快く生きる日々 No.1 渡辺照子

『ただ話しているだけでスッキリ解決した話』

「(あなたの)荷物を持たせていただいて、ありがとうございました。」

この言葉に、私はドキドキした。とてつもなくまずいことをしてしまったのではないかと一瞬体中の毛穴から汗が吹きでるような気持ちになった。

先日、私は知人B氏が学長を務める大学の新入学生さん達に一日研修をさせていただいた。研修の時間が終わる頃、彼はわざわざ会場に足を運び、会場の様子を観てくれた。すべてが終わって後片付けの間も、そこにいてくださって、そして会場から去る段になった。私は研修用の荷物をキャリーバックに入れて持参していた。それを持ち帰ろうとして他の荷物も手にしていたら、B氏が、「私が持ちましょう」と。

一瞬私は考えた。 ❝目上の方に、しかも高いポジションの方に、荷物を持っていただくべきではない。❞ ❝申し出てくれたのだ、むげに断るのもおかしい❞ ❝B氏は背筋もすっと伸びて、ダンディーで、進歩的、そしてユーモアもある方、もはや上下関係で接しなくてもよい方かもしれない❞。結果「ありがとうございます。お願いします。」と私。

恐縮しつつ、3階から1階まで階段で一緒に降りていった。1階ロビーに着いた時、「B学長のような方に、荷物を持っていただくなんて、もう本当に申し訳ありません。どうもありがとうございました。」と礼儀をわきまえたつもりで言ったら、冒頭の、「いやいや、こちらこそ(あなたの)荷物を持たせていただいて、ありがとうございました。」とB氏。しかも、すっくと立って、ちょっとそっくり返って、笑みを浮かべておっしゃったのだ。

瞬間的に、❝これって嫌味? あっ、私はとんでもなくまずいことをしたのかもしれない。❞ 選択を誤ったと思った。 ❝いや、待てよ。持ってもらったことを失敬だと思うくらいなら、「持ちましょう。」なんて言わなきゃいいじゃないの。B氏の方から言ってきたんだ!❞ ❝でもな、B氏は真顔で冗談おっしゃる方だしな。この返しは、彼特有のユーモアかもしれない。❞ ❝でも、やっぱりまずいよ。いくら何でも学長に、資料や本とか入ったずっしり重い荷物を持ってもらうのは…。❞ 心の中で考えと思いが交錯する。答えが出ない。

帰りの車の中、運転しながら悶々と考えた末、❝いくら考えても仕方がない。どうであったかなんてわかんない。確かめて謝る?そこまでする必要ないだろう。答えは出ないんだから、もう考えたってしょうがない。「賢明であるコツとは、何に目をつぶるかを知ることである」ってウイリアム・ジェイムズ氏も言ってるじゃん。❞ 考え続けようとする自分に早めに目をつぶれた自分、これで良し。解決だ。ちゃん、ちゃん。

10日後。

妹から電話が来て、他愛もない話をする中で、この出来事を彼女に語っていた私。一部始終を話しながら、あっと気づいてしまった。B氏が、「持たせてくれてありがとう」と言ったのは、彼の嫌味でも何でもない。その直前に「B学長のような方に、荷物を持っていただくなんて、もう本当に申し訳ありません。」と私が言ったことに対して、彼の持ち味であるユーモラスな返し。ただそれだけの事。 ❝なーんだ、自分のしたことの結果として、あのフレーズが生まれたんだ。❞ と思えたらこの件に関することが私の中で完全に解決に至った気がした。

話をしているうちに気づくことってある。その気づきが、正しいとか、真実であるとか、真髄をついているとかは関係なく、話していて自分で得る気づきは、自分にとって納得がいき易い。自分にとっての新しい答えになる。

ただ話をさせてくれる・ただ聞いてくれる妹の存在、ありがたいな~。

今回は、「早めに目をつぶれた解決法」より、「話すことで気づく解決法」に軍配が上がった。

それにしても、❝相手の反応は、自分のとったコミュニケーションの結果❞とはよく言ったものだなあ。

快く生きる日々 No.1 渡辺照子” に対して14件のコメントがあります。

  1. 清水 崇 より:

    エピソードご紹介ありがとうございます。
    「人は自分を映す鏡」のフレーズを思い出しました。
    短くまとまったフレーズは美しく・スマートです。
    自分が実際に体験することで、そのフレーズが腹落ちするのだと思いました。

    1. 渡辺照子 より:

      清水さん、おはようございます。コメントを頂戴しありがとうございます。
      コメントをいただけて、とても嬉しいです。
      「人は自分を映す鏡」確かに美しく・スマートですね。
      清水さんがおっしゃいますように、体験の中で腹落ちしていくと私もそう思います。
      その腹落ちのプロセスが、❛生きる・暮らす❜ということなんでしょうか。
      「人は自分を映す鏡」という言葉は大きな可能性をはらんだフレーズだと私は
      思います。自分の鏡を磨けば、もしかしたら相手の良い変化とか快さに
      つながるかもしれないから。

  2. シオタリョウコ より:

    渡辺さん、ご無沙汰しております。
    ブログ拝見して、似たような体験(あの人の言葉どう意味で言ったの?)(私の言い方まずくなかったかな?)と思うことが良くあるので「あるある!!」と読み進めました。
    共感したのは『話すことで気づくことがある』ということです。その話をしている相手の反応で引き出されたり、自分でも思いもしなかったことが湧いてきたりするときがありますよね。

    そして「賢明であるコツとは、何に目をつぶるかを知ることである」という言葉。
    直ぐにメモしました。本当にそうですね!
    真実は分からないのに、あれこれ一人で考えると悪い方向に考えてしまいがち…
    言った言葉は戻ることはないので、どこでどう納めるか…のヒントをいただきました。ありがとうございます。

    人と話していると(あ~私ってこういう事、思っていたんだ)と、気づく時が私も経験あります。私が大切にしていることは、話す相手をしっかり選ぶこと。笑
    ネガティブな人に話すとネガティブな返しが来るので、自分もそちらに引っ張られたり…。

    SFで言う「快」の状態、つまり自分をご機嫌な状態に保つことは手を抜けないな~と、思う今日この頃です。

    1. 渡辺照子 より:

      シオタさん、こちらこそご無沙汰しております。
      コメントをいただき、どうもありがとうございました。とても嬉しいです。
      シオタさんも、あれやこれやと後で思うことがあるのですね~。  私は、
      「賢明であるコツとは、何に目をつぶるかを知ることである」の話を、SFセミナーの
      中で、講師の青木安輝さんからお聞きしました。それを聞いて以来、この言葉は
      日常生活の中で、私の心の中の言葉として頻繁に登場し、そのおかげさまで、「不快」の
      時間が激減し、「快」か「ニュートラル」の時間の割合が増えたなあと思っています。
      「自分をご機嫌な状態に保つことは手を抜けないな~」・・・
      シオタさんがご自分を大切になさろうとしていることが伝わってきます。💛

  3. 柴田 篤 より:

    渡辺さま

     有難い体験談を読ませていただき、ありがとうございます。「ありがとうございます」には「どういたしまして」で返すのが普通ですが、これだとことばは丁寧ながら、相手の言うことを否定するだけになってしまう。そこで一歩踏み込み、私もあなたの役に立てて、有難い体験をさせてもらいました、ありがとう、と自分の気持ちを素直に言葉にされたのかなと思います。
     
     この場面で反射的にこうした言葉がでるのは、日常から心がけていらっしゃるのでしょうね。B学長さん、達人ですな。

    1. 谷奥勝美 より:

      柴田さんへ

       B学長が達人だという捉え方にすごく共感いたします。そのような人物像に近づきたいものです。
       B学長にそのようなひと言を発せさせたのは渡辺さんへの期待と感謝、未来の学生への責任感だったのではないでしょうか。
      ちょっと考えすぎかな?

  4. 渡辺照子 より:

    柴田さま コメントを頂戴し、どうもありがとうございました。嬉しいです。

    柴田さまのコメントを、興味津々で拝読しました。それで、読み終えて、私の中の
    B学長像に新たな姿が加わっていく気がしました。

      ・「自分の気持ちを素直に言葉にされ」るB学長像
      ・「日常から心がけていらっしゃる」「達人」というB学長像

    いや~、柴田さまの「プラスの眼鏡」感度がすごいなって思って脱帽しています。
    自分の心の置き所をどのようにすれば、
    柴田さまのように見ること・思うことができるのか日々の中で探索してまいりたく思いました。

  5. なみのすけ より:

    気ごころを知り合う中ならいざ知らず、どのような方かわからない中で
    いろいろな考えが自分の中で湧いてくることってワシもよくあります。
    何が正解かわからず、自分の言い回しについて後からどんよりすること
    もあり共感をもって読ませていただきました。
    自分自身を振り返りこともできたコラムをありがとうございました。

  6. 渡辺照子 より:

    なみのすけさん、コメントをいただきどうもありがとうございました。なみのすけさんが、ご自分の体験と重ねて、共感的にお読みくださったことが伝わってきて、嬉しい気持ちになりました。実際のところ、自分のことについて書くことは、はずかしいような気持がなきにしもあらずですが、なみのすけさんが、読みながらご自分の体験を思い出し、振り返ることもできたと書いてくださり、そういう風にブログ記事をご活用くださったことで、❝ああ、書いてよかった❞と思わせていただきました。

  7. 谷奥勝美 より:

    渡辺様

     おはようございます。
    僕には、「ひょっとしてB学長に不快な想いをさせてしまったかもしれない」が、渡辺さんの心にひっかかり続けていたように感じました。
    「快く生きる日々」を別の言葉で言うと「人を幸せにすること」とおっしゃられてるのかなあと。
    そう考えると渡辺さんの明るさの意味と気配りの心地よさが理解できます。長年の訓練の賜物でしょうか。なかなかできないですね。

     「賢明であるコツ」についてもう少し教えていただけないでしょうか。
    まあいいか、しょうがないという無責任なあきらめではなさそうに感じたので。
    よろしくお願いいたします。

    1. 渡辺照子 より:

      谷奥さん、コメントをいただきましてどうもありがとうございます。嬉しく拝読。
      そして、谷奥さんのコメントの中に、谷奥さんの「プラスの眼鏡の感度のすばらしさ」を
      見出し、ただただ感じ入っております。

      一体、谷奥さんはどうやって、これまでプラスの眼鏡の感度を磨いていらしたのですか?
      (ほかのライターの皆さんへのコメントを拝見しても、
       谷奥さんが穏やかなお心で物事を見つめ、おおらかに包むような眼差しで世の中を見て 
       いるご様子がとても心地よいです。)

      「『賢明であるコツ』についてもう少し教えていただけないでしょうか。
      まあいいか、しょうがないという無責任なあきらめではなさそうに感じたので。」

      このことに関しましては、私は、❝自分の心の執着を手放す❞という意味合いで解釈し、この言葉を日常で活用しています。

      谷奥さんのおっしゃる、「まあいいか、しょうがないという無責任なあきらめでは
      なさそう」ということには、私も同感です。「あきらめ」という言葉を
      使用して表現するなら、「積極的あきらめ(?)」「正義のあきらめ(?)」
      「肯定的未来に向かうためのあきらめ(?)」・・・。

      「賢明であるコツ」に関して、谷奥さんがいかに考えるかお聞きしてみたいです。
      同時に、これをお読みの皆さんも如何に考えるかお聞きしてみたいです。

      「賢明であるコツとは、何に目をつぶるか知ることである」の解釈について、
      いかが思われますか?

      1. 谷奥勝美 より:

        渡辺様

         お褒めの言葉、素直に頂戴いたします。
        渡辺さんより2年長く生きていることと、
        実践コースで渡辺さんにいじ・・・いや暖かい訓練を受けたから
        身についたのでしょう。笑

         「賢明であるコツ」・・・面白いテーマですね。
        おっしゃるように ❝自分の心の執着を手放す❞ は一歩深めた解釈ですね。

         少しずれるかもしれませんが、先日面白い体験をしました。

         定年して初めて面接に行きました。41年ぶりの面接です。
        山の中のわずか3部屋の小さな古民家ホテルです。
        私は「自分なりの人とのかかわり方」を持っているつもりだったので
        おそらく採用してもらえるだろうと思っていました。
        思いで突っ走るんです、のんきなもんですね。

        しかし、面接の中身はこうでした。
         「玉子焼きはつくれますか?、主婦なら普通に作れますよね」
         「みそ汁はつくれますか?」・・・どちらも返事は「NO」としか
        答えることはできませんでした。完全なスキル不足です。

         もちろん、コロナ禍でお客も少なく仕事そのものが減っているようで
        多能工化しなければ回らないとのことでした。
         僕にできそうな清掃業務だけでは、賃金は完全に目標未達です。
        そしてそのホテルを後にしました。
        ショックでその晩はやけ食いしました。笑

         3日後の昨日、僕は玉子焼きのフライパンを買いました。
        ネットで作り方も見ました。LINE仲間からも最強の玉子焼きレシピを
        教わりました。そして本日の午後、初の玉子焼きに挑戦します!

         結局、面接で教えられたのですね。玉子焼きを作ってみなさいと。
        面接がなければ「玉子焼きを作ろう」とも思わなかったし、
        今後の人生にどんな影響があるのかわかりませんが、素直にやってみようかと。

         面接不採用にはショックでしたが、なんだか心が軽くなり、
        できなかった事に挑戦してみようと思う気持ちが出てきました。
        今では面接不採用に感謝しているところです。
        渡辺さんのおっしゃる「心の執着」から解き放たれたように思います。
        古民家の親爺にちょっと近づけるかも・・・(夢)

         さあ、玉子焼きつくりに行ってきます!

         

        1. 渡辺照子 より:

          谷奥さん、ご返信どうもありがとうございます。
          おめでとうございます。見事にバージョンアップなさいましたね。
          卵焼きの次は何に挑戦ですか? 味噌汁?

          谷奥さんのメッセージを拝読したら、最近読んだ
          以下のある方のブログを思い出しました。↓

          「いままで自分がやったことない新しい仕事を担当することになると、
          どうしたらいいのかとやり方だとか、完成イメージを先に求めがちである。
          こういうときわかるがまず先にあり、やるが後になる。
          わかるからやれるという思考習慣に囚われているからだ。
          実は逆である。やるが先なのだ。
          自分の力でやれることをやる。
          できることをやる。すると漠然としていたことが具体的になってくる。
          やるからわかるのだ。ここでいう、かるとは、
          最初から完璧にわかった!ことではない。
          なにがわからないかがわかるという意味合いを含む。
          理解が進むのだ。やったことないこのときに、しのごの言わずに
          まず、やることで、新しいことに取り組む
          自分の不安や恐れの波が静かにひいていく。
          そして、より明確に自分の力になっていく。
          これが理解するということだ。
          サントリーの創業者の鳥井信三郎氏の
          やってみなはれなのだ。
          結果を恐れてやらないことは悪
          なさざることは罪」
          ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
          ❝まずやってみる❞は大事そうなので、しばらくの間
          このことを気にしてみたいと思います。
          谷奥さんのおかげさまで、自分の意識が磨かれていくようです。

          ところで谷奥さん、実家が旅館業の身としては、
          谷奥さんのような方がスタッフに加わってくれたな最高だなあ~♪
          「場」が軽やかになって、スタッフにとってもお客様にとっても、
          楽しい場になりそうな予感。

          1. 谷奥勝美 より:

            照ちゃんへ

            心がワクワクしてます。
            どんぴしゃな応援メッセージに”感動”しています。

            よーし、群馬に行くぞ。
            そのためにも今日も玉子焼き作ります。
            お客様に”感動”していただける玉子焼きを!
            (写真はFBにアップしています)

            本当にありがとうございます。
            見守ってくださいませ。
            面接、落とさないでね。笑

            おっくん

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