「あるもの」をつなぐ No.21 小林シンイチロウ

立場や役割を超えて相手をわかろうとするコミュニケーションの大切さ

今の組織のメンバーとはだいぶ長い付き合いになってきました。共に苦労しながらグループをここまで進化できたのは、今のメンバーのおかげです。しかし・・・そのメンバーが一人、異動したいと申し出てきました。ショックと同時にどうして?なんで?とあたふた。これからどうなることやら・・・

突然の異動相談

7月の出来事です。リモートで部下のチュウさんと打ち合わせをしていました。打ち合わせが終わった後に、「ちょっと話したいことがある」とぼくに声をかけてきました。

「ちょっと話したいことがある」というフレーズは、上司にとってドキッとする言葉です。良い出来事かもしれないのですが、どうしても悪い方を想像してしまいます。

最近チュウさんが仕事やご家族のことで困っている様子もないし、特に悪いことは思い浮かばない。まあ、そんな大袈裟な話しではないだろうとチュウさんの投げかけに答えました。

ぼく

「うん、スケジュール空いているとこに1時間くらいいれといて。リモートでいい?」

チュウさん

「いえ、できれば対面がいいです。ちょっとリモートでは話しにくい内容なので」

ん?!話しにくいってなんだ?頭をグルグル回転させて、最近のチュウさんの行動や言動を思い出しながら、悪そうな出来事を探しましたが思い当たらない。どうしても気になってしまいました。

ぼく

「え、どんなこと?いま少し話すことできる?」

チュウさん

「いえ、話しにくいです。コバヤシさんが驚くと思うので」

ぼく

「あ・・ああ、そうっかあ・・じゃあ対面で聞こうか」

チュウさん

「はい、おねがいします。キャリアチェンジの話です」

ぼく

「(心臓がギュッっとなる)・・・キャリアチェンジね。対面で聞く前に聞いちゃったね」

確かに驚きの話です。キャリアチェンジということはぼくのグループから離れて別のグループへ異動したいということです。マネージャーのぼくにしてみれば絶望的な一言です。人員は減る、メンバーの負担が増える、ぼくの負担も増える、今後の目標達成に支障が生じる・・・こんな打算的なことが最初に浮かんでしまう。なんか嫌な自分です。同時にこれまで一緒に仕事をしてきた時間を思い返しながら、共に苦労を重ね、成長してきた仲間がいなくなる寂しさが熱く込み上げてきました。

チュウさんはキャリア志向だし、今回の出来事事態に違和感はなかったんです。だけどチュウさんの言動で気になったのが、異動したい部署をぼくに伝えなかったんです。何をしたいのか、そのためにどの部署に行きたいのか、決まったらお知らせします、と言うだけに止まっていました。

対面のミーティングを改めて設定しました。その中で行きたい部署について話しがあるものだと思っていました。

チュウさんの本当の気持ち

対面での相談の時間がやってきました。すでに異動したいという意思は聞いています。ぼくが気になるのはどんなキャリアを求めてどこの部署にいきたいのか、それとその理由でした。他部署へ異動して成長したいと考えているならば、完全にぼくが成長の機会を準備できなかったことが原因です。

チュウさん

「もうこのグループも長いですし、そろそろ新しい部署でキャリアアップしたいと考えています。7月にキャリアチェンジを出して上司と人事の承認が出れば、来年1月には異動ができると思うので。このグループは大好きですし、コバヤシさんにも大変お世話になったので、ご迷惑かからないように1月までの間にしっかり仕事を引き継いでいきます。行きたい部署はまた今度お伝えします」

ぼく

「このグループが好きだって聞けてよかったです。引き継ぎの件も配慮してくれてありがとう。でもすごく残念な気持ちです。もう少し一緒に仕事がしたかったです。ようやくこのグループもデジタル化に舵を切ったタイミングですし、チュウさんはデジタルの仕事でリーダーシップをとってほしかったので」

チュウさん

「ありがとうございます。でもアリオカさんがいるので大丈夫です。できればこのグループに新しい人が入ってくるといいのですが」

ん?アリオカさんがいるので大丈夫ってどういうことだ?ちょっと違和感を感じました。「あ!」とぼくは気づきました。そういえば1ヶ月ほど前にチュウさんからこんな訴えがありました。

チュウさん

「コバヤシさん!アリオカさんがワタシに対してキツいこと言うんです。もう限界ですよ。精神的にもたないです」

ぼく

「アリオカさんは思ったことをはっきり言う人だから、言い方キツいときあるよね」

チュウさん

「違うんです。コバヤシさん分かってないんですよ。グループで話すときとワタシと二人で話すときでは、言い方が違うんです。すごくキツいんですよ。耐えられないです!出社するのもキツいです。。」

チュウさんは気になることや、不満に思ったことは、都度ぼくに話してくれておさまっていました。今回もその1つぐらいに思っていました。でも今思えばこの時はいつもと違う様子でした。チュウさんは続けて言いました。

チュウさん

「このグループでアリオカさんとチュウさんは2トップです、とかもう言わないでください。言うたびにアリオカさんのシゲキになって、ワタシにキツく言うんですよ。本当につらいんです!」

確かにぼくはこのグループを今後引っ張っていくのはアリオカさんと、チュウさんです、と朝会の中でも言うことがありました。しかし、このことが悪さをしていたとは思いもよりませんでした。

この時、チュウさんは限界だったのかもしれません。チュウさんのキャリアチェンジはこのことが引き金になったんじゃないかと思いました。気づくのが遅かった。。

チュウさんがキャリアチェンジを正式に申請するかしないかは置いといて、この問題をなんとかしたい。もし、キャリアチェンジをすることになって、来年1月からチュウさんが異動したとしても、残り半年の間、このグループの仲間と充実した時間を過ごしてもらいたいと考えていました。

チュウさんがつらく感じること

アリオカさんはチュウさんの数年先輩です。チュウさんがアリオカさんに対して「アリオカさんの言動でつらい思いをしているから改善してくれ」と伝えるのは難しいです。チュウさんも言いにくいと言っていました。

かといって、ぼくが「チュウさんはアリオカさんの言い方がキツく感じてつらい思いをしています。だから改善してください」とアリオカさんに伝えれば、チュウさんが告げ口したような感じになって、二人の関係性が悪くなってしまう。チュウさんはそれも避けたいということでした。

チュウさんがキツく感じるときは、アリオカさんから指示的に言われた時だということがわかりました。アリオカさんは先輩だけど同僚です。同僚にも関わらず「こうやってやりなさい、あれはやってはいけない」など指示をしてくることが耐えられない。チュウさんは外国人ということもあり自主独立の精神が強いです。それとアリオカさんの言っていることは割と正しいから反論もできないということでした。

アリオカさんの嫉妬?

ぼくはアリオカさんを次期マネージャーとして育成しています。会社にも次期マネージャー候補としてあげていますし本人もその気満々です。そうした気概もあるせいか、「2トップ」という言葉に反応し、チュウさんに対して嫉妬のようなものが芽生えてしまったのかもしれません。あくまで想像です。そもそも2トップなんて言わなければよかった。配慮の無い発言でした。

アリオカさんはいろいろとご事情があり、仕事をがんばりたいという熱意が高いです。マネージャーを目指すのもその1つであり、アリオカさんにとって大切なことです。並々ならぬ思いがあります。

そうした思いがあるのを知りながら、ぼくは「2トップ」なんていう言葉を発して、アリオカさんを悪い方向へ刺激してしまったことを反省しています。

というのも、アリオカさんはこれまでチュウさんに対してキツく言うことは何度もありました。それは相手を考慮せず自分都合で仕事を進めることがあり、そのことに対して黙っていられず直言していました。気づいたことは言葉として発してしまう傾向があります。本人は悪気なく「指導」のつもりなんです。

このレベルでおさまっていれば問題なかったのですが、ぼくの「2トップ」の一言が、その「指導」を助長してチュウさんのキャリアチェンジ検討につながってしまったのかもしれません。

悪者を作らない解決の模索

ぼくは上期の評価面談の中で解決のきっかけを作ろうと決めました。評価フォーマットには「成果に対するフィードバック」と「改善点」の記載項目があります。改善点として下記を記載し、面談の中で伝えました。マネージャーになるために「聞く力」を高めてほしいという期待です。

「上期は、目標達成に向けて関係者への指示も的確で必要なコミュニケーションは全てとって頂けました。さらにコミュニケーション力を向上させるために、制作メンバーの意見にも落ち着いてしっかり耳を傾けることで、制作メンバーの力を引き出しアリオカさん個人の力を拡大できると観察しています。下期は『聞く力』をテーマに取り組んでみてください。期待しています」

アリオカさんは自分が気づいたことをすぐ言葉にしてしまうことは課題だと理解していました。そして「聞く力」について意識して取り組みたいと話してくれました。ぼくは気づいたことをすぐ言葉にするのはアリオカさんの強みだと思っています。それを邪魔せずにチュウさんとの関係性を改善するにはどうしたら良いかを考えて、「聞く力」を伸ばして欲しいと伝えました。アリオカさんにとっても、チュウさんにとっても、グループにとっても良い方向へ向かう解決になると信じています。

改善の兆し

アリオカさんに上記を伝えた後は、チュウさんから苦情はありません。朝会の中でもアリオカさんが「聞く力」を意識して話さないでいる様子(ガマンしている様子)が伺えます。キャリアチェンジについても相談が止まっており、ご本人がどのように考えているのかわかりません。お盆明けにはぼくから確認してみたいと思います。

ただ・・何かグループの絆が一皮むけたような雰囲気を感じています。ぼくだけでしょうかね。来週月曜日は1回/月のランチ懇親会があります。みなの笑顔を見ながら美味しいランチを食べる。こんな幸せな時間はありません。楽しみです♪

この出来事からの学び

チュウさんがキャリアチェンジを相談してくる前に、ちゃんと「わたしは、部署を異動したいくらいつらい思いをしているよ」というサインがありました。しかし、ぼくは「チュウさんはいつもと同じことを言っているな」と思い込んでしまった。効率的に仕事を進めたいというマネージャーとしての役割りがフィルターになっていました。その結果、チュウさんは本当は望んではいなかったキャリアチェンジという選択まで追い込んでしまったのかもしれません。

そう思うと、1回1回のコミュニケーションの大切さを身にしみて感じます。その場所で、その時、その瞬間にそこにいる人が感じていることをわかろうとすること。マネージャーという立場や役割を超えてわかろうとすること。そうすることがお互いを大切にすることにつながるんじゃないか。そんなことを考えさせられた出来事でした。

「この人はこういう人だから、こんなときはこう反応する」と思い込んでしまう代わりに、「今この瞬間、この人は何を感じているんだろう」とわかろうとする。そんな姿勢で人と向き合っていきたいと思います。

「あるもの」をつなぐ No.21 小林シンイチロウ” に対して2件のコメントがあります。

  1. おっくん より:

    小林さんへ

    一番最後のメッセージより
    【「この人はこういう人だから、こんなときはこう反応する」と思い込んでしまう代わりに、「今この瞬間、この人は何を感じているんだろう」とわかろうとする。そんな姿勢で人と向き合っていきたいと思います】
    ・・・全くその通りだなあと思います😊

     人の気持ちなんて100%理解することなんて不可能なのかもしれません。しかし、自分から理解しようとしなければ見えてこないこともあるのも現実で、うむぼれ屋の僕なんかは、勝手に相手の心を想像して「気持ち優先で」一歩踏み出してしまうこともしばしば。押し付けや迷惑にならなければ良いんですけど😅 
     でもね、一歩踏み出さないと何も変わらないとしたら、あえて言葉にした『二人は2トップ』的な言葉も次のステップに入るために使命を果たしたと言いたいですね。

     話は変わりますが、最初に読みかけた数行でこんな事を勝手に想像してしまいました。「あ〜、チュウさんもそろそろ巣立つ頃なんだろうか?」と。読み終わってみて、”なるほど”と納得してはいるものの、最初に浮かんだその想いは未だ心に残ったままでした。僕は小林チームから沢山の人材が巣立ち、小林イズムを学んだ人達が活躍する日を夢見ています。

    (ふと思いつきで未完成ですが)
    そもそも『SF』という”もの”は人の内面を顕現しながら誘因する試み(コミュニケーション)で、その実態は言葉や文字で表しながらも人の感情や行動に帰着することでその目的に到達する”もの”かなあと。さらに「人間の営み」から離れて存在することはない。
     そういうことで、SFに出会うことが出来て、今という時を皆さんと共に生きていることに深く感謝するものであります😊

    1. シンイチロウ より:

      おっくんへ

      お返事を図書会で書いてます。涼しくて快適ー!
      いつもコメントありがとうございます。今回も読んでハッとさせれました。
      そしてチームの応援もいただいて、心強いばかりです。

      チュウさんが巣立つ・・チュウさんが望む場所へ巣立つのだったら本当に喜ばしいことです。でも離れるのはやっぱり寂しい気持ちもあります。部下に甘えてるんですかね。ぼくはウェットな人間なんで 笑

      長い時間を一緒に働いていくには、お互い感じていることを伝え合って、わかり合うことって大事だと思いました。望まない結果になる前に何かしら対処ができますもんね。後悔しないですむんじゃなかな。

      8月26日の読者caféは小林が進行役をつとめて、この「わかりあう」をテーマに参加いただいた方と雑談できればと思っています。お暇だったらお立ち寄りください😉

      まだ暑い日が続くようです。どうぞご自愛くださいませ。

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