SF伝道者の四方山話 No.13 青木安輝

ソリューションフォーカスで人材育成@廿日市市

今日は嬉しいニュースをお届けしたいと思います。私が12年間「ソリューションフォーカス研修」を続けてきた広島県廿日市市役所で、9月に「人材育成基本方針」が改訂され、「ソリューションフォーカス」の文言が正式に取り入れられました!人材育成のためにはソリューションフォーカスの視点は欠くことのできない重要な捉え方であると、役所の公式文書の中で認められたことは、今まで自分が広めようとしてきたソリューションフォーカスの根本的な価値が公に認識されたことになるので、とてもありがたいです。

この改訂版「人材育成基本方針」の13ページには、人材育成に「必要な視点3:ソリューションフォーカス手法の活用」として、以下の記述があります:

目標の達成や問題の解決を目指す際に、「どこがダメなのか(否定要因)」を追及するよりも、「既にできていることやこれから実行可能なこと(肯定要因)」に優先的に焦点をあてることにより、創造性や自発性の高い状態でゴール(解決)に向かえるよう「ソリューションフォーカス」の考え方や手法を積極的に活用し、多様な個性の人材活用とチーム力アップを図ります。

わお!SFそのものだ v(^  ^)

では、ここに至る道のりを簡単に紹介させてください。まず12年間にどんな研修を実施してきたのかですが、研修名と対象でいうと、「職場のチーム力アップ研修」(一般職向け&管理職向け)、「職場の笑顔と成果が増えるSFコミュニケーション研修」(係長)、「互いを認め、チーム力を高めるSF実践研修」(係長&グループリーダー)、「人事評価 面談力向上研修」(課長)、「自らが未来を切り拓くSF実践研修」(主任主事&主任技師)です。

SFでは、「プラスの眼鏡」を大切にして、「目指すこと(フューチャーパーフェクト)」、「リソース(既にある肯定要素)」そして「すぐにできる小さなこと(スモールステップ)」に焦点をあてた対話を重ねていけば、コミュニケーションが活性化して創造性と自発性が発揮されやすくなる・・・と謳っています。そういう意味で、一番印象に残っている研修は「自らが未来を切り拓くSF実践研修」です。多くの組織でのSF研修は、コミュニケーション手法というレベルでの思考法&スキル研修にとどまっていますが、この「自らが未来を切り拓く」は以前弊社主宰で開講していた「SF実践コース」の自治体バージョンと言えるもので、将来市政を担うであろう30才前後の若手が、SFを学んだ上で改善ないしは改革目標を定め、約4ヶ月のSF実践期間で成果を生み出し、5ヶ月目には市の幹部の前で発表するというものでした。特に多くの職員に聴かせたいと判断された成果内容は、HAP(廿日市アメージングプレゼンテーション)という市民会館の大ホールを使用した大きなイベントで発表されました。一地方自治体で若手対象にここまでの手厚い研修をやらせてもらえたことは奇跡に近いかもしれません。

この研修に関して特筆すべきことが2つあります。

一つは研修タイトルです。企画プロセスでは、人事課の研修担当グループリーダーと若手職員と話し合いを重ねました。この若手職員はこの研修の受講対象者でもありました。役所の研修タイトルは無難なものになりがちですが、話し合う中で講師からの提案を差し置いて、この一見物静かな若手が「自らが未来を切り拓く」という表現を入れたいと主張してくれたのです!まさにこの研修の肝の部分を言い表しています。研修が生き物であるなら、この瞬間に魂が吹き込まれた気がしました。まさに“自らが未来を切り拓く”でした。

もう一つはコロナ前の2019年のHAPでの成果発表の一つです。この研修では、各受講者がそれぞれの部署の置かれた状況に合わせて目標を掲げて、個性的で創造的なアイデアを活かしてSF実践をします。4カ月で完了する目標の場合もありますが、さらにその先のフューチャーパーフェクトを見据えて、研修期間中にその第一歩を前進させるという場合もあります。Yさんは、当時地方支所の職員でしたが、上司が大変忙しく本庁と支所を行き来することが多いためになかなか打合せの時間が取れずにいました。その支所は山奥にあり、本庁との往復に長い時間を費やす必要があり、上司はかなりの時間を移動に使っていて大変そうに見えたそうです。だったら、テレビ電話会議を使えば移動時間が減り、上司のストレスも部下の「上司待ち」時間も解消されると考え、当時流行り始めたZOOMでの会議を導入することを提案し、それによるコスト削減(主に移動時間や待ち時間)の効果を見事にプレゼンしました。しかし、当時はほとんどの自治体では機密漏洩などを恐れて、ZOOMは公式には使用不可となっていました。機密度が低い打合せ等でも、やはり問題になることを恐れてZOOM使用は認められませんでした。ただ、このYさんの発表には賛同者も多く、すぐに実行に移せないことが惜しまれました。ところが、翌年コロナ感染が蔓延し始めると、リモート会議の必要性が増し、あっという間に役所でもZOOM等のオンラインシステムが使用されるようになったことは皆さんご存じの通りです。Yさんに先見の明があったことが認められた形となりました!

順調であるかに見えたSF浸透も、コロナ禍のために2020~2021年は研修が企画されては延期そして中止となり、せっかくここまで積み上げてきたものはどうなるのだろうと心配し、落ち込みました。しかし、今年度になって研修が再開され始め、さらに今回の「人材育成基本方針」改訂版にソリューションフォーカスが盛り込まれるという連絡を受け取り、本当に嬉しくてSF伝道者としては世界が一瞬明るくなったような気がしました♪

ソリューションフォーカスを廿日市市に導入する最初のきっかけをつくり、人事評価面談はソリューションフォーカスの考え方でプラスのメッセージを先行させるという方針を策定するなど、SFを廿日市市に浸透させることに尽力し続けている職員Mさん(現部長)が2015年に作成した資料によると、全国の自治体職員が従わなければならない法令は1995からの20年で倍増したのに、職員数は全体で50万人削減され、より少ない人数でより多くの職務をこなす必要がある状況であるとのこと。そして、国からの権限移譲により、各自治体が置かれた状況に合わせた施策を自分たちで考え出す必要が増しているそうです。そういう客観的状況から必然的に、創造性と自発性の高まった職員が協力し合って課題解決に取り組むというまさに解決志向な組織像が求められているという認識をMさんは持っていて、それを周囲の方と共有する努力を惜しみません。Mさんは私の研修を人事課職員として担当されたことは一度もありませんが、それにも拘わらず歴代担当者がSF研修を大事にしてくれたことは、Mさんがまさに周囲の方々とSFコミュニケーションを交わしているからこそ生まれている「場の力」なんだろうと想像しています。

この新しい「人材育成基本方針」がただのお題目となるか、これがあるからこそという実のある拠り所となるかはまだこれから試されるところですが、私としてはできる限りの応援をさせてもらいたいと思っています。そして、これが他の自治体にも伝播していくような発信源になったら素晴らしいなと期待しています。

関連リンク:

◆廿日市市「人材育成基本方針」(令和4年9月改訂)

◆参考資料:全国市町村国際文化研修所(JIAM)機関誌 「国際文化研修」第76号 特集「組織風土のイノベーション~ソリューションフォーカスによるマネジメント」

SF伝道者の四方山話 No.13 青木安輝” に対して7件のコメントがあります。

  1. 柴田 篤 より:

    青木 様

    コメント失礼します。

    長年の研修の継続が、市の基本方針という重要な施策に反映されたとのこと、その偉業に心より祝福と敬意を送ります。

    廿日市市の市民には、市議をはじめ多くの友人知人がおり、彼ら彼女らにSFについて自慢できます。

    また許されるのであれば、隣県の県職員や、その県庁所在市職員にも、廿日市市のこの基本方針のことを、伝えてやりたいと思います。

    1. 青木安輝 より:

      柴田さん、こんにちは。いつもコメントありがとうございます!

      ご祝意を表明していただき大変うれしいです。また、柴田さんの地元でつながりをもってらっしゃる皆様に今回のニュースをお伝えいただけるとうかがい、ありがたく思いますと同時に「本当にこの方針通りにやっているのか?」とお叱りをうけないようにしっかり応援していきたいと身の引き締まる想いです。

      たまには柴田さんの生のお声を聴きたいなぁって思うので、ご都合よろしければ「SFブログ読者café」にもご参加くださいね。お待ちしてま~す。

  2. 豊村博明 より:

    青木先生

    この度はおめでとうございます!廿日市市の「人材育成基本方針」にはっきりと「ソリューションフォーカス」の文字が記述されているのを確認致しました!
    青木先生の12年間の努力がじわじわと大きな組織に浸透し、ついに動かしたって感じですね。役所と言えば、「それは前例がありませんので・・・・・」とか、「12時のお昼になると、ぱっと窓口のカーテンを閉めて13時まで休憩中」みたいな印象(これ知ってる人、古いですね。)があり、SFとは程遠い世界だと思ってましたが、それが全国の自治体で研修が取り入れられ、今回は研修受講という受け身ばかりではなくて、自分達からSFの効果を組織に浸透させていこうとする主体的な動きが始まったことが、何よりも意義深いものだと感じました。
    会社でも仲間同士の触れ合いや職場単位でのやりとりの中でSFの効果を感じ合いながら、「これってなかなかいいね。」と共有しあっていても、いざそれが上司や組織の幹部までその価値を認めてもらうまでには組織が大きければ大きい程、長い道のりが続きます。そこに向かっては相当な努力と根気が必要なことはもちろんのこと、組織の上に行けば行くほど「出来ていることよりも出来ていないことに焦点を当てて、それを部下に改善させる志向」が強くなっていくように感じてしまうのは私だけではないと思います。そしていつの間にか諦めちゃう。
    この度は12年間の青木先生との関りを通じて、廿日市市の組織に大きな影響力を持つ幹部(M 部長)の覚悟のようなものを感じます。
    リーダーシップとモチベーションに関しては実に多くの学者がたくさん理論を提唱して分厚い本も出版されていると思いますが、「理論はシンプルだけど、実践はartね。」のSFは、まさに真っ白なキャンバスに自分たちの絵を描いていくアーティストの集まりだと思います。青木さんからSFのバトンを受け継いだ彼らがこれからどんな絵を描いていくのか楽しみですね。
    青木さん、目を細めてらっしゃるでしょ。良く見えます(笑)
    豊村

    1. 青木安輝 より:

      豊村さん、嬉しいコメントありがとうございます!目を細めているのが見えちゃいましたか(笑) その通りです!

      同時に「これからどうすんだ!?オレは何ができるんだ?」っていう漠然とした不安も感じます。それと、基本方針にまで取り入れられながら、何も変わらないねとは言われたくないという・・・なんと言ったらよいか「前進するしかない!」みたいな気持ち(意地?)もありますね。ただ、前進するのは僕じゃなくて廿日市市役所の皆さんなので、そこのところのペース配分を間違っちゃいけないなと思います。

      いずれにしろ、他で前例がないことなわけだから、手探りでできることは何でも試してみて、良いものが残るようにお手伝いしたいと思います。豊村さんがおっしゃるように、現地のアーティストを信頼して期待したいと思います♪

  3. おっくん より:

    青木先生へ

     SFにとっても先生にとっても、まさに歴史的な瞬間ですね! 私もひとりのソリューショニストとして喜びと可能性を噛みしめています。本当におめでとうございます。また、最大の功労者であるMさんの喜びも計り知れないですね。どんな未来を見てらっしゃるのか伺ってみたいところです。

     コラムの中で私が「やはり、そうか!」と確信したところは、先生が一番印象に残っているとされた「自らが未来を切り拓くSF実践研修」の記述でした。実践コース5期の頃を思い帰せば、ひとり実践の舞台に立ちながらも先生や同期と過ごした貴重な経験は生命に刻まれていると言っても過言ではないからです。このような体験をされた職員さんがいればいるほど自然と活気に包まれた職場になると信じています。ひょっとしてそろそろ廿日市市役所に「ソリューションフォーカス推進課」なんてのができて、何人かの内部講師が育成されていたりしてるかもでね😊

     また、私の職場でもひとつの問題が発覚しているのですが、基本方針13ページの記述を読みながら、職場の一員として何かお手伝いできることがあるのではないかと勇気をもらうことができました。心のひだをツンツンしていただいてありがとうございます😭😊

    1. 青木安輝 より:

      おっくん、コメントありがとうございます。おっくんの心のひだには宝物がいっぱいありそうですね。いろいろなところをつっついてみたくなります(笑)。

      今は実践コースをやっていないので、僕もこの文章を書きながら実践コースをやっていた頃のことを思い出していました。直接利害関係のない人たちがサポートチームとして後ろに控えてくれてて、うまくいっても失敗しても、そこから学ぶことやこれからできることに意識を向けていくのを手伝ってくれる・・・あの環境は本当に良かったよねえ。あの場でおっくんの生命に刻まれたものが、今回も職場の問題に対応する際にきっと活かされることと思います。GOOD LUCK♪

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