SF伝道者の四方山話 No.42 青木安輝

このタイトル何のこっちゃ?と思う人は多いでしょうね。麝香(じゃこう=musk)は香水の原料になる良い香りがする物質で、ジャコウ鹿のへそ(実際にはへそ下の腺)から分泌されるそうです。

僕が20代の頃インドの瞑想の先生の通訳をさせてもらった時に色々な寓話やたとえ話を聞きました。SF界隈でポピュラーになった「起こったことはすべて最高・・・」のジャナカ王とアシュタバクラの話はその一つですが、「ジャコウ鹿のへそ」もその時に聞いた話で、こんな内容です:

ある時、ジャコウ鹿のヤステルはすご~く良い匂いがするので、それを発しているモノが欲しくなり、探しにでかけました。山奥に深く入ったり、危険な谷を降りたり、天敵がいそうなところも勇気を出して入りこんだり、それはもう大変な苦労をして何年もかけて、ありとあらゆるところに行きました。いつもあと少しでそれが見つかりそうなくらいその良い匂いは近くに感じるのに、なかなかその源が見つかりません。老鹿となったヤステルは「あぁぁ、自分はそれを手に入れるにふさわしい資質を備えていなかったのだ・・・」とひどく落胆し、食べるものも喉を通らず、とうとう衰弱して倒れてしまいました。「もう終わりだ・・・」と弱った体が丸まって自分の鼻がへその近くまで来たとき、なんとあの素晴らしい匂いがすぐ鼻の先から出ていることに気づいたのです。なんと匂いの源は自分のへそだったのです!ヤステルはふたたび全身にエネルギーがみなぎるのを感じて立ち上がり、ゆっくり景色を楽しみながら故郷に戻るのでした♪

この寓話は、自分に与えられた命、“この自分”の素晴らしさに気づかずに遠くに宝モノ探しに出かけても、“それ”は手に入りそうで入らないという虚しさがつきまとうこと、そして外ではなく内に目を向け、この命の源を感じることができた時に「生きている」ということの至高の体験が得られる。だから瞑想しなさいと教えるものでした。

しかし、20代の僕はこの話にはまったく魅力を感じませんでした。まあ意味はわかるけど、わざわざこんな物語にしなくてもいいんじゃね?くらいに思っていました。ところが最近この物語の深い意味あいを身に染みて感じるんですよねぇ。だから鹿の名前をあえてヤステルとしてみました(笑)。

思春期以降「自分て何だ?」「価値ある人生とはどのようなものだ?」という問いへの答えを探す過程で、何かしらの目標を達成することが価値あることで、それを達成するのに発揮できる自分の能力の総量が自分なのだ、という捉え方が幅をきかせてきたように思います。だから、試験に合格したとか、何かの競技で勝ったとか、表彰されたとか、何か人に自慢できるようなことがあった時は「よっしゃ!」と胸を張れるのですが、その逆の時は人と会いたくないし、なんだかとても寂しい気持ちになってしまうのです。何かを手に入れても、世間的にもっと価値が高いと認められているものを手に入れている人を見ると、自分がシュンと小さくなってしまうのです。財力とか地位とかそんなことだけじゃなくて、感情の豊かさとか、視野の広さとか、勇気ある行動力とか、人と比較して自分の方が上だなんて思って良い気持ちになると、必ずさらに上の人がいて、その存在を知るとまたシュンと自分が小さくなってしまうのです。

今まで色々なレベルで確かに達成感も味わってきましたけど、それをしばらく味わったら、すぐにまた何かを目指していないと、自分がつまらない人間だと思うメンタルになってしまうんですね。良い匂いの源がつかめそうになると逃してしまうことを繰り返しているジャコウ鹿のヤステルとまったく同じです。

でね、ある時フェイスブックで知人がある素晴らしいことを達成した様子を投稿したのを見ながら、それと自分を比較して「あーあ、オレとは違うレベルで凄いなぁ・・・それに比べるとオレなんて・・・」って自己卑下の中に落ち込む感覚になったんです。ところがその時にね、ふとこんなセリフが浮かびました。

「そういう自分を生きている」

そして、その瞬間気持ちがフッと軽くなるのを感じました。自己卑下している状態の自分を傍から見て、こんな自分もおもしれーなって感覚になれたんです。「我に帰る」ってこういうことなのかなとも思いました。

本当はもう少し色々な考えや感情の流れがあったのですが、正確に思い出せないし、記述できません。ただ、「そういう自分を生きている」というセリフだけは妙にくっきり記憶に残りました。これね、高いとか低いとか、正しいとか間違っているとか、そういうのとはまったく別の次元の感覚でした。「自分を生きている」ことはそれ自体がありがたいことだという感覚と言ってよいかも。

目標を掲げてチャレンジして前進している自分、挫折してダメだと思っている自分、何にもしてなくて価値のない人間だと思っている自分、どの自分の時でも「そういう自分を生きている」っていう呪文を唱えたら、何だかいい匂いがしてきて内側からエネルギーが湧いてくるような気がするんですよね(笑)。

最近人の話を聴くときに、「この人はこういう自分を生きてんだなあ」って思うと、なんだか頼もしく感じるようになってきました。

あなたは 今 どういう自分を生きてるんですか?そういう話を聴くの好きなんだなぁ♪

SF伝道者の四方山話 No.42 青木安輝” に対して2件のコメントがあります。

  1. おっくん より:

    I love you!
    if you are deer.🤭
    by okkun

    1. 青木安輝 より:

      今まででもっとも凝縮されたコメントですね。ありがとうございます!

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