪れたいとの要望をくれたので、日帰りができる別コースとして、「アヤメ平」に、4名の方々をお連れすることを決めた。

 自分が行ったことがない場所に、「案内」はできないので、この7月下旬にお連れする日程を定め、その前の週に、下見に行くことにした。この日のために、山登りの先輩でもあり、私の職業であるコーチング仲間のみどりさんに、一緒に行ってもらうことにした。当日は、みどりさんの登山仲間の明ちゃんと三人。

 行ってきてみて思ったことは、その道の先輩から学べることがとても多いということを実感した。以下にみどりさんと明ちゃんから学ばせてもらったことを、リストアップしてみる。

  ・尾瀬には沢山の花が咲く。みどりさんは私に図鑑を、「次に会うとき返してね。」と手渡してくれた。ただ行って帰ってくるだけでなく、植生をご案内できる方がずっと素敵だ。

  ・入山の前に、登山者のためのアプリをセット。家族からの「見守り機能」もあり、遭難を防ぐことができるのだそうだ。

  ・大福餅を前夜から冷凍しておいて、朝リュックに入れてゆくと、入山して程なくの休憩時には解凍され、ひんやりして甘いおやつのおいしさを味わえる。夏の山登りに最適。

  ・綿シャツは、汗をかき過ぎて濡れてしまい身体を冷やしてしまうことがある。身につける下着やシャツの素材は、綿ではなく、吸汗素材の物を選ぶがよろしい。

  ・お弁当のおかずをシェアし合うには、「竹串」が便利。ちょこんと刺しては、差し上げたり・頂いたりが、いい感じにおこなえる。

  ・休憩をこまめとることは、疲れをためずに行って帰ってくるためには大事。ただ、1回の休憩をあまり長く取り過ぎないこと。どっぷり休んでしまうと、休めた身体の立ち上げにエネルギーを消費するので、必ずしも腰をかけず、立ったまま軽く休むが良し。

  ・次の日に疲れを残さないためには、下山した最後に、日帰り温泉に立ち寄って、身体の疲れをとるといいよ。などなど。

 大いに学ばせてもらって、友人を伴って翌週行ったときには、お昼を食べて下山するころまでは、バッチリいい感じ。ところが、帰り道にさしかかると、天気予報よりは数時間早くから雨が降り出し、雷や雹にも見舞われ、命の危険も感じつつ、全身ずぶ濡れになった。私は着替えを持って行ったのに、それらを風呂敷に包んでいったため、着替えたいシャツや靴下が、リュックの中でびしょ濡れになってしまった。それらの報告をみどりさんにすると、「山の天気は急変しやすく、特に尾瀬の雷雨は激しいです。山は早立ちが原則です。レインウエアは必需品ですね。」と返ってきた。なんとも頼もしいお言葉のトーンである。

 ところで、仕事で、製造業の会社から、コミュニケーション研修のご依頼を受けたことがあった。研修内容に対するリクエストとして、研修担当者から、「先輩側が後輩側に、『俺たちの時代は、こうだった。俺の背中を見て学べ。』で済ませず、どのようなコミュニケーションを取ると良いかを、当然内容に入れてもらいたい。しかし、後輩側がどのように関われば、先輩がもっと意欲的に、後輩に関わってくれるかということも内容に入れてほしい。」との要望をいただいたことがある。この研修担当者の観点、私はとても大事だと思う。「後輩から先輩に学ぼうとする姿勢」は、時代と共に希薄になり、先輩が教えてくれなくても、マニュアルさえあれば良いのだという空気に、この頃なってきてはいないだろうか。

 以前「ソリューションフォーカス実践コース」のファシリテーターを務めさせていただいたことがあった。そのコースの参加者で、20代後半から30代前半の青年が話してくれたことが印象的で今も覚えている。

 技術を組織で伝承するために、年配者の技術を学びたいが、年配の方々から、学ぶことをどのようにしたら良いのだろう。いたずらに時間をかけるのではなく、一定期間に効率的に、伝承が行われるようにしたい。この状況で彼が試してみたことは、お昼の時間に、年配者の隣へ行って、「ここに座っていいですか」と話しかけ、ご飯を食べながら、世間話をするようにし、そのことを何回もするうちに、仕事の技術に関することも、色々と教えてもらえるようになったというのだ。

 おそらく、年配者側は、後輩からの「教えて欲しい・きかせて欲しい」という姿勢によって、自己有用感を味わったであろうことがうかがわれ、青年側は技術を学ぶことができ、自信を得るきっかけが掴めただろうし、組織の継続性という点にも、明るい見通しをつけることができたのではないだろうか。

 もう一度、尾瀬の話に戻るが、もし、みどりさんと明ちゃんに教えていただくことなく、尾瀬に友人・知人をご案内したとしたらどうなっていただろうか。それはそれで無事にいってくることができたかもしれない。しかし、当日を迎えるまでの日々、自信を持ってご案内ができそうだという、私の気持ちの安心を得ることはできなかったかもしれない。そして、当日お連れした方々の笑顔に触れ、共に友人達とここにやってくることができたという嬉しさと喜びを深く味わうことはできなかったかもしれない。

 そうだ。鳩待峠からアヤメ平に行くコースがいかに素晴らしいかを、お伝えするのを忘れていた。森の中を緩やかに登って行き、視界が開けると、丘一面に、黄色いキンコウカの花が咲き乱れ、アヤメ平に到着すると、大きな池塘(ちとう)の向こうに、燧ヶ岳が雄大にそびえている眺望は、えもいわれぬ美しさ。それから、富士見田代の池塘の向こうに燧ヶ岳を望みつつ、鏡のような水面に映える夏空、忘れられない光景。 

 暑いけれど快い時間を過ごした2025年の夏は、そろそろおしまいになるかな・・・。

快く生きる日々 No.37 渡辺照子” に対して1件のコメントがあります。

  1. おっくん より:

    渡辺さんへ

     渡辺さんはいつも素敵な人たちに囲まれているんですね。
    その安心感がいつのまにか尾瀬の風景に溶け込んで、僕の
    行ったことのない尾瀬へのあこがれを引き出してくれるかの
    ようです。

     ★先輩と後輩★

     ぼくにも良き先輩はいましたし、今もいます。
    僕が勝手にそう思っているだけなのかもしれませんが。

     僕は良き先輩なのでしょうか。
    先輩として誰かに良い影響をあたえることができて
    いるのでしょうか。
    だれも教えてくれませんが、そのような先輩でありたいと
    気づくことができました。ありがとうございます。

    ★気づいたこと★

     今回のコラムは、一言もソリューションフォーカス的な
    用語や解説はありません。友人や知人との関わり方の中に
    ある「尊敬の念」が本当の自然な生き方(SF)なんだなあと
    あらためて思い起こされます。
     先日のフェイスブックで渡辺さんのお母さんにお会いしました。
    いつか僕もお母さんのおられる高みの風景を見てみたいと
    思います。あの夏の尾瀬のような。

    おっくん

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