アプリシエートは「自分語りを聴き合う」場です。そして数名の参加者がいるということは、基本的に「聴く」時間の方が長くなります。聴く側がどのような姿勢でいるかによって、語り手が安心して語る意欲を増すこともあれば、その逆もあります。つまりアプリシエートの質は、参加者同士がどれだけ「話しやすい環境を提供し合う」ことができるかに左右されることになります。
そこで、聴き手の側になる場合に以下のガイドラインに沿った聴き方をお願いしたいと思います。
1.語り手を「プラスの眼鏡」で観る:
目の前で話をしている人に関しては「良いところ」を優先的に見ると決めてください。「欠点を見つけて改善する」という視点は、必要と思えば自分に向けるのはかまいませんが、この場では人に対しては基本的に「良いところを見る」ことにしたいと思います。
自分の良いところを見ようとしてくれる目線を感じることは、大いなる安心感につながります。アプリシエートでは、その安心感の中で誰もが自分のことを話したいだけ話せると思える環境づくりを目指します。
どのような人に見えたとしても、「この人はこの人なりに一生懸命良く生きようとしている人だ」と前提しましょう。自分の良いところだけが映る鏡に囲まれているところを想像してみてください・・・。そういう鏡になってあげると思ってください。
2.理解できないことがあって良い:
聴き手が語り手をすべて理解することは目的ではありません。語り手のアウエアネス(気づき)は、普段語ることがなかったことを語ることができた時に本人の内側から湧き出ると考えます。聴き手が「気づかせてあげる」必要はありません。わからないところはわからないままでかまわないので、聴き手側の興味で一部分だけを掘り下げようとすることはしません。受けとめる(「この人は~と思っている」)ことができたらそれで十分なので、その先が語れるように関心を向け続けてあげてください。
3.肯定的なフィードバックをする:
語りを聴いた後で、聴き手から思ったことを伝える時間があります。その際は「プラスの眼鏡」で見えたものを伝えてください。聴いた話の内容が成功体験の類であれば、自然と賞賛メッセージを伝えられますが、内容が苦労話や失敗体験の類であっても、その中から見えてくる語り手の力強いところ、にじみ出てくる人柄の良さなどを見つけて、それを伝えましょう。聴きながら「学んだと思えること」「インスパイアされたこと」など、自分の側に起きたプラスのことを伝えるのも良いですね。
語り手が「ここでは何を話したとしても、自分の良いところを見てもらえる!」と安心し切ることができたときに、日常生活では話したことがないところまで語りが進む可能性があります。
信条や好みが極端に自分とは違う人だと思った場合には、その違いや違和感の方にまずは意識を奪われるかもしれませんが、深呼吸をして「この人らしさが良い方に働く時はどんな場合だろう?」などと「プラスの眼鏡」をかけ直してください。その人の親や友達になったつもりで見る等の視点転換が役に立つかもしれません。
4.語り手の素晴らしいところに関して詳しく聞く質問をする:
3の「肯定的なフィードバック」に加えて、聴き手からは「肯定質問」ができます。
肯定質問とは、語られた内容に関して、語り手の素晴らしいところを聞き出すための質問です。例えば、何かをうまくやり遂げた話しであれば、「どんなところがもっとも工夫を凝らしたところですか?」「難しいところはどうやって乗り越えましたか?」「そのアイデアはどうやって思いついたのですか?」などです。あるいは「それがうまくできたことによって、その後どんな良い影響がありましたか?」などと、良い点をさらに拡げていく質問もいいですね。大変な苦労話であれば、「どうやってそこで踏みとどまることができたのですか?」「そんな中でも頼りになったことは何ですか?」「その苦労をされたことで、それが自分に良い変化をもたらしたことは何かありますか?」などと尋ねることができます。
5.相手を変えようとしない(勝手に教えたり、導こうとしない):
休憩中やフリータイムの会話の中では何を話そうが自由ですが、セッションの中では「あなたは~した方がもっと良くなれる」的な助言や忠告はしないようにしてください。
但し、語り手が「どう思うか率直な意見を言ってください」とか「何かアドバイスしてください」とリクエストした場合には、どうぞそれに応えてあげてください。
6.語り手には必要なことが起こっている:
例えば、語り手の中にある種の感情がこみあげてきて激しく涙を流すかもしれません。でも「泣かなくていいよ」等と言う必要はありません。それは必要なことかもしれないので、自然に収まるまで一緒にそこに居て待ってあげてください。あるいは、語りの途中で何等かの理由で黙ってしまうこともあるかもしれません。これもその沈黙の間に語り手の中で何か必要なことが起こっている現れと考えて、無理やり質問等をして「引き出してあげよう」等と考えなくて良いのです。一緒にその沈黙の間を体験してください。
7.聴き方のリクエストがあれば、可能な範囲で応えてあげましょう:
「語り手」は必要であれば、語り始める前に聴き手にどのような聴き方をして欲しいかをリクエストできることにします。なるべく沢山相づちを打って欲しいとか、逆にあまり反応を見せずに静かに聴いて欲しい等です。もし、そのようなリクエストがあれば、可能な範囲でそれに応えてください。
8.語り手に集中しながらも自分のことを振り返る連想は止めなくてよい:
語り手が話すことに刺激されて、聴きながら自分のことを思い返す連想が働くのは普通のことです。「自分の場合は~だったなあ」などと思い出したことにも意味があると思ってよいのです。語り手の「良いところ」を見つけるという作業のスイッチは入れたままにしながらも、「100%聴くことに集中!」などとあまり固く構えずに、自分の内側で起こることの方にも少し意識を向けてみてください。但し、自分の連想の方に両足をつっこむのではなく、必ず片足は目の前の人のストーリーの側に残しておいてください。
以上のことは、読んで納得できたら、多分実際にその通りにできることだと思います。もし意味がわからないとか、確認したいことがあればご遠慮なく事前にご連絡ください。そしてガイドラインに関して納得した上でご参加ください。
このガイドラインで「聴き合う」ことができると、「認め合い、学び合い、応援し合う」という場ができるはずです。そんな中で「自分語りを聴き合う」ことを楽しみましょう。