SF伝道者の四方山話 N0.9 青木安輝

「宣言ノート」を思いついたお父さん

ある企業で実施しているソリューションフォーカスを活用したコミュニケーション環境改善プログラムのフォローアップ研修でのこと。まだ開始まで20分以上あるのに、一人の男性が研修室に入ってきた。持ち物を机の上に置くと、僕と視線が合い、こちらに向かって遠慮がちに歩いてきた。その表情から「何か相談ごとでもあるのかなあ」と想像していたら、「あのぉ、実はうちの息子が・・・」と、小学生のお子さんのことを話し始めた。1か月くらい前に学校で友人と色々あって不登校になってしまったのだそうだ。

僕の心の中では、「んんん、この短い時間で話をして、『どうしたら良いでしょうか?』と聞かれても的確な助言ができる自信はないなあ。まだ、研修の準備も残ってるしなあ・・・」と、先回りして考え始めていた。

学校で何があったかの状況説明をしようとしてくれたけど、長くなりそうなので、そこは軽く受け流して「それでどう対応しているんですか?」と尋ねてみたところ、彼の目がキラッと輝きを増したような気がした。「いやあ、実はですねえ、いろいろ考えて『宣言ノート』というのを書いてもらうようにしたんですよ。」という話しになったら、声の勢いとトーンが上がってきた。

「えっ、『宣言』?何か大変な目標を掲げなきゃいけないようなプレッシャーをかけてるのかな・・・」と心配な気持ちが湧いたが、話を聴いてみると、それ専用のノートをつくって、毎日「今日は~をする」と、その日にやるであろう簡単なことを書きだすということだった。高い目標ではなくて、「歯を磨く」とか「家族にあいさつする」とか、そんな日常的な普通の行動。そして、1日の終わりにお父さんがチェックして「これはできたね!」「これもできたね!」と確認してあげているとのこと。

「毎日ですか?」
「はい、毎日です!」

「いくつくらい宣言を書くんですか?」
「それがですね。最初は3つ4つくらいしか書けなかったんですよ。それがなんと、今では80個くらい書くんです!」(ここで一段と声のトーンが上がった!)

「ホントに!?それってめっちゃすごくないですか!!で、今は息子さんは?」
「なので、やっと少しづつ学校に行けるようになってきたんですよ。最初は1時間だけだったのが、最近やっと半日は行けるようになってきました。」(満面笑顔)

「その『宣言ノート』っていう手法はどこかで教わったんですか?」
「いえ、自分で考えたんですけど、こんなやり方で良かったんですかね・・・?」(表情曇る)

「それってサイコーじゃないですか!!だって、息子さん学校に行き始めたんでしょ?」
「そうなんですよ!(笑顔戻る)いやあ、この研修を受けていて本当に良かったです!」

ここで僕はビックリした。だって、彼の説明の中でSF用語は一回も出てこなかったから。

「えっ、ソリューションフォーカスを応用したってことなんですか?」
「あ、その、えーと、応用できたかよくわからないんですけど・・・、こんなことになってしまってどうしたら良いかまったくわからなかったところで、この研修のことを思い出したんですよ。自分はこんなに楽観的な人間なのに、息子は繊細で私と違う性格で・・・。最初は『なんとか頑張れ』みたいなプレッシャーをかけるようなことを言いそうにもなったんですけど、それじゃダメそうだなと思った時にこの研修でやったことが役に立つのかもしれないって思えたんですね。で、研修のテキストを見返したりしながら、どういうわけか『宣言ノート』が思いついてしまったんです。でも最初の頃はですね、こんなことやって意味あるかなぁとまったく自信がなかったんです。ただ、だんだんウチの子が書く内容が増えていったので、もしかしたら息子にとっては良いことなのかなと思うようになりました。最近では少しチャレンジングなことも書くようになりましたしね。」(落ち着いた笑顔♪)

この話を聴かせてもらってとても嬉しい気持ちになった。SF用語は出てこなかったけど、彼が自分の言葉で”SF要素”満載な話しをしてくれたから。彼から聴いた話しをまとめてみるとこうなる。

不登校が始まったとき、不意打ちをくらった感じでまったくどうして良いかわからなかったけど、自分の思い通りに息子を変えようとするのは無理だとわかった。では、本人に可能なことは何かと考えた。あらためて現状を見てみると、たしかに学校には行けてないけど、家にいる限りでは日常生活のことは”できて”いる。だったらそこからスタートだと考えた。できていないことではなく、できていること。そして、それを未来の解決につなげる。「そうだ、未来に向けて『宣言』するのはどうだろう。そして、できたら一緒に喜んであげよう!」

しかし、最初のうちはどんな小さなことでもいいからと促してもなかなか書けなかったらしい。だけど、代わりに考えてしまうのではなく、本人ができると思えることが出てくるまで根気よく待つようにしたとのこと。リモートワークで家にいる時間が長かったことも良かったらしい。「今すぐに」と焦らずに、「今ダメならもう少し後で」と、好きな時に接触時間が持てる状況であることが幸いしたとのこと。

80個も書けるようになると、もうこれはお父さんの想定以上のことだったらしく、お父さんの口ぶりから、本人もお父さんも胸を張れている様子が伝わってきた。口先のOKメッセージではなく、「お前すごいな!」という気持ちが雰囲気だけで伝わっているのだろうと想像できる。

僕が最初に「宣言ノート」という名前を聴いた瞬間は、それはプレッシャーだろうと心配する気持ちになったけど、ごくごく小さなステップにも「宣言→達成完了(OK!)」というサイクルをつくることで、宣言の内容がどんどん高度になっていったという話を聴いて、これって本人に誇りを持たせたであろう絶妙なネーミングだったと思う。

僕がこの話を聴いて感動したポイントは、この男性が半年以上前に3時間のSF研修を2回受けただけなのに、その根本にある考え方を汲み取って応用し、突然ふりかかってきた困難な状況に適合したやり方を自分なりに編み出したという点だ。スキルレベルではなく、SFの本質とは何かというレベルで考えたことだから、SF用語はまったく無視されてる(笑)。だけど本人は「この研修ってどういうことをやったんだっけ」と真剣に振り返った結果なのだ!

今までSF伝道を続けてきて、多くの方々に色々なSF活用好事例をレポートしてもらってきたけど、振り返ってみると、うまくやれたことっていつも本人は自分の言葉で話してるなあと思う。ただ、SFの事例発表会だからという理由で、時にはSF用語を後づけであてはめてもらうようにした時もあった。でも、あらためて思う。理論や用語っていうのは入口にしかすぎない。研修とかセミナーで教えるSFっていうのは、ある意味、「自分の可能性」への入り口なんだね。だからそれを発揮したときは、自分の言葉で語るのがいい!

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SF伝道者の四方山話 N0.9 青木安輝” に対して13件のコメントがあります。

  1. 深山敏郎 より:

    おはようございます。早速、今日の宣言を書いて付箋でテーブルに貼りました。感謝します。

    1. 青木安輝 より:

      深山さん、さすが速行動ですね!
      v(^ ^)

  2. 本間俊介 より:

    不登校になった息子さんを持つお父さん、他人事だと思っていたことが、突然やってきて、やりきれない心情がつたわってきました。
    「最初は『なんとか頑張れ』みたいなプレッシャーをかけるようなことを言いそうにもなったんですけど、それじゃダメそうだなと思った時にこの研修でやったことが役に立つのかもしれないって思えた」について、他人と比較するのではなく、絶対評価で息子の良さを見つけようとする努力をされたこと。プラスの虫眼鏡がどこからか来ました。
    「本人ができると思えることが出てくるまで根気よく待つようにしたとのこと。」、これは息子を信じて、(結局信じるしかないのですが)OKメッセージを出し続けたことであり、黙って寄り添うこともOKメッセージと思います。分かっていてもなかなか出来ない事とおもいました。この2点は今後も続くとおもいますが、このお父さんは、というかだれでもSFの種火を元々持っているのだなあと改めて思いました。この息子さんはこのことで素晴らしいお父さんを見つけることも出来たように思います。

    1. 青木安輝 より:

      本間さん、コメントありがとうございます。
      後日談ですが、このお父さんがこのブログを読んでくれて息子さんの近況を教えてくれました。1時間登校から始まったのが、2時間、3時間と増えていって、3月の終業式には登校から帰宅まで友達と一緒に居ることができたそうです。めでたし!
      そしてこのお父さんは、「何が問題か」よりも「何ができてる?何がよかった?次どうしたい?」という問いかけが大事だということを心底実感したので、これから会社でも家庭でもそれを大事にしたいとのことでした。
      息子さんが”素晴らしいお父さん”を見つけることができた(はず)というのは僕もまったく同感です!
      ある意味、本当にいいタイミングでSF研修があったんですねえ。

  3. おっくん より:

    青木先生へ

    【青木先生〜ッ、聞いてください!!】

     自信なさげに話し始めたその方でしたが、青木先生の表情が納得と感動へと変化するにつれて、男性の心にも霧が晴れてくるように少しづつ確信が生まれてくる様子が私の胸中にもそのまま伝わってきます。
     聞いてもらえる安心感って本当に大事なんですね。
     研修開始直前で忙しいのはその方も承知のはずなんだろうけど、もう足がどうしても先生の前に歩み出てしまうのを止められなかった。「今を逃せばこの事を伝える事が出来ないのではないだろうか。先生、ごめんなさい」と。
     研修の隣の人ではなく、青木先生に聞いてほしいのもすごくよくわかります。信頼する講師ならわかってもらえるに違いない、必ず答えていただけると。

     そして青木先生は、その思いをものの見事に受け止められていらっしゃいます。いかにも先生ご自身の身の上に起こった出来事であるかのように、共に喜びながら最大限のOKメッセージを贈られたのではないでしょうか。

     これぞ、SF伝道師の本当のお姿なのではないかと心を震わせております。
    一緒にその方の息子さんの成長を祈らずにはおられません。

    1. 青木安輝 より:

      おっくん、ありがとうございます!!
      そういう視点で見てもらえるとメチャ嬉しいです(^^)

      講師とか教師っていう役割が持つ意味の一つは、「できたよ!」っていう誇らしい気持ちを受けとめたり、「これでいいの?」っていう疑問に「それでいいのだ!」とOKをあげることなんだろうと思います。そういう生徒がいてくれることは先生冥利ですね!

  4. 本間俊介 より:

    追伸 
    今後の親子の関わりを勝手に想像しました。「宣言ノート」が日記や「ハピネスダイヤリー」のようなもののやりとりになったり、自然に必要なくなるでしょう。また周囲の方は「お父さん、こんなに仲良く楽しそうにしている親子をみたことがありません。どう育てたのでしょう」と聞きます。この親子は「別に普通です」と答えます。・・・SFインサイド化していきます。
     お父さんはこの研修の中で絶対的なものさしを感じ受け取ったのでしょうね。
     それにしても、今回のブログを通して、渡辺さんのブログに投稿したことですが、うまくいかないと思ったとき程、SFは強力な威力を発揮し、不満足度をメンテするのではなく、満足度を上げるとつくづくおもいました。偏った考えですが。何度も投稿失礼。

    1. 青木安輝 より:

      楽しい想像ですね♪ 機会があったら、この予想の的中度を尋ねてみますよ(笑)。

  5. おっくん より:

    青木先生へ

     私も何度もすいません。
     この記事を読んでもうひとつ思う事があります。それは、「技と知恵」についてです。

     私は今までSFを実践し成果を出すためには、周りの環境に例えば電磁波を与え分子を躍動させるためのエネルギーや技(本質的に身についているものを除く)は不可欠であり、技は蓄積され磨いていくものと思っていました。今でも決して間違いでは無いと思っています。
     しかし、技というものはともすれば「○○をすれば□□が生まれる」という方程式のような考え方に執着し、或いは有頂天になってしまう可能性もあるのではないかと自分自身を振り返っていました。

     記事に出てくる男性の場合、一見SF歴は浅いように見えますが、その置かれている立場が私の普段経験できないような「崖っぷち状態」にあることにより「技の力を越える知恵が生まれた」のではないでしょうか。まさに青木先生が「その『宣言ノート』っていう手法はどこかで教わったんですか?」と問いかけられたこと自体、そのことを裏付けているようにも思います。
     これまでのブログの流れで言うと知恵は愛情とも訳せるかもしれませんね。

     最後に技と知恵はどちらも大事ですが、この男性の息子さんを思いやる心に勝るものはないですね。とても大切なものを教えていただいたように思います。ありがとうございました。

    1. 青木安輝 より:

      僕もこのお父さんの話しを聴いた時に一番印象に残ったのは、息子さんを思いやる心情でした。それがエネルギー源になって、「SF研修でやったこと」の記憶とその解釈から知恵が生まれたみたいですね。ただ、最初はそんなに息子さんの変化が目に見えるほどではなかったみたいで、ずいぶんと「こんなんでいいんだろうか?」と迷われたみたいです。その時に、それでもやり続けることができたのは何があったからなんだろう・・・と、今度尋ねてみたいです。

      1. おっくん より:

        なるほど、是非お聞きしたいですね。
        SNSや伝言でも、文字の持つ力って意外と強いのかもしれませんね。
        青木さんのおっしゃるように文字にすると頭の中を整理できるのも実感してます。

  6. シオタリョウコ より:

    今回のお話、感動しています。
    何に感動したかと言いますと…そのお父様の感性と、青木先生の感性の共鳴です。
    同じ言葉を聞いたり講義を受けても、受け手次第でその「言葉」はいかようにも変化することを感じました。
    SFの本質を(本人もはっきりと気づいていないけど)魂レベルで受け取って、息子さんの時に直感で使った。本質が「愛」だから息子さんにも変化が生まれた。ということじゃないかなぁ~と、またまた書きながら感動しています。

    それはまず、青木先生の本質が「愛」なんですよね。
    しっかり、私も受け取っています。(つもり:笑)

    1. 青木安輝 より:

      わお!そう言いたいけど、言ってしまうと、「愛」とは何かって小難しい話が始まってしまいそうだったり、気恥ずかしくなるので、なるべく使わないようにしてるんですよね、愛という言葉は(赤面)。でも塩田さんがそう思ってくれたのはめっちゃ嬉しいです♪

      以前ある企業の経営者の方がSFを学んで、「要するにSFって人間愛のことですよね」とおっしゃったことがあります。個人的な好き嫌いレベルの話しじゃなくて、大きな意味で人を大切にする・・・そんなニュアンスが素敵だなと思いました。

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