快く生きる日々 No.30 渡辺照子
❝社員は褒めない❞ とある会社の会長から学ばせてもらったこと
先日、とある会社で研修の仕事をさせていただいた。その会社は全国に支店があり、その日は本社に集まっての社内全体会議。一日の終わりの90分だけ私は時間をいただいた。日ごろ離ればなれに仕事をしている社員同士が、一堂に会する機会だ。
その日、「人の肯定的側面を見る」ということについてお伝えをさせてもらった。残り30分になったとき、あらかじめ20個の質問リストを準備しておいて、3人組でお互いに質問をし合ってもらった。
一組だけ一人足りなかったので、私が入らせてもらった。60過ぎの仕事も人生も経験豊富そうなAさん、20代後半の若さあふれるBさん、そして私の3人組。最初にAさんが質問役。「辛かった時、どうやってそれを乗り越えたの?」という質問が発せられた。Bさんの答えは、「仕事を教えてくれる先輩が厳しくて、入社して1年半の間、とても辛かった。でも、俺は一生懸命何とか頑張っていた。ある時その先輩と一緒に出張する機会があった。ゆく途中の電車の中で、その先輩が認めてくれたのがすごく嬉しかった。その日から、その先輩の態度が俺を応援してくれるような態度に変わって、今まで辞めずに働き続けることができている。自分は技術者で、業者さんからは厳しい言葉ばかり毎日浴びている。もし、生まれ変わったら、今度は例えばラーメン屋さんになりたい。自分のやった仕事に対し、❝おいしかったよ❞って言ってもらえるような仕事に就きたい。」という回答だった。Bさんは快活に語ってくれたし、その話を聞くAさんも、熱心に受け止める感じで聞いてくれた。
私はその様子をみて、こんな感じの対話が、広いホールに広がった3人組の各輪っか・輪っかで展開されているのかと思えて、まさにこういう雰囲気を創り出したかったのだと、ここまでの1時間の自分の研修運びを、いいぞと思えた。私の伝えたいことが皆さんに伝わっているように思えたのだ。総務の研修担当の方も、❝場の雰囲気がとても良くて、狙い通りだ❞と言ってくれた。
全体会議が終わり30分ほど時間をおいて、その場はパーティー会場に変わり、懇親会が開かれた。私も招いてもらって参加。懇親会の時間の中盤、会長が隣席に来てくださってお話をされた。その話の内容を聞いたとき、「ああ、私の伝えたかったことの本質が伝わり切れてはいない。」ということがわかり、さっきまで今日の自分の仕事に、自己満足気味だったところから、気持ちは一変した。
会長の言葉。「あなたには悪いけれど、わたしは社員を絶対にほめない。私はあなたとは違う立場をとっている。仕事というのは、重圧に耐えて、やり抜いてそこに成長がある。自分は人に褒められたこともない。社員も褒めない。」この会長は、ご自身が作った会社を急成長させ大きくしていらした方なので、そのスタンスや言葉には、重みがあった。
私が、「一つ質問してもいいですか?」と言ってみたところ、「いいよ。」と寛大に受け止めてくださる雰囲気で、質問を聞いてくれた。「会長は、会長にとって、できていない社員、やる気がない社員がいた時は、どのように関わっていらしたのですか?」。会長の回答は、「“一緒に越えよう”と働きかける。一緒に進もうって声かけるんだよ。そして、一緒にやるんだよ。」と。
社長のお話は、まさに他者尊重のかかわりそのものだ。そして、私が会場の皆さんに伝えさせてもらったことと、真意は違っていない。それなのに、「あなたには悪いけれど」という枕詞をつけて、「私が社員と関わるスタンスは、あなたとは違うんだよ。」とおっしゃるということは、私の伝え方が、「他者尊重」=「ほめる」風に受け取れるということなのだろう。
どうしたものか・・・。
私はこれまで、人の肯定的な側面を見て、それを表現する他者尊重の姿勢を、青木安輝氏の造語である、「OKメッセージ」として伝えさせてもらってきた。しかし、そのOKメッセージの内容について詳しく説明はしては来なかった。詳しく説明しなくても、人から肯定してもらうワークの体感によって、わかってもらえるだろうと思っていた。しかし、会長のお言葉から、私は単にワークだけではなく、OKメッセージがどのようなものか、具体的に解説を加える必要があると感じた。
そういえば、青木安輝氏の研修の資料のOKメッセージのリストの中に、「叱る」も入っていたなあ。どういう時に「叱る」がOKメッセージになるのかなどの解説も含めて、時間を取って伝える必要があるなぁ。
研修は限られた時間で、進めていくので、状況によって端折ることもしばしば。しかし、今回のことで、人の肯定的な側面を見ることの意味について、ほめることももちろんOKメッセージの表現であるが、一部であるということをしっかり伝える大事があると実感した。
先の会長のスタンス、「(たとえ褒めなくても)この社員はきっと成長する。この社員を私は見放さない。一緒に進もうと声をかけ、一緒に進む。」この関わりこそが、OKメッセージであるということを、時間をとって、丁寧に伝えよう。
ああ、❝この会長には、私の伝えたいことが伝わっていない。❞とただ嘆くだけに終わるところだった。会長によって、今後に役に立つ認識を持つことができた。これからさらに出会う人々に、「他者尊重・人の肯定的な側面を見る」ことの意義や意味や面白さを、本腰を入れて伝えていきたいとあらためて思うことができた。
さて、今日私はどんなOKメッセージを頂いただろうか。朝から夕方の今までたどってみる。
・お茶飲む?と声をかけてもらった。
・おはよう、早くからご苦労さん。と言ってもらった。
・運んだ料理を、お客様においしいと言ってもらった。
・手伝ってくれてありがとね、助かったよ。と言ってもらった。
・私が車のエンジンをかけたら、外に出てきて、見送ってくれた。
・笑顔で迎え入れてくれた。
・エレベーターの前で、「一緒に行きましょう。」と声をかけてもらった。
・僕は君の夫の一個上の先輩だけど、君の夫は練習熱心だったよ。と昔を語ってくれた。
・もう帰っても大丈夫よ。と気遣ってくれた。
・隅々まできれいに直しておいたよ。と修理店のおじさん。
意識していないと見過ごしがちだが、気持ちを留めてみると、実はたくさんいただいている。
自分がいただいているOKメッセージを心から味わうことができると、人の肯定的側面を見ることの意味や意義は、より一層実感をもって人々に伝えられるはずだ。
渡辺先生へ
こんにちは。ますますお元気そうでなによりです。
今日のコメントは簡潔に一言。
大きな意味でOKメッセージとは、その人に興味を持つことなのかなあと思いました。
無視したり、無関心からは何も生まれないと自治会活動の中でも感じます。
今回の会長さんのように気づきを与えてくれる存在って大切で、
逆な考え方の持ち主のおかげで自分の視野も広がるし、
改めて自分の価値も見つめ直すことができると思います。
がんばれ照ちゃん、笑顔でガンバ、ガンバ!
おっくん
おっくん、こんにちは。
いつもコメントをどうもありがとうございます。
この度も、どうもありがとうございます。
『 OKメッセージとは、その人に興味を持つことなのかなあ 』
普遍性のある捉えだと感じます。
相手の方への興味がなければ、
OKメッセージは生まれないし、浮かんでこないと思います。
自身が相手に、興味を持つことを如何にできるか。このことこそ、自分と向き合うテーマと成り得る気がします。
励ましを、おっくん、どうもありがとうございます。
経験・体験はすべて学びの機会、楽しんで進みます。
おっくん、これからも応援、よろしくお願いいたします。