SF伝道者の四方山話 N0.14 青木安輝

小さなことを大切に

“Small is beautiful.”というフレーズが流行ったことがある。大きなことにばかり気を取られていると、足元の小さいけど重要な意味があること、そのことを大切にすればその先の良い結果につながっていく小さなことを見逃すぞという警句でもある。ソリューションフォーカスでは、どんなに小さくてもいいから目指す方向に向いてる小さな芽を見つけることを大切にすれば、そこで止まってしまうのではなく、それが育つ可能性があると啓発している。

ソリューションフォーカスを始める前のこと、もう20年近く前になるけど、この逆の例を目のあたりにしたことがある。ある大企業の研究所のスタッフに対して、余計なストレスを生み出さないようにお互い気持ちの良いコミュニケーションを取ろうという趣旨で、メンタルヘルスのプライマリーケア的な研修をした。この部署ではシビアなメンタルダウンのケースが悲惨な結果につながっているケースが後を絶たないという状況だった。

その研修の中で今でも忘れられない場面がある。研修前半のウオーミングアップ的な部分で、2人組でお互いの小さな成功エピソードを聞いて、肯定的なメッセージを返しましょうというワークをした・・・というか、しようと試みた。片方がスモールサクセスについて話す時間が終わり、「では、肯定メッセージを返してください」とインストラクションしたが、誰も口を開かない。変に重い空気感が部屋を満たす・・・。ありゃりゃ!?受講者は一流大学の博士号を持っているような人ばかり、しかも受講態度は真面目。ワークの趣旨が理解できないはずはない・・・というのは僕の思い込みだった。

おずおずと一人の人に近づいて、「今何をする時間かわかってますよね?」と尋ねてみた。すると、「肯定ってホメるってことでしょ?ノーベル賞級の発明に近いことならホメますけどね・・・」と言って黙ってしまった。ゲーッ!!なんという高い基準!!いきなり目の前に上限が見えない壁が立ちはだかった気がした。これじゃあ、毎日敗北感に満たされて、出口の見えないトンネルの中を彷徨う感覚になるだろうなあと、その瞬間そこにいる人々の置かれている状況が見えた気がした。「スモール」の大切さをいくら説明しても、その意味あいを理解する脳の領域がまったく麻痺しているようだった。その研修がその後どうなったかはまったく記憶から消えてしまったが、その場面から受けた衝撃だけはよく覚えている。

さて、話は変わって今度は「小さなことを大切に」の好例。昨年ある販売会社店長向けEラーニングの教材として「SFコミュニケーションの実践法」の動画を制作するために、以前SF研修を受講した店長にその後のSFコミュニケーション実践について取材させてもらった。その際に聞き取らせてもらった話。仮にその店長を吉岡さんとしよう。

吉岡さんに「成果が出せていない、能力が低いと見えるスタッフに対してはどう接しているのですか?」と尋ねると、「どんなに能力が低く見えるスタッフでもよく見ていると『ここはちゃんとできている!』という小さな小さな差異はつくれているんですよ。それを見逃さずにOKサインを送るとさらに頑張ってくれるんですよね。それが大事です。」と回答してくださった。そして具体例を尋ねてみた。

「先日もですね、こんなことがありました。ある女性スタッフが急いでどこかに行こうとしているのが窓の外に見えました。ところがあるものを見つけて、急いでいるにも拘わらず、そのスタッフはちょっと後戻りして何か拾ったんです。どうも小さなゴミのようでした。で、僕はその人に『さっきはあんなちっちゃなゴミまで拾ってくれてありがとう!』と伝えたんです。そしたら恥ずかしそうにしてましたけど、その後彼女が担当している区域はゴミがまったく落ちていないきれいな状態がキープされるようになったんです!」

指先でつまむくらいの小さなゴミ。まさにちっちゃい!それを拾う行為も一瞬のことだ。ところが、そのことの価値を認めて伝えることは、そのちっちゃな行為の価値”感“を最大限に高めてくれる。そして、それで高められた意識は、価値ある行為をさらに増やしていく。

こういう「プラスの眼鏡」が起こす好循環の話しを聞くと、SF伝道者として胸が高鳴る!

冒頭で紹介した世界と戦う大企業の研究所では、「成果」として認められることの大きさが日常感覚とは桁違いであろうことは想像がつくけど、人間がその成果に向かって前進し続けるエネルギーは、大きな成果が出る前の小さな小さな前進を認めたり、喜んだりすることでこそ供給され続けるんじゃないかと思う。この20年間でWELL-BEINGとか健康経営とかに関する啓発が大分進んできたので、その研究所においても、より健康的なコミュニケーション環境を整えていることを祈るばかりである。

さて、今日はある自治体のインターバル研修(*)のちょうど中間地点で、研修パートナーとフォローアップ(ここまでの成果確認)をしてもらう時期だ。それをリマインドするメールでのメッセージでは、「小さなことが大切」ってことを“大きく”強調しておくことにしようv(^ ^)。

(*)インターバル研修:
前期研修と後期研修の間にある程度長期間のインターバルを置いて、学んだことを受講者に実践してもらい、後期研修でその体験や成果を振り返り、深く学びを身に付けてもらうことを狙った研修の形式。

SF伝道者の四方山話 N0.14 青木安輝” に対して8件のコメントがあります。

  1. 豊村博明 より:

    私は現在広島県福山市で福祉施設の事務職として、階層別研修と称して、エルダー層と管理者層の研修のお手伝いをしている。もちろんソリューションフォーカスを中心にした内容であるが、管理者層はSFも2年目に入っていることから、今は現場で日々発生している諸問題に対して、いかに解決志向で臨んでいくかを目標に、リフレクティングを中心にして討議を進めきた。彼女達は現場の仕事が大好きな上、使命感も強い、そして部下想い。なので余計に人間関係で悩むケースも多い。ちょうど、管理者研修を翌日に控えた夜に、青木先生からの「小さなことを大切に」のブログを拝読し、自分自身を振り返るところや、私が彼女達に伝えたかった気持ちの「ど真ん中」の内容でもあったので、明日は是非これを彼女達にそのまま紹介したい衝動に駆られ、青木先生にメールしたら、すぐに「承諾」のお返事を頂いた。
     翌日の管理者研修で早速この文章を朗読した。彼女達は静かにじっと耳を傾けて聴いてくれていたが、私自身がこれを読んでいくうちにさまざまな想いが胸にこみ上げてきた。私達は日頃から自分の使命感で何とかこの問題を完璧に解決しようと意気込み過ぎていないだろうか。
    人、一人が出来ることなんてたかが知れている。仮にすべてうまくことが運んだとしても、自分の力が3割。運が3割。相手に助けられたことが4割ぐらいだろうか。大成功を目指しながら一方でこれから先がどうなるか思い悩むよりも、今自分が出来る足元のほんの些細なことを一歩踏み出すことの方が大切であることをこの事例が示唆してくれているような気がした。
     ソリューションフォーカスの3代哲学の一つに「上手くいっていなかったら別のことせよ。」
    と言うものがあるが、これまで進もうとしてきた方向を全くやめて180度向きを変えるとか、90度違う方向に進んで行くとかではなく、ほんの10度進む向きを変えて歩き出しただけでも、1000歩進めば、そこにはこれまでとは全く違った景色が見えてくる。
     リフレクティングで建設的な意見や解決に繋がる意見がすぐには出なくても、日々、彼女達が真摯に現場で起こっている諸問題に向き合う姿勢さえあれば、おのずと解決に向かっていくように思えてきた。

    1. 青木安輝 より:

      豊村さん、コメントありがとうございます。

      これを読ませていただいて、僕自身のことも振り返りました。僕が株式会社ソリューションフォーカスを始めることができたのも、継続することができたのも、小さなことで良い、小さなことに価値があると折に触れて自分にリマインドすることができたからだと思いました。世の中にあふれる情報は、”素晴らしい”内容のことが沢山あります。するとなんだか自分のことがとっても小さく、大したことない存在に感じられてしまいますけど、僕がした小さなことの価値を認めてくれる人がいたからこそ救われてきたなあと思います。

      豊村さんが研修のお手伝いをしている職場って、小さなキラリを見つけられる目が益々増えそうですね♪

  2. おっくん より:

    青木先生へ

     こんばんは。最近、コラムニスト4人と文通をしているような感覚になっております😊

     ザクロス時代は出社の毎日が現場にいるので、それなりの影響力もあり、小さなことに気を配るだけで改善に向かうことができたようにブログを読んで振り返っています。しかし、現在はWワークのパート従業員で週2〜3日なのでその存在も影が薄いのかもしれません。
     (自分を分析できていませんが)その焦りからでしょうか?成果を急ぐからでしょうか?目の前に現れる問題に対しても、その問題を解決するために格好をつけたがったり、うまくやった自分への評価を気にしている自分がいるようです。慢心というやつでしょうか、決して悪者では無いにしても喜ばしくも無いようです。
     ですから、ブログ記事を読んで「そんなに肩に力を入れることはないよ!」とご忠告いただいたように思うのです。大きな獲物を狙うより、小さなことからコツコツとやりましょうと。青木先生には心の中を見透かされているようですね。
     「小さなことを大切に」して等身大の自分を見失わないよう心がけたいです。本当にタイムリーなブログをありがとうございました

    1. 青木安輝 より:

      おっくん、いつも我々との文通ありがとうございます(笑)♪自分が書いたものが「どう読まれるかなあ?」といつも気になりますが、コメントをいただけると、その「?」が鎮まってくるので助かります。

      今回に限らずおっくんのコメントを読ませてもらうと、このブログシリーズを読むことを自分を振り返る良いきっかけにしてくれているのがよくわかります。多分僕たちが人生の一時期にSFを通じて交流した気持ちの良い交流の記憶が土台にあるから、それが可能なのかなあと想像してます。

      今回のコメントを読ませてもらって僕が思い出したエピソードがあります。20代のころインドのアシュラム(瞑想センター)にしばらく滞在した時に、中庭のお掃除係を任されました。そこはグル(導師)がよく通るところなので「よーし、青木がいかに完璧に掃除したかを見てもらおう!」という欲望がムクムクと湧いてきて、せっせと箒を動かしました。しかし、端まで掃き終えると、また反対側の端に落ち葉が落ちて、「これじゃ完璧じゃない!」と焦って、またそっちを掃くのですが、一瞬たりとも頭で思う完璧にきれいな状態ができあがらないのです。そんなことを繰り返しているうちに、認められたくて認められたくて焦っている自分に気づくことができました。そしてなんだかすごく恥ずかしい気がしたのですが、この気づきにはちゃんと教訓があるなと思いました。「認められたい」とか「自分がすごいところを見せつけてやる」みたいな欲望はこの落ち葉のようになくなることはなくて、完璧と思った瞬間にまたやってくるものなのだと。だから心の掃除は、いつか終わるようなことじゃないし、完璧にできることもないけど、掃除し続けることが重要なんだなあと。

      頭の中のノイズはエンドレス。なくそうと思ってもなくならない。たださっさと掃除し続けよう。これって今でもしょっちゅう思い出しては、自分に言い聞かせてます。

      1. おっくん より:

        「頭の中のノイズはエンドレス」・・・なるほど、このままでいいんだと納得しました!
        そう言えば青木先生の中にも八百万のやっちゃんが居ましたね。最近は悪さをしてないのかしら😁

        1. 青木安輝 より:

          最近は「面倒くさがりやっちゃん」全開です・・・(溜息)

  3. 深山敏郎 より:

    うちの近くの神社の御神木が銀杏です。その葉が3軒先のうちの前の道路にも積もりました。まだ大丈夫、もう少し大丈夫、そんな思いでやり過ごしていました。道路に面している小さな庭の薔薇に水やりをする時に、一緒に銀杏の葉っぱを掃きました。葉っぱをまじまじと見つめると、とても綺麗な黄色でした。高校の時に美術の時間に銀杏の葉っぱを模写した記憶が蘇って幸せな気分になりました。また少し葉っぱが落ちてきて、次はいつ掃き掃除をしようかと内心、わくわくしています。その時は、気に入った葉っぱを2~3枚残しておいて、水彩画でも描いてみようかな、なんて妄想して愉しくなっています。コメントへの四方山でした。

    1. 青木安輝 より:

      深山さん、コメントありがとうございます。今夜の読者caféでもよろしくお願いします。

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