「共鳴と増幅」はJ-SOL5(第五回ソリューションフォーカス活用事例共有大会)の大会テーマとして掲げたフレーズです。このエッセイは大会資料に掲載された文章を「SF実践者ブログ」関連の資料として加筆修正したものです。

「共鳴」と「増幅」

人が友好関係、協働関係を築く時にコミュニケーションの中でしていることは「共鳴」と「増幅」という概念で表せると言えます。人は響き合えると感じる人やモノや情報に自然と惹きつけられ、その上で「良い」「気持ちいい」「正しい」「面白い」等と感じることをさらに増幅し合って、お互いが持つ潜在可能性を実現していきます。SFコミュニケーションは「相手を尊重する姿勢」があることで、お互いの間に「この人とコミュニケーションを交わすことで『快』の方向に向かうことができそうだ」というプラスの期待を生み出します。

そして「共鳴」し合える相手であるという感覚を共有できたら、対話の中で出てくる様々な内容の中で何を「増幅」するかを注意深く選択していきます。第五回SF活用事例共有大会(J-SOL5)では、私たちが普段意識的にも無意識的にもしているコミュニケーションの中での「共鳴と増幅」をテーマにして振り返ることで、よりシャープな感受性で肯定的な対話の流れを創り出すソリューショニストとしての技が磨かれる場となりました。

SFの創始者スティーブ・ディシェーザーの面談をマイクロ分析したジャネット・バベラス博士の非常に興味深い研究があります。バベラス博士はスティーブが面談中に発する”Mmm, huh”というあいづちをその機能に応じて分類しました。日本語表記にすると、「ンーフン」となるでしょうか。例えば:

A.「聞いてますよ」という意味で、抑揚を比較的抑えて傾聴していることを伝えるもの。
B.「それ、いいね!」と言わんばかりの少しピッチを上げたトーン。
C. 否定的なことをスルーしているように聞こえる短い “Mmmh”(フム)。

Aの抑え目の言い方は、とりあえずお互いの「共鳴」関係を維持するためのもの。Bのハイピッチの言い方はその話題が向かう方向に「増幅」するためのもの。スルー用の短い声は、共鳴しないためのものと言えます。Cの「選択的に共鳴しない」って技も大事ですね。相手の否定的な表現に対して、無視はしないけどプロブレムトークとして増幅されないように微妙なレベルのあいづちを打つ。こういうのは優秀なSF実践家に共通している技のような気がします。インスーは「それは重要なことね。だけど後でまた『そこ』に戻りましょう」と伝えてプロブレムを迂回し、先にリソーストーク(良いことについて話す)をするのが得意でした。そしてソリューショントークに移行した後では、もう「そこ」に戻る必要がなくなっているのです(笑)。

スティーブのあいづちはそういうナビゲート効果があったわけですね。彼はインスーに比べると非常に無愛想なイメージですが、インスーが”Wow!”(「わお!」)と大きな笑顔でしていたことを、”Mmm, huh”という小さな反応でしていたと言うこともできます。質問をして、後はクライアントの言うことに対して短い共鳴的反応と増幅的反応、場合によっては共鳴しない反応を繰り返すというシンプルな技を名人芸として磨いたと言えます。

共鳴と増幅についてこういうマイクロ・コミュニケーションレベルでとらえることもできますが、価値観とか生き方のように抽象度の高いレベルでの共鳴増幅もありますね。私たちは着ている服や、場におかれた時の振る舞い、発言する際に選ぶ言葉、その他さまざまなチャンネルで自分を表現しています。当然それはある種のバイブレーションとしてお互いに感知し合っており、一緒にいるだけで共鳴と増幅が起こったり、逆に共鳴せず固まってしまったり不協和音を発してしまう場合もあるでしょう。しかし、人間同士は完璧に100%の共鳴もその逆の100%の不共鳴もない(そう感じることはありますが・笑)ので、響き合わない部分を問題にするよりは、響き合う部分に焦点をあてるというSF視点を大事にすることで、協働の糸口が見つかってくるはずです。そして共鳴し始めると、さらに共鳴できるところ、増幅し合えるところが見つかってくる可能性があります。

ソリューションフォーカスのセミナー等に参加される皆さんは、どこかでSFのことを知って、自分の中の何かが共鳴するのを感じて参加されるわけですから、学びの場で出会う人々と響き合う部分が必ずあるでしょうし、自分が求めているものがかなり心地よく増幅されるのを感じることができるでしょう。また考え方や価値観が一致しない場合でも、うまく共鳴できるところを探し、増幅する価値があると思われるところに焦点をあてるスキルを使おうとすることが、ソリューショニストとして自分を洗練するために役立つでしょう。このスキルは益々多様性を増す社会の中で生きる上で非常に重要で、SFを活用する中で磨かれる技術であると言えます。

私はインスー先生やマカーゴウ博士に接し、彼らの本を読み、共鳴する部分がとても多かったですが、それらをそのまま翻訳している部分もあれば、特に響き合う部分を自分なりに増幅したところや、以前に学んだことでSFと響き合うことをブレンドした部分も一緒にまとめて、「ソリューションフォーカス(SF)」という名前で普及させようとしてきました。なので、私が伝えていることはあくまでも青木安輝という共鳴板に反響した音です。これは私だけが特に変異したということではなく、欧州SOL Worldに集ってきたソリューショニストたちを見てもそう思えました。有名曲を別のミュージシャンがカバー演奏すると独自の曲になるあの感覚です。スティーブが「役に立つ誤解(useful misunderstanding)」という言葉を残してくれましたが、誰もがそれをしていると言えます。自分なりの“誤解”が役に立つ範囲を広めるためには、時々他の人の「役に立つ誤解」に接してみることが必要です。なので、SFのセミナーやこのブログを通じたコミュニティーに参加することで、”SF”という共通語を使って共鳴できる快適基盤に一緒に乗りながらも、多様な人々が自分とは違う共鳴音を発しているのを聞き分け、その中から自分の中で新たに響き合わせることができるものを探すことは大変意義のあることです。

SFセミナーやSF実践者ブログの世界の中に自分自身を置いてみたら、何に対して共鳴していくか、そして何を増幅したくなるか、そして自分はそれをどのように表現するのか、また全体として発する共鳴音はどのようなものになるのか、そんなことを考えるだけでワクワクしてきませんか?あなたが発する響きがどのような共鳴と増幅を引き起こしていくか、ぜひ体験してください!

青木安輝