「一人一SF」はJ-SOL8(第八回ソリューションフォーカス活用事例共有大会)の大会テーマとして掲げたフレーズです。このエッセイは大会資料に掲載された文章を「SF実践者ブログ」関連の資料として加筆修正したものです。

一人一SF

第8回目となったSF活用事例共有大会のテーマは「一人一SF」(ひとり・いちえすえふ)でした。J-SOL6のテーマとして掲げた「ルーツと多様性」にも通じます。「ソリューションフォーカス」・・・と、同じ言葉を使っていても、自分が思うSFと他の人が思うSFでは微妙に違うところがあると感じることがよくあります。しかし、どちらかが正しくてどちらかが間違っているというとらえ方をせずに、それぞれの個性から必然的に生まれたその違いから重要なことを学ぼうとする姿勢を大事にしたいと思います。

私にとって今まで学んだ様々なコミュニケーション手法の中でソリューションフォーカスは最もしっくりくるものでした。しかし、日本語に翻訳しようとする過程で「コンプリメント」という用語がどうもしっくりこないので、あえて「OKメッセージ」という造語をつくって非言語も含むより大きな範囲の肯定サインを意味するように意図しました。例えてみれば、買った靴のデザインは気にいったけど、どうしても足になじまないので、器具を使って部分的に変形させたようなものです。もし、それだと靴が台無しだと言われていたら、今頃職業を変えていたはずですが、幸いその靴は似合うねと言われ、自分も履きたいと言ってくれる人が増えたのでホッとしています(笑)。

物質科学においては、例えばある物質の精製法は作る人によって違って良いということはあり得ないし、そのマニュアル通りにすれば誰がやっても必ず同じものができます。それは使う素材が一定の性質を持つようにそろえることができるからです。しかし、コミュニケーションを交わす最小単位である個々の人間の個性は大いなるバラつきがあります。その人間同士のコミュニケーションにおいてお互いが前向きになろうとする時に、その当事者の個性を無視して一律の固定的なやり方をおしつければ無理があります。そのやり方をつくった人間と似た人にだけ有効となる狭い範囲の効果しかもたらさないでしょう。

またソリューションフォーカス(SF)の源流であるSFA(解決志向アプローチ)は、もともとカウンセリングという定型的な場面(1対1で支援者と被支援者という役割定義が明確な二者が1時間程度の会話をする)で有効でした。それを、非定型かつ多様なビジネス文脈で応用しようとするのがソリューションフォーカスですから、当事者の個性だけでなくその場面特有の条件に合ったソリューションフォーカスに調整する必要があります(なんと「体育会系SF」という活用事例を発表してくださった管理職の方もいます!)。その調整の技を「SFアート」、その実践者を「SFアーティスト」と私たちは呼んでいます。

「一人一SF」をテーマにしたJ-SOL8においては、SFアーティストおよびSFアーティスト志望者の皆さんに集まっていただき、楽しく自分流のソリューションフォーカス観や実際の技を共有していただきました。アーティストとか技とか言われるとテレてしまうという方も多かったかもしれません。むしろ無我夢中で何とか目的を達成しようとした結果が独特に見えるだけ、という場合が多いかもしれませんね。しかし、まさにそんな現実との格闘の中から生まれた個性的ソリューションフォーカスを共有していただくことがこの大会の目的でした。

どんなソリューションフォーカスが“正しい”かではなく、色々な活用法があり、それを色々な説明スタイルで伝える人がいるだけだと捉え、その多様性に触れた結果自分の中に湧き上がってくるものが、自分にとってもっとも有効な「私流のソリューションフォーカス」なのでしょう。表現が違っていても、響き合うことや、その中の有効な部分を増幅し合うことは可能です。これからも多くの“SFアーティスト”に参加していただき、賑やかで楽しく学び合いができるSF学習の場を創っていきたいと思います。

青木安輝