「あるもの」をつなぐ No.36 シンイチロウ
気持ちでつくる協力関係で可能性をひらこう!
期待と戸惑いの全社プロジェクト始動
ある日、A部門のアライさんからぼくのチームに全社プロジェクト参画の要請がきた。そのプロジェクトがうまくいけば、制作の仕事が効率化され、関係者の作業時間も大幅に減るというのだ。話だけ聞けば、かなり魅力的な話だ。でも、問題は山ほどあった。A部門から出てきた企画書には不備が多く、本当に効率化につながるのか、まったく見通しが立たなかったのだ。
しかも、A部門のアライさんは、かつてぼくの上司で、強い口調でグイグイ押してくるタイプ。メンバーも「あの人だけは嫌い!」と反発が強かった。実際、この3週間、話し合いを続けても、ちっとも前に進まなかった。
メンバーたちの率直な声と不安
でも、9月からの実施予定が決まっていて、そろそろ実行に移さないといけないタイミングだ。ぼくとしては、企画そのものの筋は悪くないと思っていた。だから、工程や計画を見直せば何とかなるかもしれない、と考えていた。
そんな状況で、ぼくはメンバーを集めて話し合うことにした。「とにかく進めたい」と率直に伝えると、メンバーたちは次々と不安を吐き出した。
「こんな企画、成立しませんよ!責任だけ押し付けられるのはごめんです!」
「あの人、いつも私たちに丸投げしてくるし、まともに受けたらすごく大変ですよ!」
「無理にやらなくてもいいじゃん、今まで通りでいきましょうよ!」
チュウさんの必死の訴えと気づき
うーん……参ったな。全社プロジェクトとして社内承認が済んでいるから進めないわけにはいかないけれど、メンバーの不安ももっともだ。実施すれば、トラブルは間違いなく起こりそうだ。特に、現場リーダーのチュウさんは必死だった。もし失敗すれば、一番迷惑を被るのは彼女だ。
「シンイチロウさん、よく考えてください!今までのやり方よりも関係者の手間が増えてますよ!こんなの効率化にならないですよ!関係部署に協力してって言えませんよ!しかも、もうスタートしなきゃ納期が間に合わないんですよ!」と訴えてきた。
この熱量は、効率化の取り組みをやりたくないとか、自分が楽をしたいとか、そういう私情からくるものじゃない。心から成果や組織で働く人たちのためを思うからこそ、出てくる言葉に感じた。
対話を避けていた自分に気づく
チュウさんの言い分は本当にもっともだ。その熱量は凝り固まったぼくの考えを溶かしていった。すると、自分がこれまで見て見ぬふりをしていた「めんどくささ」が頭をもたげてきた。
A部門のアライさんと意見を交わすと、必ず面倒な課題が増える。ゴチャゴチャ言ってきて気分が悪くなる。おまけに、アライさんとメンバーの意見の齟齬が、もっと面倒な関わりに発展する。仕事が進みにくくなるのは目に見えている。
それが嫌で、ぼくは対話を避け、自分都合で物事を進めようとしていたんだ。相手の気持ちを大事にする姿勢なんてどこにもなかった。そんなマネージャーに部下は自らの大切な時間と労力を費やしてくれるだろうか?
自分への問いと決意
自分はこれでいいんだっけ?自分都合で進めて、自分が嫌な想いをしないようにすることが、後味の良い関わりになっていくのかな。いや、違う。
自分が一番わかっている。間違いなく、このまま進めたら自分の人生にとって後味の悪い一コマになる。過去に何度も経験している。自分らしい人生、自分らしいマネジメントになるわけがない。そうだ、ぼくはこういう瞬間、自分の人生を満足させてくれる選択をしたいんだ。それは、お互いの大切を大切にすることだ。
このプロジェクトの「目的」や「相手志向」に立ち返った。「話し合いがまとまらなくてもいい。お互いの胸の内を話しあうことでゴツゴツとぶつかり合いながらも、少しずつわかりあって、前向きな取り組みになればいい。」そう思ったら、ちょっとだけチカラが湧いてきた。これが自分の道なんだ。
率直な話し合いとチームの団結
ぼくはチュウさんにこう伝えた。
「わかった。すぐにA部門のアライさんとも話し合おう。みんなで課題を出し合って、どう進めるか決めよう。」
そして迎えたリモート会議当日。画面越しにピリピリした空気が漂う。アライさんが強引に話をリードしようとするのを制して、ぼくはメンバーから出た課題をまとめた資料を示しながら言った。
「効率化には賛成です。ただ、まだこれだけ課題があって解決の見通しがたっていません。しっかり準備を整えてから進めたいです。」
アライさんは「いやいや、やりながら修正すればいいだろ!」と押してくるが、メンバーたちも負けずに「今のままではリスクが大き過ぎる」としっかり意見を言ってくれた。その姿が頼もしかった。
議論が白熱する中で、チュウさんが「この企画は仕組みが大きく変わるので、全社でコンセンサスを取らないと進められません」と指摘した。するとアライさんは一瞬戸惑い、ちょっと語気を強めてこう言った。
「最初は◯◯コードの追加だけで十分効率化できると思ってたんだ。でもお前らが『途中で削除工程が面倒』って言ったから別の企画を考えたんだよ!」
その言葉を聞いてハッとした。アライさんは彼なりに、ぼくらの意見を受け止めてくれていたんだ。
ぼくは即座に提案した。「それなら、◯◯コード追加だけでやりませんか?それならすぐに取りかかれるし、全社コンセンサスも必要ないですよ。」
「おう!お前らがいいなら、それで進めたいよ!(うれしそう)」
メンバーも「それなら今期からスタートできます!」と笑顔を見せてくれた。こうして、部門を超えた協力関係が芽生え、プロジェクトが前に進むことになった。
新しい選択肢としなやかなマネジメント
ミーティングが終わった後、チュウさんから「素晴らしいミーティングでした!ありがとうございます」とチャットが届いた。ぼくも「みんなの発言がすごく頼もしかったよ。ありがとう!」と返した。
ときに課題解決をむずかしくしているのは、なんなのだろう。違う会社どうし、違う組織どうし、目標や役割が違う人どうしが一緒に仕事をするとき、役割意識は強くなる。そして課題解決のむずかしさは一層顕著になる。
それでも、一緒に仕事をするメンバーが協力しあうには何が必要なのだろう。たしかに共通の目的、目標は必要だ。でも総論賛成、各論反対で現場でもめることもしばしばだ。
組織人はみんな役割を全うしようと必死だ。一方で役割を振りかざし過ぎると、どこかに無理が生じ、後味の悪い結果となることも多い。
でも、そこに人として思うこと、感じていることを持ち込むことで、関係者どうしに役割とは違った架け橋をかけることができる。お互いの気持ちをちゃんと対話の俎上にあげることで、「役割」という仮面の下に人としての体温を感じてくる。そうやって、ぼくらの思考は、やわらかく、しなやかになっていく気がする。
そのとき、新しい選択肢が見えてくるんじゃないか。それは決して妥協案ではない。関係者の共感性が高いからこそ生まれる、現実的で、実現性の高い、新しい選択肢なのだ。
アタマだけで考えた気持ちの乗らないマネジメントはむなしい。ぼくが目指すマネジメントは、この「しなやかで地に足のついたマネジメント」なんだ。このマネジメントは、ぼくらのチームの可能性をもっともっと開いてくれるはずだ。
今のメンバーと一緒にいられる時間は有限。だからこそ大切な時間であって欲しい。これからもたくさんの成果と満足を一緒に味わっていきたいと思う。
シンイチロウさんへ
シンちゃん、みんなでアライさんの壁を乗り越えましたね!うれしいなあ。シンちゃんひとりに頼らずにみんなでできたのは、シンちゃんのこれまでの積み重ねなんだろうなあ。本当におめでとうございます。
ちまたではパーソナルセッションで持ちきりです☺️が、実はチームであっても上司と部下の個人としてはパーソナルな関係だし、マネージャー(管理職)に業績、ノルマだけでなく、人の成長に気を配ってくれる人がいることが組織や部下にとってどれほどありがたいものであるかは計り知れません。ましてやソリューションフォーカスをまとったマネージャーには敵味方関係なく、今回のように部下に助けられるのもソリューションマネージャーならではの特典でしょうね。
先日の青木さんのカフェの模様はすでにご存知とは思います。パーソナルな関係がうまく機能すれば望む以上の成果をもたらす場合もあるようです。僕は全国のマネージャーがソリューションマインドを取り戻すことを(内心)切に思っています。
世界標準を日本から!
(ちょっと話が大きいかな😅)
チームシンイチロウの益々のご活躍をお祈りしております。
おっくん
おっくん、コメントありがとうございます。
梅雨に入ったかと思ったら、しばらく夏日が続くとのこと。夏はビールも美味いし大好きなんで嬉しいです♪
これまでの積み重ね、なんて言ってもらえて、ちょっと恥ずかしい気持ちもあるけど、素直にうれしいです!
チュウさんは自分の考えをぼくにストレートに伝えてくれます。忙しくて聞いてられないなあって思うこともあるんですけど、そこには必ずチュウさんにとって大切な理由があるんですよね。
あと、ぼくがあまり聞きたくないなあとか、「痛っ!イタタ」って感じるほど、相手の本心だったりするんですよね〜。これまた困ったもんで。
だから、ぼくが相手の話をあまり聞きたくないと思ったら、解決志向へ向かうチャンス。相手が心から思っていることがスタート視点。
「相手は本心を話してくれているぞ。グッとこらえてちゃんと聞こう」って日々努力しております。。はい😅
それでは!
その心がけ、素晴らしいです。頭が下がりますm(_ _)m
チュウさん、シンチャンに追い付け、追いこせや~☺️